零崎藍織の人間吟遊 【色】 | ばいばい

ばいばい

遥か望む彼方の光
君を照らし出さなくていい
狂おしい花びらを舞い散らせて
堕ちる桜を抱いて 眠る

 ガン保険に入りませんか?
 テレビを見ていると、そんなコマーシャル。
 そういえば、癌になった殺人鬼の話は聞いたことがない。
「殺人鬼、癌細胞殺人説」
 ちょっと違うかしら?

 今日はひとりでお出かけしよう。
 寒いけれど、公園の芝生でも眺めよう。


「行ってくるわ」
「いってらっしゃい。藍織ちゃん」
 サラリーマンごっこをしないで家にいた、双識兄さんが声をかけてくれる。

 さて、


「零崎が始まりますよ――」

 もこもこのコートを着て、てくてくと歩く。
 自動販売機を見つけたので、『温かいゆず』と言うジュースを買った。
 表示などをよく見ると、レモン果汁3% 香料…と書いてあった。
「ゆずは入ってないのね」
 突っ込みどころが多い。いや、2つ。

 ジュースを片手に、公園へ向かう。
 公園に着くと、ベンチに座って、ゆっくりと『温かいゆず』を飲んだ。
 美味しかった…。
 恐るべし、香料。


 ここで、私の仕事の話をしようか。
 私は詩人として、細々と活動している。
 本を2冊出した。
 私の宝物だ。
 時折、思い出したように売れる、と編集者さんが言っていた。

 物思いに耽っていると、ナンパされた。
「お姉さん、俺と遊ばない?」
 色目的の馬鹿男だ。

 作品にしてやろう。

 【犠牲宣詩】を取り出し、死者の肌に【色】と刻む。
 藍色の鮮やかな、万年筆の先が血に塗れて光る。

 軽く、【犠牲宣詩】を振ると、血液は取れて、飛んで行った。


 その場を離れ、広い公園の藤棚の下のベンチに座る。
 やっぱり、お尻が冷たい。

「寒いわね」
 帰ろうかしら。
 すると…はらりはらりと雪が降ってきた。
「綺麗…」

「藍花ちゃん」
 あら、凛だわ。
 振り向けばそこに、と彼は言った。

「廉!」

 ぎゅ。

「愛してるよ。藍花さん。もう帰ろうか?」
「ええ」
 嬉しくなって、顔がほころぶ。

「………藍花」
「幽深ちゃん!?」
 いちゃいちゃしてるのを見られた!

「じゃあ、俺たちも」

 ぎゅ。

「………凛」
 無表情ながら、嬉しそうな幽深。


 私たちは幽深の家に行くことになった。
 意外に近いらしい。
 広大な公園の端と端を離れた辺りだから、私も幽深も互いに気づいていなかった。

 幽深はひとり暮らしをしているという。
 その家のなかは…ファンシーだった。なんとなく天蓋付きベッドがありそうな感じ。
「ずいぶん、可愛いのね」
「………凛の趣味」
「…」
「…」
「幽深にぴったりだろう!最初は殺風景でな。なはは」

 そういえば…、

「凛のカレーはどうだった?」
「………とっても、美味しかった」
 幽深は微笑む。可愛いなあ。1つ年下なだけなのに、この可愛さ。
「藍花さんだって、可愛いじゃない」
 廉の言葉に、驚いた。
「以心伝心って、やつかな」
「ありがとう」

 そのまま、幽深の家でまったりした。
 凛がどこかへ消えたと思ったら、ケーキを4つ買って戻ってきた。

 争奪戦になった。
 4種類の中で好みのものをと、火花を散らす。

「…よし、じゃんけんだ」
「同意するわ」
「僕、じゃんけん弱いんだけど…」
「………勝つ」

 さいしょはぐー、

「じゃんけん、ぽん!」

 凛・チョキ、廉・チョキ、幽深・グー、私・グー。
 2人&2人の勝負。

「じゃんけん、ぽん!」

 結果発表
 1位・幽深、2位・私、3位・廉、4位・凛


「なんでだよおおおおお」
「ま、まあまあ…凛に勝った…ふふふ」
「………私、最強」
「まあ、妥当な立ち位置ね」


 幽深はチョコレートケーキ、私はレアチーズケーキ、廉はプリンパフェケーキ、凛はシフォンケーキ。
 みんなで食べる。

 もふもふ…私がレアチーズケーキ、好き…と幸せに浸っていると、
 幽深が、
「………ちょっと交換」
「いいわねえ」
 チョコレートケーキも美味だった。

 廉が、
「女子は楽しそうだなあ」
 と、笑うと、
 凛が、
「俺たちもトレードするか?」
 と訊いていた。

「いや」

 一刀両断。

 まあ、仲の良い双子だ。
 ケーキを食べ終わると、私たちは帰路に着く。


「あああ姉ちゃんたち、なんか美味いもん、食っただろ」
 人識の、嗅覚…。
「ケーキを食べたの」
「お土産は?」
「ないわ」

 ずううううん。

 落ち込む人識。
「今度、買ってきてやるから、な」
 凛が慰める。

「いちばんに選ぶのは私よ!」
「レディファーストだね」
 私は甘いものが大好きだ。
 妄想は止まらない。
「1度、マカロンが食べてみたいわ。それより、GODOVAのチョコレート!新作が出たのよ…それにね、それにね…」

 浮かれる私に、廉が笑った。




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