例えばあの大戦争の勝者が、今現在の現実と違っていたら…。
なんて、考えてしまったのは、彼女が正義だったから。
たとえ悪役をやっても、ただの役なのだ。
彼女はそう…、〈人類最強の請負人〉…。
「一晩経ったカレーは美味しいでしょう?」
「最高だ」
潤ちゃんは、美味しそうに昨日のカレーの残りを食べる。
「最強だ」
「さすがですう」
「あの女に残りもん、食わすなんて…」
「傑作ですう」
「おい、舞織ちゃん」
「てへぺろ☆」
「傑作だぜ…」
潤ちゃんは疑わしげに、このふたりのコントを見ている。
何か、私たちに対する隠し事があって、
それを、人識と舞織が暴露しないか危うんでいるらしい。
「まさか潤ちゃんが、大戦争の勝者だったなんてね」
「大したことねえって、あんな親父」
親子喧嘩だったらしいのだが、父親の方が勝たなくて良かったのだろうな、と思った。
「嬉しいこと、考えてくれんじゃん」
読心術か。
さすが最強。
「藍花さん、行こう!」
今日は廉とデートだ。
「らぶらぶして来いよ~」
「いってきます」
何故か潤ちゃんに言って、私たちは家を出た。
「さあ、零崎が始まりますよ――」
今回のデートは食事も兼ねている。
寒い冬の風に、身体を縮めていると、廉が寄り添ってきた。
「愛してるよ」
肩を抱かれる。
顔が真っ赤になったのが分かった。
「藍花さんは可愛いなあ」
「うるさい」
小さく、反論する。
「人識が大検の資料、見てたよ。本気かな」
「…どうなのかしら」
幸せそうに歩く母娘。母親の方を作品にすると決めた。
「私が母親」
「僕は娘」
死者の彼女に【犠牲宣詩】で【慈】と刻む。
慈愛に満ちていた顔は少し苦痛を漂わせている。
「もっと、素早く、殺すべきね」
反省点を挙げる。
廉は娘の方を食べていた。
むしゃむしゃがき、ぼりっ。
「クレープ買ってくるけど、食べる?」
「がるる…」
わずかに首を振った。横に。
私は、目の前で生地を焼いてくれるのが嬉しい、美味しいクレープショップで、チョコバナナクレープを買った。
廉のところに戻り、もふもふと食べる。
もこもこのコートがちょっと邪魔だ。
フードを外して無心に食べる。
美味しい。
お腹が空いていたので、なお、美味しい。
不意に廉識が笑った。
「ふふ、ふふふ…」
「どうしたの?」
零崎廉識に尋ねる。私の、婚約者に。
「愛しい人と食事をするのって、幸せだね」
「そうね」
心が温かい。
家に帰ると、潤ちゃんはいなかった。
「やっと、帰ってくれたですう」
「助かった。傑作…だああああああ」
「黙りなさい」
人識を殴りつける。
「ごがっ」
「おねえさんって、強いですよねえ。軋識おにいさんと腕相撲してて、びっくりしましたよお」
舞織が、感心した風に言う。
ちなみに、その勝負、負けた。根に持っている。
「入れ違いになったのね」
「仕方ないね」
私たちの日常は、ゆっくりと過ぎていく…。
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