追憶の旋律 | No Music, No Hunt. 〜戦場でちょっと一曲いかが?〜

No Music, No Hunt. 〜戦場でちょっと一曲いかが?〜

モンハンのプレイ日記です。現在モンハンクロスを遊んでいます!
メイン武器は狩猟笛ですが他の武器も人並みに扱えることを目指して色々触っています(*^_^*)
スタンとれない、旋律切らす、3乙上等のしょんぼり笛吹きの日常ですが、良ければご覧ください!

ここはいったいどこだ…



深い闇の中を手探りで歩いているようないいしれぬ不安。どこへ向かっているのか、自分は何のために歩いているのかすらわからない。ただ何かから逃れるように、ひたすらに忍び寄る得体の知れないものに怯えるように、終わりなき道を歩み続けている…











「うああっ!!!」







男が目を覚ますと、そこは静かな一室のベッドだった。重たい身体を起こして辺りを見回すと、窓から射し込むぼんやりと赤みがかった光が目に入り、今が夕暮れであることを知る。



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「また同じ夢か…」


徐々に覚醒してきた頭で、先ほどまでのへばりつくような不安感が夢によるものだと感じる。眠りにつくたびにいつも同じ悪夢にうなされるが、この妙な現実感を伴った恐怖には未だに慣れない。ただ苦痛を感じるだけの眠りを放棄してベッドから抜け出そうとしていると、かちゃりと静かに扉が開く音が聞こえた。


「あ、起きていたんですね。おはようございます、はおかしいか。もう夕方ですもんね。お目覚めはいかがですか?」

「いつものように最悪です…」


少しだけ開いた扉の隙間から顔をのぞかせた一人の若い女性が様子を伺ってくれるが、そんな答えしかできない自分が嫌になる。



「ちょうど夕食の支度ができたので起こそうかと思ってきたところだったんですよ。食べられそうですか?」


そう問いかけてくる声とともに、扉の隙間から食欲をくすぐる香りが漂ってきた。



「いつもありがとうございます、mocoさん。こんな何の役にも立たない男によくしてくださって、本当に何と言ってよいか…」

「い、いいんですよ、そんなに気を遣わないでください!ようやく怪我もよくなってきたところなんですから!あんなに大怪我をして、それに記憶まで失うなんて、私だったら絶対に耐えられない。困ったときは助け合うのが人間ですから!!何か思い出せるまで、ずっといてくださっていいんですからね!」





そう、男には記憶がなかった。

焼けつくような全身の痛みとともに目覚め、そばにいたmocoから何を聞かれても頭の中にもやがかかっているように何も思い出せない絶望を味わったのは半年前。聞けば小川のほとりで瀕死の重傷を負って倒れているところをmocoたち夫婦が見つけ、家に運んで手当をしてくれていたらしい。自分が何者なのか、なぜ怪我をしているのか、名前さえも思い出せない不安を抱え、また怪我で思うように身体を動かせない中で、嫌がるそぶりも見せずに面倒を見てくれた二人には今でも頭が上がらない。





部屋を出て食卓に向かうと、質素だがとても暖かそうな料理と、落ち着いた雰囲気で新聞に目を通す一人の男が出迎えてくれた。三人で食卓につき、和やかな食事が始まる。


「また一人、例のモンスターにやられたそうだな…かわいそうに…」

「トリノ、例のモンスターってあの?」

「ああ、一つ目のシャガルマガラだ。最近はもう随分奴に挑むハンターも減ったようだし、いよいよバルバレに住み続けるのも考え直した方がいいかもしれないな…」

「トリノ、私怖いよ…」

「大丈夫、何があっても、君だけは必ず僕が守るから…」



穏やかな生活がいつか脅かされるかもしれないという不安。バルバレの住人にとっては逃れられないものだが、一つ目のシャガルマガラという化け物が樹海に住み着いてからというもの、その恐怖はより現実味を帯びて二人を襲っていた。

今自分が与えてもらっている安らぎをいつか返したい、最近はそんな風に思うようになっていた男の中に一つ目のシャガルマガラという名が重なったそのとき、男は頭の奥がチリチリと痛むような感覚を感じた。
心臓の鼓動が高まり、今は癒えかけている傷が疼きはじめる。





