零崎藍織の人間吟遊 【偽】 | ばいばい

ばいばい

遥か望む彼方の光
君を照らし出さなくていい
狂おしい花びらを舞い散らせて
堕ちる桜を抱いて 眠る

 私は手帳に記念日を刻み込む。
 【犠牲宣詩】でかりかりと。
 孤独だった私。
 刻まれる記念日。
 家賊の誕生日、廉と出会った日、廉と付き合いだした日、婚約者になった日。
 幸せな自分は信じられないけれど…現実だ。

 サクリファイスコードは笑った。


 急に真面目な瞳をする舞織。そして、…言う。
「人識くんに女装を」
 またも公開処刑が始まるのか。
 いや、始める。

「舞織ちゃん、費用は気にしなくていいわ」
「さすが、おねえさん」


 私と舞織はショッピングモールで服を漁る。
「可愛い系も良いけれど、胸さえ誤魔化せば、セクシー系も」
 私の呟きに妹は、
「素敵な姉を持って幸せですう…はう」
 何か、妄想している。

 たぶん、女装した人識だ。


 ドイツ軍人の格好をした女が歩いていた。
「な、なんですかあ…あれ」
 狼狽える舞織に、
「ちょっと待っててね」
 と、声をかけると、

 女に話しかけた。

「素敵な格好ね」
「それは皮肉か?俺のこれは罰ゲームだが」
 一人称が俺。素敵ね。

 さり気なく物陰に彼女を誘導すると、死者に変えた。
 刻む言葉は【偽】…彼女は偽りだらけだったから。

 素敵な作品ができたわ。
 内心呟きながら、舞織のところへ戻る。

「芸術は爆発だーですう」
 おどける舞織に、
「今回は爆発はしてないわ。【怒】の時は大爆発したけど」
 びく。
 うん?舞織の様子がおかしい。

「な、なんでもないですう。あの時のおねえさんがどんな殺人鬼よりも恐ろしかったわけじゃあないんですう」
 なるほど。あの時は切れていたからね…。

「ゴスロリはどうかしら?」
「………さ・い・こ・う」

 舞織は、舞い踊るようにドレスを選んだ。
「ヘッドドレスと、あと首には何を飾るといいかしら…」
「これです、ヘッドドレス!さいっこうに可愛いです。首輪はこれです!」
 ミニスカならば、絶対領域が必要だ。
「ガーターベルトよ」
「なんと」

 結構な出費だったが構わない。
 人識を虐めるためならば、多少の犠牲は厭わない。

「楽しみですねえ」
「そうね。楽しみね…くすくす…」


「やめろおおおお、この、暗黒姉妹いいいいいっ」
 叫ぶ人識。
「自分じゃ着られないでしょう?ゴスロリ」
「人識くん、舞織ちゃんは見たい…恥辱に塗れる人識くんを」
 抵抗する人識に言う。
「軋識兄さんと互角の腕力の、私の体術、受けてみる…?」
 白旗を上げる人識。
「傑作だぜ、傑作だぜ、傑作だぜ」
 あ、壊れた。

 美しく、可愛らしく、飾り付けられた人識は、私たちに撮影され、
「あにきがかえってくるまえにおわらせてくれ」
 燃え滓のようになりながら言った。


 そして私の手帳にはゴスロリ姿の人識の写真が張り付けられ、
 ゴスロリ記念日ができた。

 来年もやろう。




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