アルティメット人狼10・第3部・第2戦(10-6) 振り返り⑤【3日目】 | 古川洋平のブログ

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クイズ王/クイズ作家・古川洋平のブログ。
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【ノエルvsコエル】

ここで、少し懐かしい話をさせて頂きたく思う。
2018年7月、「人狼TLPT MISSIONⅢ」という舞台に僕は出演させて頂いた。人狼TLPTは、マドック、デイジー、ダンカンさんらが出演している人狼の舞台で、今さら説明するまでもない、エンターテイメント人狼の最高峰である。
そこに僕は「ノイマン」という役名をもらい、1日限りのゲスト出演をする事になった。
しかし、俳優でもない僕の起用には本番前から賛否両論あり、自分自身もこのオファーを受けて良かったのか悩みながらも稽古に励む日々だった。

そんな中、ノエルと同じ日にゲーム稽古をする事があった。僕の出演日にノエルは出演しないため、この稽古が人狼TLPTとして一緒に人狼ゲームをする最初で最後かもしれないシーンだった。
ゲーム稽古がスタート。自己紹介から僕とノエルは「自分こそがこのマフィアの最高の知能だ」と言い争いをはじめ、2人が推理合戦をする事でどちらが上かを証明しようという筋書きになっていった。(TLPTには筋書きが無く、その時その時でストーリーが作られていく)
僕とノエルは自分の知性を誇りながら推理をぶつけ、最終的には2人が手を取り合って人狼を殲滅するというエンディングになった。正直に言うと、僕よりノエルのほうが推理は合っていたのだが、共に戦い競い合った仲間として、一度でも物語の中に共存できた事が、嬉しくて仕方なかった。


時は過ぎ、アルティメット人狼10。
今、僕はそのノエルと対決する立場で舞台に立っている。
昨日残したメッセージ、人狼に伝わっていて欲しい。
どうか、ノエルと戦わせてくれ。



夜が明けた。僕はGMに肩を叩かれる事なく、舞台に戻った。
スクリーンには、安西さんの写真が血しぶきとともに表示され、客席からは悲鳴にも近い声があがっていた。でも安西さんは顔がかっこいいので、今後の人生も楽しい事が多いだろうから、ここはちょっと我慢してもらおう。

安西さんはデイジーが占った人間。人狼陣営にとってシンプルに噛みたい相手である。



3日目参加者
【マドック、ノエル、デイジー、古川、メアリ、児玉、森本、大野、イシイ】


森本さんが身内切りをしていないとすれば、ここまで昼に処刑された中田さん、村中さんは森本さんに投票されているため人間。よって、これが人狼陣営にとって事実上の最終日であるはずだ。あとは、森本さんが吊ろうとしている相手を、僕はそしらぬ顔をして吊り推していくだけである。


皆が着席する。さっそく、占い師が同時に結果を言うことになった。

「3・2・1……」
「古川さんが人間です!」

デイジーが占ったのは僕。僕だ!
噛まれず、占われるという昨日立てた目標は、無事達成できた。潜伏狂人としての仕事はある程度果たした事になる。
しかし、デイジーが僕を怪しんでいるという観点は、僕が人外である事からも全くはずれていない。今回はたまたま色が違ったという事だけであり、改めてデイジーの精査能力の高さには唸らされた。

そして同時と言っているのに全然結果を言わない森本ご主人。

「すいません、名前が出てこない……ノエルさんが、人狼です!」

ちょっとかわいい一面を見せつつも、しっかりと道を示してくれた!わかりやすいがとても助かる、シンプル・イズ・ベストな黒出しである。
こうして、ノエルが人間であった事がほぼ確定事項となり、僕は今日、ノエルへの投票をする事を誓った。
ただ、僕はデイジーを信じているというスタンスであるため、急に森本信者になってはいけない。むしろ投票の時までは逆の思考を示すほうが、ノエルは処刑しやすいのだ。

この思考を開示する。
僕の推理が正しければ、今日は人間陣営が5人、人狼陣営が4人の日である。
つまり、人間が誰か1人でも間違えた瞬間に、人狼陣営が勝利する。
村人からすると、デイジー陣営につくか、森本陣営につくかの日である。
もし、僕が「ノエルが人狼だったのか!森本さんが真だ!」と言っていた場合。他の村人がそれを見て「いや、偏るのは危険だ」と思う可能性がある。
得てして人狼ゲームというのは、票の偏りが嫌われがちだ。ともすれば「怪しいと思うけど票が集まりすぎなので他の人に投票します」とか「ちょっと怖いので並べる票にします」とかいう投票をしがちである。
つまり、僕がデイジー側についていれば、バランスをとって森本さん側につく人が1人でも現れるのではないかと期待した動きである。これは人狼陣営の時に有効な動きなので、読者諸氏も覚えておかれると、どこかで使う機会が来るかもしれない。来ないかったらごめん。