「どうしました?大丈夫ですか?」

「痛むんですか?まだお身体が万全ではないので無理せず横になってくださいね?」


男が痛みに顔を歪めているのに気がついたトリノが心配そうに様子を伺う。気遣わしげなmocoの言葉に甘え、男は寝室に戻ることにした。



「少しでもゆっくり眠れるといいんですが…そうだ!いいものがあります!!」



男が立ち上がるのを手助けしようと立ち上がりかけたmocoは、何かを思い出したかのように物置にかけていった。

しばらくして戻ってきたmocoの手にはひとつのふるぼけたオルゴールが握られていた。



「昔トリノがバルバレの集会所に私を連れて行ってくれたことがあったんです。たくさんのハンターさんで賑わっていて、とても元気が出る場所でした。そんな中で一際ひとだかりができている場所があったので、何かと思っていったら一人の笛吹きさんが音楽を奏でてらっしゃったんですよね。とても安らぐ音色で、それを聞くハンターさんたちの穏やかな雰囲気もすごく印象的で…気がついたらトリノと二人で最後まで聞き入ってしまっていたんです。そしたら演奏を終えた笛吹きさんが、よかったら記念にと、これをくださったんですよ。少しでも安らかに眠れればよいのですが…」



そういって手渡されたオルゴールは、華美な装飾などない素朴な作りの木箱だったが、どこか優しい雰囲気を醸し出していた。

横についたねじを巻いてみると最初は頼りなげな音がポツリポツリと出てくるだけだったが、さらにねじを巻くことで徐々に音と音がつながり、旋律を結びはじめた。


優しいけれど、どこか奥底に力強さを秘めたメロディ…


なぜか心にざわめきを感じた男が、よりしっかりとその音色を確認しようと目を閉じたとき、朧げに、帽子を目深に被った一人の男のはにかんだ笑顔が浮かんだ。



まぶたの裏側でその男の口が何かを呟くように動いている…












………………………てる………
















…生きてるって信じてる………











その瞬間、男は心臓が大きく跳ね上がるのを感じた。



オルゴールの旋律とともにたくさんの情景が頭に流れ込んでくる…










スコープ越しに覗いた、大剣を担いでモンスターに立ち向かう逞しい男の後ろ姿。
















モンスターの攻撃に吹き飛ばされた自分のもとへ風よりも早く駆けつける女の眼差し。















いつも自信なさげだけれど、ボウガンの砲撃音に合わせて心地よい音色を響かせる笛吹きの懸命な横顔。
















そして歓喜に満ち溢れた、モンスターとの戦いの日々…




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「思い出した…全部思い出したっ!!!」

「えっ??」


当然のことに何が起こったのか理解できないmocoに、男は半年間溜め込んだものを吐き出すかのように吠える。



「こんなとこにいる場合じゃねぇ!あんのくそ地雷野郎…ぜってえ仕留めてやる!!!」




そういって家を飛び出そうとする男を、慌ててmocoが引き止める。

「待ってください!そんなまだ十分に癒えていない身体でいったいどこにいくんですか!!それに思い出したって…ちゃんと説明してください!」

「そうだった…今まで長い間世話になったなお嬢ちゃん。色々面倒見てくれたこと、感謝してるぜ!俺が寝てる横で毎日毎日イチャコラしてくれたこと以外はな!」

「なっ…///」


突然口調も変わり、態度もふてぶてしくなった男に戸惑いが隠せないmocoを尻目に、男は目をぎらつかせながらまくし立てる。




「世話になった礼っちゃあなんだがな、例のシャガルマガラ、俺が倒してきてやるよ!!」

「そ、そんなこといったって…」

「不安か?よーし一個思い出したことを教えてやろう。俺様の名はたっぴ。超絶ウルトラダイナミックコスメティックガンナー様なんだよっ!」





わけがわからず圧倒されるmocoの後ろで、それまでじっと様子を伺っていたトリノがようやく口を開いた。

「やはりハンターでしたか…あの大怪我といい、鍛え抜かれた身体といい、そうじゃないかって気がしていました。ならば止めても無駄なのでしょうね…少し待っていてください。」


