お雑煮は途中でアレンジしないと飽きられる。
それを警戒して、
「お雑煮、アレンジしなきゃ」
と、呟いたのが、全ての間違いだった。
朝、廉のキスで目覚めると異臭がした。
「藍花さん、愛してる。それと、恐ろしいことが起こってる」
ま、まさか。
その、まさかだった。
双識兄さんが、お雑煮のアレンジと言う名目の破壊行為を行ったのだ。
そのとてつもない料理はまるでクリームシチュー…。
しかし、私は見てしまった。
砂糖が大量に減っているのを…。
「どうして捨てるんだい!?」
「ごめんなさい、兄さん…あれ、砂糖だったのよ…!」
「え!?」
アレンジどころか、作り直しだ。
まあ、仕方がないわね。
「お友達と会ってくるわ」
「いってらっしゃい…」
「いってらっしゃい。藍花さん、双識さんを慰めて…」
確かに空気が重い。
「嫉妬しないでね?」
「え?」
双識兄さんに、満面の笑みで言う。
「お兄ちゃん、大好き」
いつの間にやら仲良くなっていた、新・直木三銃士。
絡新婦ちゃんにメールアドレスを聞いて、少しずつ、接触を図った。
「藍ちゃんも大変だな」
朝の一件を話すと、鬼童丸さんが言う。
「にーちゃの言うとおりです…。お料理、大変?」
いつぞや、すれ違った女の子…と言っても20歳だが、雲外鏡ちゃんも言う。
「なでなで、なのです」
絡新婦ちゃんに、頭を撫でられて、ハーレムと化している。
「台所に鍵でもつけたらどうだ、藍」
あむちゃんが素晴らしく、画期的なことを言う。
「鍵をつけるわ!」
「即、採用か」
にやりと笑うあむちゃん。
「さあ、零崎が始まりますよ――」
囲まれているが、この面子をたかだか20人程度の、手練れとはいえ、たいして高度でもないプレイヤーになんとかできると思っているのだろうか。
作品に【鍵】と刻んでいると、鬼童丸さんが笑った。
「よっぽど、その案が気に入ったんだな」
「光栄だね」
あむちゃんがふざける。
新・直木三銃士と別れて、ホームセンターに行った。
鍵、それもそう簡単には外せないもの…。
家に帰ると凛に、台所に鍵をつけてもらった。
「ありがとう」
「俺、こういうの得意だからさ。なはは」
兄に抱きついて甘えた。
「藍花さん、双識さんなら鍵くらい外すんじゃ、わわっ」
廉に思い切り抱きつく。
「愛してる」
さて、仕上げに行こうか。
「やあ、藍織ちゃん。どうしたんだい」
私は哀しげな顔をして、言う。
「私、兄さんのお料理でお雑煮が駄目になって哀しいのよ」
「えっ、えっ。藍織ちゃん、泣かないで!」
目薬完備。
「だからね、台所に鍵をかけたの。閉まってる時は…開けないで」
すう、と涙を零す(勿論、目薬)
「分かった!鍵を壊したりなんて、決してしないよ!」
「ありがとう…お兄ちゃん」
笑顔になると、兄さんが至福の表情を浮かべている。
そこまで、お兄ちゃんと呼ばれたいか。
「藍花ちゃん、最強だな」
こっそり見ていた、凛が褒めてくれる。
「これで、平和だね…」
廉はほっこりしている。やだ、凄く可愛い。
突如として現れた、人識と舞織が口々に言う。
「傑作だぜ。これで、姉ちゃんの飯ばっか食える」
「双識お兄さんのお料理は、悪の実験でしたからあ、で」
「で?」
「人識くん、おねえさんが大好きなのはよく、よーく、分かりました」
「いや、そんなことは」
「舞織ちゃんは好きですか?」
「うっ」
「好きじゃ…ないんですか…」
あ、泣きそう。どうするお兄ちゃん。
「だ…」
「だ?」
「大好きだ」
「………」
「舞織ちゃん?」
「うわああああん」
「うぎゃあ、どうしよう、嫌われた!」
慌てる人識に言ってやる。
「喜んでるのよ」
「へ?」
むっぎゅううううう。
「くはっ!」
驚く人識。
抱きつく舞織。大粒の涙を零しながら、舞織は、強く、兄を抱きしめる。
「舞織ちゃん…」
人識はそっと、抱き返す。
「傑作だぜ、妹なんて、大好きだ」
妹の髪を撫でる人識が、少し、大人になった気がして…。
頭をくしゃりと、撫でてやった。
そして、ふたりに抱きついて、
「大好きよ」
家賊は仲良しがいちばんだ。
その時、実家から訪ねてきた、燕識が驚いていたので、手招く。
「どうしたんですか、わ」
3人をぎゅっと抱きしめると、燕識がくすぐったそうにする。
本当に、家賊は仲良しがいちばんだ。
桃織や、逃識や、ほかの家族もみんな抱きしめたい。
ひとりひとりに襲撃をかけるか。
「くす…」
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