◾︎本山駅、モスバーガーの脇に「秘密の入り口」
いや、実際には秘密でもなんでもないのだが、敷地内へ向かう緑の木々に囲まれた参道の向こうには白い門しか見えず、思いつきで立ち寄るには少々勇気がいる。私は以前から、「敷地の外からではどっからどう覗いても何も見えないのに、緑の大仏がいるらしい」ととにかく気になっていたので、やっとグリーン大仏さまに会える〜とるんるんしながら足を踏み入れた。
◾︎いたるところにインド感
まずお出迎えしてくれるのが入り口から見える、こちらの清浄門。どことなくインド感ある雰囲気に、隣の駅・覚王山にある陽輝荘が思い出された。
左右には古びた池があり、向かって左に位置する池の中央には月と太陽を模しているのか、三日月型、円型がデザインされていた。さらにその池の奥に目をやると、さらにインド感あふれる建物が茂みの奥にチラリと潜んでいる。そして池とその建物を祀るように、手前両サイドに石の塔が。
ーー「なんじゃここは」
清浄門を抜けるとすぐ、日本昔ばなしにでてきそうな、朱が鮮やかな建物とその前に並ぶお地蔵さまが静かにお出迎え。
なんだかテーマパークにきた気分でわくわくしてきた。
さらに進むと今度は竜宮城を思わせる美しい門が。これは実際に、不老門ーー竜宮門とも呼ばれ、この門をくぐると忘れえぬ思い出となると言われており、楼上には経文が刻まれた鐘がある。
壁の白と門の朱、まわりを彩る黄緑のコントラストのなんと美しいことか。
脇にコンパクトにまとめられた竹林も美しく、この寺を建てた人の好きなものをとにかく詰め込んで凝縮したような、こだわりや遊び心を感じる。
と、ここで気づく。
「このお寺、蚊の量が尋常じゃない」
撮影はさっさと、お参りもさっさとすませねば血という血を吸い尽くされそうだ。
身の危険を感じながらも、左からの視線を無視するわけにもいかず、意味深な石碑に目をやると「織田信秀公廟所」と記されている。
蚊がいようとなんだろうと無礼は許されない感じ……。初めまして、おじゃまします〜と一礼して先へ進む。
そしてやっと、本堂のお目見えだ。
なんとなく、地元に根付いている感のある、質素な感じのある本堂は、出入り自由だったのでさっそく中へ入ってみた。
すぐさま目に飛び込んできたのがこの巨大木魚。直径1mはあるだろうか、とにかく大きく立派だ。大きいだけでなく、ていねいな装飾も施されている。あとで調べると、樹齢100年の楠の大木で作られた日本一巨大な木魚とも言われているそう。大きすぎて叩きにくいのか、脇に3段ほどの階段まで置かれていた。
ふと先を見ると「片手で触れただけでも過去の悪行が消滅す」との張り紙が。生まれ変わるチャンス、触らない手はない。
はい、タッチ。
ちなみに別の張り紙いわく、御朱印はこのお寺では取り扱いがないそうな。
ご挨拶をすませて、あらためて本堂を見渡すと古い写真がギッシリと並んでいる。どうやらかつてはよく撮影スポットとして使われていたらしい。
窓際に並べられた椅子や、広くスペースのとられた畳を見る限り、地元の人がよく集った……いや今でも檀家さんがよく集う場所なのではないかと思われた。ぬくもりというか、人の集まる気配というか、よくわからないがとにかく地元愛が強いことが感じられた。
ここまで愛を持って作られているとなると、もしや天井にもこだわりが……? と見上げると、ビンゴ‼︎
入った時には木魚に気を取られていたが、色づかいも鮮やかで見事な天井絵が施されていた。しかしこちらからも、京都とかで目にするような「すごい人がすごい人に依頼されてすごい神経使って描いたんだろうな」というものとは違い、この地や、住職さん、このお寺さんへの愛着がある中で遊び心もありながら描いたのではと思うような、人間らしいユーモアと素朴な温もりが感じられた。
床も綺麗に磨き上げられており、見ているだけでウットリ……するのだが、そろそろそれもここで限界に達する。
というのもただただスゴいのだ。そう、彼らーー蚊たちが少しも悪びれることなく、血を飲んでは毒を残していく。気が狂いそうになりながら、応急処置としてキップパイロールを塗りたくる。さすが、一気に痒みもひくし、厚めに塗ったので蚊も刺しにくそう。あらためまして、らぶキップ。いい仕事するよ、ホントにキミは。
さ、こうしちゃいられない本題を探さないと、と本堂を出て次に見つけたのがこちら、宝鐘。なにやら3周すると「必ず霊験は顕著であります」とのことなので、くるくる回ってみたのだが、先ほど調べたところ右回りでないと意味がないのだという。はい、次回リベンジすることにいたします。
そんな無意味な三回転を続けているさなか……ついに見つけたーーーー!!!!
