零崎藍織の人間吟遊 【闇】 | ばいばい

ばいばい

遥か望む彼方の光
君を照らし出さなくていい
狂おしい花びらを舞い散らせて
堕ちる桜を抱いて 眠る

 闇の能力者…舞織が妙に気に入って見ているアニメだ。
 しかし、気づいたほうがいいわ。
 貴女の周りにいるのは…そして貴女自身も殺人鬼であるということに。
 闇の能力者、なのよ。

 舞織の武器は【自殺志願】(2代目)、である。
 双識兄さんが何処かから持ってきた、
 双識兄さんのものと全く同一の鋏である。

「かっけーなあ、舞織、この鋏!」
 零崎一賊に参加すると突然言い出した、冷織が言う。
「双識、ぶっ殺してもらっちゃおうかなあ…ははっ」
「冷織くん、セクハラをされて終わりだと思うわ」
「………」
「………」
 冷織と舞織のお寒い沈黙。
 兄の人望の無さが窺われる。
 そして、ある意味、人望を集めている。

 冷織が本気で向かって行っても、双識兄さんには敵わないと、その沈黙が語っていた。


「えっと、藍織、デートしようぜ」
 苦肉の策がそれか。
 まあ、双子の姉とのデートも悪くないかもしれない。

「舞織ちゃんは闇の能力者の録画を全て見るですう!」
 そこまで好きか。



「さあ、零崎が始まりますよ――」


 藍織と腕を組んで歩くのが夢なんだと叫んでいた冷織のために、
 腕を組んでやる。

 今の冷織は近代的若者ファッションだ。男性の。
 私は、少し、可愛らしく決めてみた。

 白いコートに白いマフラー。
 マフラーが風になびく。

「やっぱり、今日の作品のテーマはあれしかないわ」
「楽しそうじゃん、嬉しいぜ」

 冷織は私の頬にキスをする。
 こうした接触は昔からよくあった。
 私が自傷行為をすると、何も言わず、ただ、優しく抱きしめてくれた。


「闇…闇…闇…」


 恐ろしく、不自然な台詞をぶつぶつと呟く青年。
「決定だわ!」
「安易だなあ!」

 死者となった彼に【闇】と刻む。【犠牲宣詩】が煌めく。
 藍色の万年筆を、うっとりと見つめていると、

 【屠殺宣紙】を片手に歩いてくる冷織が見えた。
 冷織はジェノサイドシートと呼ばれる殺人鬼だ。

 ちなみに【屠殺宣紙】は藍色の折り紙である。
 市販のごく一般的なもので、舞織に鶴を折ったりしてやっていた。

「どうして藍色にこだわるのかしら?水色でもいいじゃない?」
「藍織が好きだからに決まってんだろ」
「…冷織くん」
 禁断の愛?
「まあ、私には廉がいるけど」
「廉識には藍織を世界一幸せにしてもらわないとな」
「まあ、冷織くん!」
 いちゃいちゃいちゃ。


 そのあとはクレープ片手の姉妹デートだった。
 チョコバナナクレープとツナフランクソーセージクレープを、
 恋人のように分け合う。

「ねえ、冷織くんの髪って、綺麗なストレートでいいわよね」
「藍織のポニーテールも可愛いぜ」

 ここら辺は普通の姉妹の会話だ。

「私も髪を流そうかしら」
「見てえな!俺もポニーテール、試そう」

 ん?

「ちょっと待って、家賊が誤解するわ。私、冷織くんだと思われちゃう」
「いいじゃん、口を開けば」

 …なるほど。
 私たちが口を開いてひとことでも言葉を発すれば、
 姉妹の区別はつく。

 う…。

「双識兄さんがもし、口を開く前に気づいたら、怖いんじゃ…」
「…変態、こええええええよおおおおおおおおおッ!」
 小声で叫ぶ冷織。

「私は変態ではない」

「きゃああああああああああッ!」
「ぎゃああああああああああッ!」

 其処にいたのは、まさしく…零崎双識、私たちの兄だった。

「どうしているのッ!」
「なんで聞こえたッ!」

「兄さん!」
 声が揃った。


 幸せそうな双識兄さんを連れて、家に帰ると舞織がしょんぼりしていた。
 義手の手で指を組んで、
「闇の能力者の原作者が亡くなったらしいですう…」

「………あれ?」
 双子の疑問符は尽きることがない。

 まさか…まさか、…ね。




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