森本さんは「占い先はノエルと古川の2択だった」と明かした。もし僕が人狼だと言われていたら状況はだいぶ違っていたので、森本さんのこの発言が本当か嘘かは別として、ノエル黒で本当に良かったと思った。


「人狼と言われたノエル、ショータイムだ」

マドックのその言葉をきっかけに、ノエルが怒涛の反撃を開始する。

「昨日僕に投票した人を確認させて下さい」

昨日ノエルに投票した履歴があるのは、古川、メアリ、森本、イシイ。

「つまり僕の仲間は大野さんか、児玉さんか、マドックか」

相方となりえる人がいないと証明を試みるが……

「ごめん、俺はノエルをかばいまくってる」

児玉さんが横槍を入れる。児玉さんはおそらく人狼だ。ノエルのこの論の展開をさりげなく疎外している。

流れを変えるようにマドックが立ち上がる。

「古川にどうしても聞きたい事がある」

マドックは昨日、決選投票で僕がノエルから村中さんに投票を変えた話をしようとする。

「いやマドック、デイジーは本物だよ」

しかしノエルがそれを止める。ノエルからすればデイジーの白である僕への嫌疑は時間の無駄。その話をしている暇がない。
ただ、狂人の僕としては最高のパスが来た瞬間である。これを活かさない手はない!

「ノエルに投票する可能性があるから、マドックの質問に答えたい」

僕も立ち上がりマドックと対峙する。無駄な議論で時間を潰すつもりはないが、今日森本さんが吊られた場合に自分が生き残るための重要な要素になりうる話だ。外せない。
(後に確認したタイムシフトでは、「古川が決戦で票を変えた理由を誰か聞いてくれ!」という意見が多かった。マドックの観客目線での展開力は凄まじい)

なぜ投票を変えたのか?の問いに、僕は「グレーの中に狼がいると推理する場合、僕が全員と切れる事が重要だった」と返した。これは村人としても筋は通っている意見である。ただ、実際に村人の僕がそれをするかは別ではあるが……
デイジーからの白結果も手伝って、僕はしどろもどろにならない程度の論理を兼ね備えれば、今日は大きく怪しまれる事はないと踏んでいた。

「結果、ノエルの事を人狼だと思う?」

今度は児玉さんが僕に聞く。ここで「今日はノエルに投票する!」と返さないのは、先ほど述べた理由の通りだ。

「人狼(の可能性)があると思っいて、でも森本さんを偽だと思っているからそこを悩んでいる」

あくまでデイジー側につきながらも、ノエルに入れる理由も残している。わずか1分未満のやりとりだったが、今日の自分にできる事はおそらくやれた。そして、児玉さんは……おそらく僕を狂人だと思い始めている。

そこからはノエルと森本さんの信用勝負となった。言葉数が少ないながら信用を勝ち取り始めている森本さんに、完璧な論理で巻き返していくノエル。見応え十分な勝負も、タイムシフトで見るコメントは「ノエル・コエル(僕)の両狼」という意見が大半。あれだけやりあったのに!それほど、決選投票でおかしな事をした僕の信用は無かった。でもそれで良かった。僕の信用が落ちれば、森本さんの信用は上がる。

「森本さんを偽者だと思う事は、ノエルに投票しちゃダメですよ!」

そこに助け船を出したのはデイジーだ。冷静に、今日が最終日となる可能性を改めて村に伝える。人狼巧者が集まったアルティメット人狼とはいえ、舞台の上で混乱は起きる。そして何より大きく観客の皆さんが見ている。こういう発言は本当に大事だ。

デイジー・ノエル軍は、森本さんへの投票を促す。
森本さんは、もちろんノエルへの投票へ誘導している。
両者目線、主張は「人狼が一匹も吊れていない可能性があり、今日間違ったら負けるかもしれない」である。

紛糾したまま、議論時間は終了した。村人全員が、迷っている。そんな雰囲気だった。


1票目、ノエルが議論を引き継ぐように投票棒をとった。
森本さん目線の人狼が絞られている事を、その人狼候補となっている村人たちへ語り掛ける。
「森本さんは偽物です!」
強く締めくくり、票を投じた。

ノエル→森本①

2票目、森本さんが返答する。
「確かに3人の中に人狼はいるんですが……敵はあんまり作りたくないな……」
森本さんは村人に間違わせるのが今日の仕事。この心情は狼としても本心だろう。
マドックを怪しみ、僕にノエルに入れるよう懇願して、投票を終えた。