そういってトリノは部屋に戻ると、一台のヘビィボウガンを手に戻ってきた。




「実は私もmocoと一緒になる前はハンターだったんですよ…若い頃はラージャンなんかを相手によく無茶なことをやっていました。でも守るものができてからは、狩り場に出るのが怖くなってしまってね。それ以来脚を洗ったんですよ。」


語りながら懐かしむように撫でている銃身は、ずっと休んでいたとは思えないほど美しく赤銅色の光をたたえている。


「絶衝重砲【怒王】。この銃の名です。私の相棒としてずっと戦ってくれた愛銃です。あなたがこの家に来てから、もしかするとこんな日が来るんじゃないかと思って、手入れしておいたんですよ…どうしてもいくというのなら、連れていってやってください。」


そういってトリノは銃を手渡すと、名残を惜しむかのようにその銃身に触れながら言った。

「絶対に、死なないでくださいね。」



ずっしりと身体にかかる重みは決してその銃そのものの重さだけではなかっただろう。それまで軽口を叩いていたたっぴはボウガンを背負い直し、扉に向かいながら言った。



「行ってくる。mocoと幸せにな…」



















啖呵を切ってでてきたたっぴだったが、勢いに任せて敵の元に突っ込むほど馬鹿ではなかった。村はずれにあった家からバルバレのメインストリートまでは樹海の外れを突っ切ればすぐだ。

まずは装備を整えてから挑もう。そう思いながら歩みを進めていると、遠くからモンスターの叫び声が聞こえる。




「これは奴の咆哮か…ずいぶん浅いところまで出てきてやがるんだな…それと、銃声⁉︎誰か交戦してるのかっ???」


一瞬躊躇したたっぴだったが、ふと仲間たちの姿が脳裏によぎり、根拠のない不安が湧き上がる。




急いで声のする方向へ向かうと、そこには洪水のような地雷の光の中で何故か全員がヘビィボウガンを手に懸命に立ち回る、かつての仲間たちの姿があった。




「あいつら…味なまねしやがって!!」






すぐにその意味を察し、再び仲間と戦うことを想像して高鳴る胸を抑えながら駆け出そうとしたそのとき、目の前に信じがたい光景が飛び込んでくる。







銃を吹き飛ばされ、地面を転がっていくかぼす。


その本能で、残りの二人が浴びせる銃弾を顧みもせず近寄っていくシャガルマガラ。












全身の血が逆流するかのような怒りとともに駆け出したたっぴはかろうじてその銃弾が威力をもつ距離まで滑り込むと、早鐘のようになる心臓を押さえつけてスコープを覗き込む。






「あいつはなぁ…闇雲に撃ってもダメなんだ…あのぶっつぶれた片目…そこに弾ぶち込んでくれねえととまんねえんだよ…」





頭の中では冷静になろうと努めるものの、怒りと、そして長らく戦場を離れたことによる不安が銃口をブレさせる。














時間はない。やらなければ、やらなければあいつは…













「このクソ野郎!お前が今殺ろうとしてるのはなあ!!俺様のもんなんだよおお!!!」











魂の叫びとともに放たれた銃弾が、渾身の一撃を繰り出さんと振り上げたシャガルマガラの左眼に吸い込まれる…






一瞬の静寂の後、荒れ狂うエネルギーを全て集めたその頭は、仲間を貫くことなく地面へと崩れ落ちていった…













かぼすに駆け寄り、歓喜と安堵の入り交じった声を上げる仲間たちの姿。








「はっ!あいつら、結局俺様がいねえとだめじゃねぇか…」


立ち上がろうとする膝には全く力が入らない。






「いっちょかっこよく登場してやるか…!どうせ泣きながら飛び込んできやがるんだろ…」


抱え込んだ赤銅色の銃身が、雨でもないのに濡れてゆく。







「おれ…おれも…」












「ここに…いるよお…!」













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死闘の気配が抜けない樹海に開けた水場に、魂の銃弾が奏でたハーモニーがいつまでも響き渡っていた…











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