「傑作じゃねえって!何の罰ゲームだよ、コレ!」
愛らしく舞織は微笑む。
「ペアルックですう」
「コスプレだ~!」
叫ぶ人識は、それこそ愛らしい制服を着ていた。女子の。
「似合ってますよう、さすがは人識くん」
「嬉しくねえ。そしてどうして舞織ちゃんは学ランなのかな?」
愛らしく舞織は微笑む。
「ペアルックですう」
嗚呼、公開処刑。
一方、私と廉は。
「藍花さん、可愛いね」
「廉も素敵よ」
私は藍色と桃色のボーダーセーター、廉は藍色と緑色のボーダーセーターを着て、
婚約者ペアルックを楽しんでいた。
私の気合いの入ったお洒落に、廉が微笑む。
ちゅ。
そして、肝心の凛は黒一色の服装でまとめてきた。
ちょっとハードな感じ。
ペアルックではなかったのか。
「凛、ペアルックじゃないの?」
廉が実の兄(双子)に不思議そうに尋ねる。
「統一感で愛を出してみるのさ」
統一感?
私と廉がアイコンタクトでどう尋ねるか討論する間に…、
「行こうか」
凛はさっさと行ってしまった。
こうしてダブルデートは始まった。
「凛の彼女ってどんな人だろう?」
「気になるわよねえ」
ランドセルランドでデートをするのだ。
団地妻の絵画展と書かれた電車の広告を眺める。
最も天国に近い遊園地。
絶叫マシンが大好きな私と、単に遊園地が好きな廉と凛。
「凛の彼女は絶叫マシン、好き?」
その質問に…、
「好きみたいだね。乗りまくるから」
仲良くなれそうだ。
ランドセルランドの入場ゲートのそばで立っている女性。
彼女が凛の彼女だと一発で分かった。
白一色のロリータ。リボンで結ばれた髪がふわふわと揺れる。
「統一感?」
「ある意味、統一感よね」
女性に駆け寄って行った凛において行かれながら、言葉を交わす。
そばまで行くと、私は自己紹介をした。
「私は鈴月藍花。藍色の花で藍花。21歳、女性よ」
凛が少し呆れる。
「男性には見えないよ?そこの自己紹介の意味はなにさ?」
「会話の中の不思議だよね。僕は立川廉。凛の双子の弟だよ」
無表情な白い女性はしばらく沈黙し、
「………朧坂幽深。幽かな深みで、ゆうみ」
あまり喋るのが得意な方ではなさそうだ。
しかし、私は好感を持った。
「よろしくお願いするわ、幽深ちゃん」
聳え立つ巨大なる、建築物。流線型の美しい…ジェットコースター。
「藍花さん、これ、好きだねえ。僕はちょっと怖くて、苦手」
がくがくがくがく。
凛が物凄く、震えているのだがどうしたのだろう?
「いやあ、凛、実は絶叫マシンは苦手で…」
「うるさい」
反論の声にも覇気がない。
「幽深が好きなものに一緒に乗れなくて、何が彼氏だ。俺、頑張る」
あ、涙目。
幽深に聞かれないよう配慮された会話。
彼女は…、
「………絶叫、する…快感」
少し離れて見ても分かるくらいに、わくわくしていた。
そして、私たちは乗り込んだ。
トルネードビッグバンという名の、最強の名をほしいままにするジェットコースターに。
動き出す、トルネードビッグバン。
私は楽しくて楽しくて…、
「きゃはははははははははッ」
「わーっ!」
叫ぶ廉。叫ぶ凛。廉は若干楽しそうで、凛は若干顔が蒼い。
そして…、
「………楽しい」
幽深は無表情に楽しそうなオーラを全力で放っていた。
そして、生還。
「まあ、楽しいっちゃ楽しいよね」
そんな廉に、
「本当。全力で最高に楽しいわよね」
都合のいい解釈をする私。
「………凛、とても、楽しかった」
純白のロリータでジェットコースターを楽しんだ幽深は小さく、笑みを浮かべた。
あら、本気で可愛い。
その姿はまるでこの世界に舞い降りたひとりの天使のようだった。
当然、周囲の目線も集まるが、主に、男性の視線が集まるが、
凛の姿を見て、がっくりと肩を落とす。
「美男美女のカップルよね」
「ホント、ホント!絶世の美男子と絶世の美少女って感じだよね」
20歳だという幽深に少女は失礼かもしれないが、
その言葉はとても似合っていた。
少しやつれた凛が言う。
「どの口が言うか」
聞こえていたらしいがどういう意味だろう?
「美男美女って…」
廉と顔を見合わせた。理解不能。
それからレストランで食事をすることになったのだが、
私はお手洗いに行くふりをして作品作りに精を出した。
トルネードビッグバンで全力で叫んでいた女性。
彼女を死者にし、【叫】と刻んだ。
「本当にいい叫びだったわよ」
レストランではグラタンを食べた。
幽深とはんぶんこした。
けっこう量が多かったので。
その頃には、私と幽深は打ち解けていた。
食べに走る男性陣を尻目に話をする。
「………本当は、知ってるの」
幽深が微笑む。天使だ…。
「凛が、絶叫マシンを苦手なこと?」
「………そう。気持ちが、嬉しいから。一緒にって」
乗ろうと言ってしまうのだろう。
「なんだかんだで楽しそうにしてるから、いいんじゃないかしら」
「………ねえ、藍花」
「なあに?」
「………お友達になって」
「幽深ちゃん」
私は意識して優しく語りかけた。
幽深は人間関係が苦手なのだ。
「私たちはもう、お友達でしょう」
こうして午後の部が始まり、終わり、男性陣はお土産を持たされてくたくただ。
「俺、幽深を送っていくから」
「がんばれー」
「………藍花」
「メールアドレス」
「………え?」
「交換しましょ。メールでも話しましょうよ」
私たちはメールアドレスを交換した。
「じゃあね」
「………またね」
廉とふたりで家に帰ると、お土産を広げた。
家賊、みんなの分を買ったのだ。
それぞれに分配していく。
「姉ちゃん、楽しかったか?」
人識が訊く。
「ええ」
満面の笑みで答えてやると、人識は、
「傑作だぜ」
と、照れた。
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