2013年にトニー賞を席巻したミュージカル『キンキーブーツ』。
初めての日本人キャスト版が現在上演中だ。

いやはや、ビックリした。

正直、最初にキャストを聞いたときは不安だった。
ドラァグクィーンのローラ役が三浦春馬だったからだ。
線の細い三浦春馬、しかも本格的ミュージカルが初なのに
こんなに難しい大役ができるものなのか?と思ったのだ。

地球ゴージャスなどで観た三浦春馬は身体能力が高く、
舞台人としての素質があることは分かっていた。
しかし、ブロードウェイミュージカルとなると話は別。
しかも、これは『キンキーブーツ』のローラだ。
劇場全部の賞賛をかっさらうほどの実力が必要。

ひとりでスポットライトを浴びてドレスを身に纏い、
感情たっぷりに思いっきり歌い上げる曲だってある。

ドラァグクィーンとしてステージに登場した三浦春馬を一目見て、
私はすでに涙ぐんでいた。明らかに身体のシルエットが違う。
『ごくせん』のときから他の少年たちから浮きまくりの
圧倒的な演技力を見せていた彼だったが、
その演技力が大爆発していた。登場しただけで、大爆発。

その眼差しが、指先足先までの筋肉のすべてが雄弁で、
エンジェルたちを従えて踊る動きは誰よりもキレがあった。
(エンジェルズも超肉体派かつ実力者揃いなのに)

一体、どれほど必死で身体を鍛え、どれほど必死で稽古したのだろう?

最後に、一番不安だった歌声。
ミュージカルの発声を徹底的に叩き込んだのだろう。
まったく遜色がない歌唱力。低く響く美声。
音程こそ多少不安定になるものの、そもそもが難曲ばかり。
「歌いこなしていた」と言っていい出来だった。

私は、新たなミュージカル大スターの登場を確信した。

『キンキーブーツ』は単なるコメディミュージカルではない。
父と息子の葛藤、自分自信を信じること、
他人をありのままに認めること、そういったテーマが
ストレートかつ巧みに表現されている深い作品だ。

フラフラとテンション低めに登場するチャーリー(小池徹平)と、
ドラァグクィーン然としてテンションMAXで登場するローラ(三浦春馬)が、
対照的でありながら、パラレルに呼応し合う存在として提示され、
チャーリーはストーリーが進むにつれてどんどん激しく、
ローラはストーリーが進むにつれて徐々に内に向かうという、
非常によく考えられた構成が、根底を支えている。

小池・三浦をはじめとした全てのキャストが、
自分たちの役割を完璧に演じていた。
ソニンは包容力と田舎っぽさ、そして笑いの要素を。
勝矢は物語を動かす心の葛藤を。
他のキャストも(もちろん子役も)本当に全員。

ひとつだけ残念だったのは、歌詞が聞き取りにくかったこと。
最初は歌唱力や滑舌のせいなのか?と思ったものの、
ソニンら超実力者でも聞き取りにくかったので、訳詞か音響のせいだと思う。
訳詞は、英語がそのまま残っていたりして耳に平易ではなかったのは事実。

しかしとにかく、最後に私を包んだのは、尋常ではない高揚感だった。

幸せな時間をありがとう。

そして、三浦春馬さん、ようこそ!ミュージカルの世界へ。
(なんとか喉を潰さずに全公演駆け抜けられますように!)