森本→ノエル①

3票目、マドック。主張は「ノエル人間」。森本さんから怪しまれた事もあり、森本さんへ投票。マドックは複数回森本さんに投票している事から、おそらく人間だ。そして、我々人狼陣営が最後に戦うべき相手だ。

マドック→森本②

4票目、デイジー。白先であるメアリさん・僕を信用すると残し、対抗の森本さんへ3票目を投じた。

デイジー→森本③

5票目、大野さん。すでに3狼はおらず、中田さんが人狼だったという推理。これ自体は人狼にとってありがたい考え方だが、投票は森本さん。大野さんには人狼の目があったが、昼に強い意見を落としてなかったのでもしも人狼なら今日はノエルに入れられるはずだ。それをしなかった。これでほぼ人間だろうか。

この投票で、森本さんの劣勢が明らかになった。後ろに控える人狼と僕で巻き返せるか。無理そうなら、僕も森本さん投票の必要がある。まだ待ちたい。

大野→森本④

6票目、イシイさん。投票先は……ノエル!
「古川さんを人狼だと思っているんですよ。古川さんの人狼位置を言って下さい、お願いします、信じたい」
デイジーの真が下がった事でのノエルへの投票。これは僕が献身した「人狼が一番投票しやすい理由」。一度決戦で森本さんに投票している事は気になるが、やはりイシイ・児玉・森本の3狼がかなり濃厚だ。ここからは総力戦となる。

イシイ→ノエル②

7票目、メアリさん。今日の僕の意見(みんなと切れるために決戦で村中さんに票を変えた)を聞いて、人間だと信じる事にした。森本さんは狂人だと思うが、狂人でノエルに黒は打ちづらいと思う。ノエルには人狼の可能性を高く感じる。その3点で投票はノエルとなった。メアリさんは人間(デイジーの白)だが、人狼陣営が打った布石を、スキルと感度の高さゆえに拾ってしまった形となった。しかし、それほど状況は拮抗していた。

メアリ→ノエル③

人間であるメアリさんがノエルに入れた事で、後は児玉さんさえ人狼であれば、ノエルを吊れるという事になる。児玉さん、頼む……!!

8票目、運命を握る児玉さんが動く。
「ノエルに投票します。古川さんの事は信じてるけど、古川さんの推理が正しいかはわかりません」
児玉さんは僕が狂人であれとおそらく思いながらも、最後まで取り込む事も忘れない。最終票を持つ僕に語り掛けながら、票を並べた。

児玉→ノエル④


9票目、最終票。前日まで怪しまれ決戦にあげられた僕が持っている。投票棒を取る。

「デイジーが本物だと思います。森本さんが偽物だと思います。」

もしも翌日PPならば、ここで狂人COでも良い。ゲームシステム上必要ない発言。ただ、

1.本当に確実にPPかはわからない
2.観客の皆さん、視聴者の皆さんは答えを知らない

この2点から、僕は思考を述べた。

そう、この試合が始まる前、思いを馳せたのは、マドックの魅せる人狼プレイ。観客をも騙し、驚かせ、熱狂させる、ある種のカタルシスを感じさせるエンターテイメント。
そしてそれを等身大で体現した七海とろろの1部MVP。自分にはできないプレイだと諦めかけたのを、思い直させてくれた3部1戦目のダンカンさん処刑。
地味なプレイヤーで終わらない、最後まで騙し切る。それはまだ結末を知らない村人を。そして何より、観客の皆さんを、視聴者の皆さんを。

「その上で、ノエルが人狼じゃないと、数が合わないです。デイジーを信じた上で、ノエルを人狼だと思って、投票します!」

見ている人はどう思っただろうか。タイムシフトのコメントは「古川が人狼仲間のノエルに身内切りした」「古川はこれで白くなった」という意見に別れていた。視聴者の視点と観客の視点が同じならば、この時の会場はおそらく、どっちともつかない、少し気持ち悪いような、この後の事を考えると楽しみなような怖いような、そんな雰囲気だったのではないだろうか。みんなが静かにノエルの遺言に耳を傾けた。

「中田さんと村中さんが人間だったら明日はパワープレーです。続く事を願ってます。デイジーがかわいそうだ……」

消沈ともとれる声色で、ノエルは人間の勝利を最後まで願った。

僕は……その逆だった。

森本さんが身内切りをしておらず、中田さんと村中さんが人間である事。ノエルとは逆の事を、強く願っていた。



ノエルとコエル。今回の2人の運命は、1票差でのノエル処刑。

誰よりも早く僕の人外に気付いた存在。唯一の黒打たれにして、偽占い師を吊り返す直前まで追いこんだ存在。僕が勝手に思う最強のライバルにして、憧れの存在。



ノエルが、死んだ。



(つづく)