(②~)
ラブラブのフランス観光を経て私たちは一緒の便で帰国します。
ミュージカルで大成功を収めたソンジェは一躍時の人に…
「アジアの貴公子」
そう呼ばれて、誰もがソンジェに釘づけ。
私はこのタイミングで自分と比べちゃう。
アジアを代表するトップスターソンジェ。
誰からも気付かれることのない駆け出しの女優の私。
空港でソンジェの少し後ろを歩きながら私はそっと呟く。
「私なんかがとなりにいていいの」
…そのモヤモヤはどんどん増殖していきます。
ふたりきりになっても手放しで浸れない。
ソンジェの映画の主演が決まったという喜ばしいことでさえ、自分の価値を下げることにしか思えない。
様子がおかしいよとか言われるけど。
俺の前ではムリしないでとも言われるけど。
…あなたの前が一番苦しいんです。
「ソンジェさんは私なんかが恋人でいいんですか?」
「まあたヘンなこと言い出した」
ってソンジェはあまり取り合ってくれない。
やさしくされれば
されるだけただ苦しくて…あなたの成功が私との隔たりにしか思えなくて…
そんな自分もたまらなく嫌で。
早く隣にいてもはずかしくない女優にならなくては…
その強い気持ちは気持ちの分だけ空回りして負のスパイラルに入り込んでいく…
とうとう仕事にも支障をきたしてマネージャーから一週間の休養を提案されてしまう。
ソンジェさんには言わないでほしいとお願いして私は部屋に引きこもる。
…ソンジェさんからは相変わらずメールや電話が途切れない。忙しいからといくら私が曖昧な返事を返そうと、そんなことは関係ないよう。
今日もまた電話。
会いたいな…顔を見て話をしたい。
そう言うソンジェさんの声は変わらずやさしい。
会いたい
でも会いたくない
「私も会いたいです。でも仕事が忙しくて…」
その時、ピンポーン
インターンホンが来客を告げる。
「誰か来たんじゃない?」
誰だろうこんな時間に…
モニターを見た私は震えてしまった。
ソンジェさんが
悲しそうな目で
こちらを見つめていたから…
エントランスのドアを開けてから次のインターホンが鳴るまでは驚くほど早く。ドアを開けると息を切らしたソンジェさんが心配そうに私に向かって手をのばす。
頬に触れた手は
温かくて…
もうそれだけで涙が出てきそう。
④に続く