お目当のド緑大仏さま!!!
茂みの奥にでーんと座っておられます。
やや興奮気味に標識に沿ってルートを進むと、おお、墓石が並ぶエリアを抜けた先にぽっかりと空き地が。そこに静かに彼は佇んでいた。
写真で見る限りでは、少々不謹慎めな緑を想像していたのだが、実際に目の前にしてみると、明るい緑ながら落ち着きがあり、不謹慎さは少しも感じられない。むしろ、足元に装飾された数体の像や僧侶、動物たちの姿がとても丁寧で、想定外に見とれてしまった。
念願のご対面に感謝しながら、とりあえず一周くるり。
やはり近くで見るとなかなかの迫力だ。こんなものがモスバーガーの隣に隠れていたなんて……!
この大仏さまの正面には、なんとも神聖さとはかけ離れた喫煙スペースがあり、ご近所とみられる方がスマホをいじりながら一服されていた。地元に根付きすぎている。ちょうどこの手の指先にチラリと見える石の椅子とテーブルのあたりだ。
この日、ほかに用事もあったのと、再び血の亡者に群がられ始めたので、大仏さまへのご挨拶もそこそこに、またもインド感あふれるお堂にご挨拶をして去ることに。
大仏さまに向かって左サイドにあるこのお堂はどうやら、ペット・動物たちを祀っているお堂のよう。オシャレなお休み所だ。
さて、入り口に戻って、一箇所まわり忘れたところがあることに気づいた。そう、初めに見つけた池の向こうのインド館的建物だ。
脇道からすーっと入っていくと……思った以上にオシャレ! インド好きすぎでしょ、という思わず入れてしまうツッコミは、やはり陽輝荘のときのそれと同じ感覚だった。
中へ進むとまたも張り紙。このお寺、どうやらインドだけでなく、こよなく張り紙を愛す寺でもあるようだ。
ご挨拶をすませてからうながされるままにおみくじをひくと……
吉。
わりかしよい内容に満足して、あたりを見渡すと、ん? 右端の扉に別の張り紙。
と、勝手に人さまの祈願をすませ、今回の大仏さまに会いに行く瞬殺旅を終了することにした。
それにしても像の装飾がとてもキレイだ。
インドもいつか行ってみたいなぁと思いながら来た道を引き返す。
と、なんとなく……そう、本当になんとなく、不思議な違和感を感じた。
せ……「生命之根源」ですか……。ほう。
とりあえずなんの違和感も感じなかったことにして次の予定へと向かったのだが、この夜、この桃巌寺について調べるとすぐに、違和感は気のせいではなかったことを知る。
16歳以上の気になる方は、ぜひ調べてみていただきたい。どうやらこのお寺、結構強烈な珍スポットだったらしい。見所はまだまだある様子。また勇気が出たら、その珍スポットたる所以を見に行こうと思う……。
最後に一つ、この日私は蚊の生命の根源として、50以上もの腫れをつくった。このお寺に行こうと思われている方はぜひ、肌の露出は最低限に、虫除け対策は万全にしていってほしい。そうしてお寺の表の顔と裏の顔(……いやきっとどれも表なのだろうが)をじっくりじっくりみていただきたいと思う。
というわけで、たった20分ほどの滞在だったお寺ではありましたが、かなりの長編レビューにお付き合いいただきまして、どうもありがとうございました。
ちゃんちゃん。