りんりんりん。
冷織の音が響く。
冷織は勢いだけで生きているから、心配で…首に鈴をつけた。
藍色のリボンに、銀の鈴。
気に入ってくれたらしく、お風呂の時以外、外さない。
眠っている顔に悪戯書きをしようとしたら、
寝ている時も鈴をつけていた。
悪戯書きは、やめた。
「藍織、朝だぞ」
ちゅ、と頬にキスをされる。
後ろから廉が物言いたげに見ていた。
「…」
察した冷織が私の上から退く。
布団の上から、のしかかられていたのだ。
起き上がり、パジャマのままで廉に抱きつき、唇にキスをした。
抱きしめてくる廉の温かい腕…。
「ナウい青春だねえ」
ばっ。
私と廉が離れる。
互いに顔が赤いのが分かる。
ナウいの意味はともかく、青春の意味は分かる。
りん。
冷織が般若のような恐ろしい顔で、双識兄さんを見つめていた。
「零崎、双識…妹の幸せに何した?ああっ?何したんだよッ?」
「冷織…くん?」
「反省文を書け」
「え…」
「口答えすんのか!」
「書きます!反省文を書かせていただきます!…家賊の中でいちばん怖いな」
「何か言ったか」
「いいえ、いいえ、何も、言ってはいないよ」
「じゃあ行くぞ」
身長の高い双識兄さんの腕を引っ掴むと、
冷織はずるずると兄を引き摺って、兄さんの部屋へ消えて行った。
「…藍花さん、冷織くんの作った朝食があるよ。一緒に食べよう」
「待っていてくれたの?」
「婚約者だろう?」
嬉しかった。
「廉ッ」
抱きついて、一緒に台所のお食事スペースへ向かった。
「今日は僕とデートしてよ」
「ええ。勿論よ」
どんな格好をして、廉に可愛いって思ってもらおうかしら。
私はパジャマのままで思案した。
「どうッ?」
「………」
沈黙。
「似合わない…かしら」
この身を包むのはゴシックロリータのドレス。ヘッドドレスも付けた。
完璧な…はず、なのに。
「か、」
「か?」
「かわいいいいいいいいいいいいいいいいいっ」
廉が絶叫した。
「今日の作品のテーマは【美】にしてよっ。そうでなきゃ釣り合わないよっ」
「え?え?え?」
ぎゅ。
「途轍もなく素敵だ。似合ってるなんてものじゃないよ。僕の…誇りだ」
嬉しくて、嬉しくて、涙が眼の端に溜まった。
完璧なメイクを崩してなるものですか。
涙腺を叱咤激励する。
涙が引っ込むのを確認すると、廉に笑顔で、
「廉も私の誇りよ!」
「さあ、零崎を始めましょうか――」
今日は廉の食事も兼ねてのデートだ。
「首だけの美少女」
「なあに?藍花さん」
「首筋に刻まれた【美】…」
「それ…凄いいいよ。きっと、藍花さんの次に綺麗だ」
「くす…」
身体の部分は廉識が食べれば問題ない。
丁寧に食べてもらわなくては。
街を放浪すると、運命の少女に出会った。
黒い髪、瞳、白い肌、赤い唇。
車椅子の少女。
介助者は傍にいない。
少女を死者にすることも、物陰に引き摺り込むことも容易だった。
「素晴らしい作品ができるわよ…零崎藍織と、零崎廉識の」
廉識は丁寧に少女を食らって行った。
足から順に上へと…。
脚、腰、腹、胸、腕…首から上だけの美少女の首を廉識は作り上げた。
私は【犠牲宣詩】で少女の首に【美】と刻んだ。
【美】を持ち上げ、車椅子に乗せる。
廉識が丁寧に食らったため【美】は車椅子の上で立った。
「最高だわ…」
「素敵だね」
そこから離れると、私たちは普通のデートをした。
ケーキを買って家へ帰る。
人識が玄関で行き倒れている。
「腹…減った…」
「ケーキがあるわよ」
中身を見せてやる。
色とりどりのたくさんのケーキ。
「姉ちゃん…最高」
「廉と割り勘よ?」
「廉識の兄ちゃん、最高に傑作だぜ」
紅茶をいれて全員でケーキを食べる。
がつがつと必死な人識。
「………」
「嗚呼、ゴスロリ?」
うんうんうん。
人識以外の家賊が頷く。
「廉のためにお洒落をしたの」
人識は聞いてはいまい…、
「最高に可愛い姉ちゃんだ」
あら、油断ならない弟だわ。
「とっても、幸せよ」
双識兄さんの視線が廉に突き刺さる。
冷織のフォークが双識兄さんの手の甲に突き刺さる。
「アイタ」
「妹の幸せに嫉妬すんなっての。喜べ」
りんりん。
同意するように鈴の音が響く。
舞織が笑った。
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