零崎藍織の人間吟遊 【鍵】 | ばいばい

ばいばい

遥か望む彼方の光
君を照らし出さなくていい
狂おしい花びらを舞い散らせて
堕ちる桜を抱いて 眠る

 お雑煮は途中でアレンジしないと飽きられる。
 それを警戒して、
「お雑煮、アレンジしなきゃ」
 と、呟いたのが、全ての間違いだった。

 朝、廉のキスで目覚めると異臭がした。
「藍花さん、愛してる。それと、恐ろしいことが起こってる」
 ま、まさか。

 その、まさかだった。
 双識兄さんが、お雑煮のアレンジと言う名目の破壊行為を行ったのだ。
 そのとてつもない料理はまるでクリームシチュー…。
 しかし、私は見てしまった。
 砂糖が大量に減っているのを…。

「どうして捨てるんだい!?」
「ごめんなさい、兄さん…あれ、砂糖だったのよ…!」
「え!?」

 アレンジどころか、作り直しだ。
 まあ、仕方がないわね。


「お友達と会ってくるわ」
「いってらっしゃい…」
「いってらっしゃい。藍花さん、双識さんを慰めて…」
 確かに空気が重い。
「嫉妬しないでね?」
「え?」
 双識兄さんに、満面の笑みで言う。
「お兄ちゃん、大好き」


 いつの間にやら仲良くなっていた、新・直木三銃士。
 絡新婦ちゃんにメールアドレスを聞いて、少しずつ、接触を図った。

「藍ちゃんも大変だな」
 朝の一件を話すと、鬼童丸さんが言う。
「にーちゃの言うとおりです…。お料理、大変?」
 いつぞや、すれ違った女の子…と言っても20歳だが、雲外鏡ちゃんも言う。
「なでなで、なのです」
 絡新婦ちゃんに、頭を撫でられて、ハーレムと化している。
「台所に鍵でもつけたらどうだ、藍」
 あむちゃんが素晴らしく、画期的なことを言う。
「鍵をつけるわ!」
「即、採用か」
 にやりと笑うあむちゃん。


「さあ、零崎が始まりますよ――」

 囲まれているが、この面子をたかだか20人程度の、手練れとはいえ、たいして高度でもないプレイヤーになんとかできると思っているのだろうか。

 作品に【鍵】と刻んでいると、鬼童丸さんが笑った。
「よっぽど、その案が気に入ったんだな」
「光栄だね」
 あむちゃんがふざける。


 新・直木三銃士と別れて、ホームセンターに行った。
 鍵、それもそう簡単には外せないもの…。


 家に帰ると凛に、台所に鍵をつけてもらった。
「ありがとう」
「俺、こういうの得意だからさ。なはは」
 兄に抱きついて甘えた。

「藍花さん、双識さんなら鍵くらい外すんじゃ、わわっ」
 廉に思い切り抱きつく。
「愛してる」

 さて、仕上げに行こうか。

「やあ、藍織ちゃん。どうしたんだい」
 私は哀しげな顔をして、言う。
「私、兄さんのお料理でお雑煮が駄目になって哀しいのよ」
「えっ、えっ。藍織ちゃん、泣かないで!」
 目薬完備。
「だからね、台所に鍵をかけたの。閉まってる時は…開けないで」
 すう、と涙を零す(勿論、目薬)
「分かった!鍵を壊したりなんて、決してしないよ!」
「ありがとう…お兄ちゃん」
 笑顔になると、兄さんが至福の表情を浮かべている。
 そこまで、お兄ちゃんと呼ばれたいか。


「藍花ちゃん、最強だな」
 こっそり見ていた、凛が褒めてくれる。
「これで、平和だね…」
 廉はほっこりしている。やだ、凄く可愛い。

 突如として現れた、人識と舞織が口々に言う。
「傑作だぜ。これで、姉ちゃんの飯ばっか食える」
「双識お兄さんのお料理は、悪の実験でしたからあ、で」
「で?」
「人識くん、おねえさんが大好きなのはよく、よーく、分かりました」
「いや、そんなことは」
「舞織ちゃんは好きですか?」
「うっ」
「好きじゃ…ないんですか…」
 あ、泣きそう。どうするお兄ちゃん。

「だ…」
「だ?」
「大好きだ」
「………」
「舞織ちゃん?」

「うわああああん」

「うぎゃあ、どうしよう、嫌われた!」
 慌てる人識に言ってやる。
「喜んでるのよ」
「へ?」

 むっぎゅううううう。

「くはっ!」
 驚く人識。
 抱きつく舞織。大粒の涙を零しながら、舞織は、強く、兄を抱きしめる。
「舞織ちゃん…」
 人識はそっと、抱き返す。
「傑作だぜ、妹なんて、大好きだ」
 妹の髪を撫でる人識が、少し、大人になった気がして…。
 頭をくしゃりと、撫でてやった。
 そして、ふたりに抱きついて、
「大好きよ」

 家賊は仲良しがいちばんだ。

 その時、実家から訪ねてきた、燕識が驚いていたので、手招く。
「どうしたんですか、わ」
 3人をぎゅっと抱きしめると、燕識がくすぐったそうにする。

 本当に、家賊は仲良しがいちばんだ。

 桃織や、逃識や、ほかの家族もみんな抱きしめたい。
 ひとりひとりに襲撃をかけるか。

「くす…」



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