【書籍】1993年の女子プロレス
(-Α-)◎
『1993年の女子プロレス』
柳澤 健 著
入念な取材により真実をあぶり出し、リアルだからこその感動的な人間ドラマを描ききった渾身のノンフィクション『1976年のアントニオ猪木』(↓は文庫版の“完本”)で絶賛された柳澤健による、女子プロレスラーのインタビュー集
『1976年のアントニオ猪木』では、文字通り「1976年」というアントニオ猪木の驚愕の1年間――それは確実にプロレスと格闘技の運命を変えた年だった――を、関係者への取材を元にあぶり出したノンフィクション小説だったわけですが…
まず、本作は小説ではありません。プロレス・格闘技専門誌『Kamipro』の本誌・増刊号(『Kamipro SPECIAL』)及び携帯サイトに連載(?)された、女子プロレスラーへのインタビューをまとめたものです
インタビューした選手他を紹介しますと…
*ブル中野
*アジャ・コング
*井上京子
*豊田真奈美
*伊藤薫
*尾崎魔弓
*ロッシー小川(元全女フロント)
*ジャガー横田
*デビル雅美
*ライオネス飛鳥
*長与千種
*里村明衣子
*広田さくら
…の13人
その他、北斗晶にも『Kamipro』誌上ではインタビューしたものの、単行本収録の許可が出なかったとかで、柳澤氏が'03年5月に『Lady'sゴング増刊 全日本女子プロレス35年史』に寄稿した『北斗晶と対抗戦の時代』が替わりに収録されています。
本書のタイトルにもなっている1993年という年は、第1回K-1 GPが開催され、パンクラスが史上初の全ガチのプロレス団体として旗揚げし、米国ではUFCが初開催された、格闘技界のエポックメイキング的な1年ですが…
女子プロレス界では、当時あった4つの団体が集結してのオールスター戦が初めて開催された年であり…ビューティーペア、クラッシュギャルズのブームに続く、3度目の女子プロブームが起きていた時期でした
(-Α-)結果的に
この“対抗戦”に湧いた時期が、最後の女子プロレスのブームとなっています
この対抗戦による女子プロブームは、世間を巻き込んだブームというよりは、まだまだかなりの数を誇っていたプロレスファン(男子団体のファン含む)が、「男じゃ無理な対抗戦をやってるぞ!」という事で引きつけられたブームだったように思います
本書に『1993年の女子プロレス』というタイトルを付けたのは、そうした“女子プロ最後のブーム”の年をタイトルにしたわけですが…
著者の柳澤氏が『1976年のアントニオ猪木』で名前を知らしめた方なので、「似たようなタイトルにした方が…」と命名された気がしないでもないですね
氏の“猪木本”が厳密に「1976年」の出来事を描いていたのに対し、本書は対抗戦ブームの象徴的な年として「1993年」と付けたに過ぎないというか。
インタビューで語られる内容も、特に「1993年」や“対抗戦”に限定されるわけではなく、各選手のデビュー当時から振り返った内容となっています。
これがまた、抜群の面白さなんですよ
柳澤健という方は「プロレスは格闘技ではありません。あらかじめ結末の決められたショーです。」と、はっきり断言した上で本書を書いています。
しかし、そこには但し書きが付いています…「ただし、命懸けのショーなのです。」と…
この考え方には私もほぼ同意する所ですし、ある程度以上のプロレスファンの方々もそうかと思います。
だからこそ、なんですよ。本書が炙り出した女子プロレスの、かつてあった凄さに驚愕するのは
かつての全日本女子プロレス(通称:全女)では、「押さえ込み」と呼ばれるシュートマッチ(真剣勝負)が、普通に行われていたというんですよ
これはビューティーペアの人気で入門者が殺到した事で、経営者の松永兄弟が「ガチでやらせて強い奴残せ」とふるいに掛けたのが始まりだったとか
普通はルックスだとかスター性だとかでふるいに掛けるはずですよね?
それを真剣勝負で選考しちゃうという、ある意味デタラメですよね
試合においても、ある程度までは相手の技を受け合う“プロレス”をしていて、最後の数分間は“押さえ込み”で勝負を決するという…
この“押さえ込み”は若手時代限定ならまだ理解出来るんですが、最高峰のWWWAタイトルマッチでも「最後はガチ」だった時代が長らくあったらしいです
「だから八百長だって言われると腹が立つ。「どんなに嫌な思いしてきてるんだよ、私は」って。」
“世界で唯一、真剣勝負の実力でプロレス団体のトップに登りつめた偉大なチャンピオン”…ジャガー横田のこの言葉は実に重いですね……
■どうしても「世界でも唯一無二」と思われる“押さえ込みという名の真剣勝負”が普通に行われていたという衝撃的な事実に気を取られてしまうんですが(苦笑)…
本書では“対抗戦”の時代に既にトップだった選手、“対抗戦”でトップにのし上がった選手、そして“対抗戦以降”にデビューした選手と、世代的にも多岐に渡って話を聞いているので…
女子プロレスの歴史を紡ぎ出すという意味でも、なかなか興味深い話が満載…というか、全ての話が興味深くて面白いです
選手それぞれの話には矛盾もあったりするんですが、それはやはり「人間は自分を正当化する」生き物ですし、悪気はなくてもそう思い込んでいたり、という事で…その矛盾すらも面白いです
■『Kamipro』誌上などでインタビューしている時には、最終的には聞き手でもある柳澤氏が、話をまとめてドキュメント小説風にするのかな。と思っていたんですよ、私。
それがインタビューをそのまま並べただけの単行本化という事で、ちょっと期待外れとも思いました。
私の考えとしては、やはりドキュメント小説風に書き上げて欲しかった思いを拭いきれないのが正直な所ですが…それでもなお、この一冊は名著かと思います
選手のインタビューをそのまま載せたからこその生々しさ。
インタビューだからこそ滲み出る感情。
そうしたものをそのまま読者に届けよう、書籍として残そうというのが、柳澤氏の狙いだったのではないか?
そう考えています。
昨今の女子プロレスには、はっきり言って興味ないんですよ、私
そんな私、またかつての女子プロレスだってそれほど熱狂してのめり込んだわけじゃなかった私が読んでも、メチャクチャ面白かった本書。
かつての女子プロレスにちょっとでも触れた事のある方
是非お手に取って一読をお勧めします
“世界最狂団体”全日本女子プロレスの真実に、驚愕し、鳥肌が立ち、感動する事でしょう
(-Α-)yー~~ムフフ