さっきまで近くて遠かった君が
僕の腕の中にいた。
そっと髪にKissをする。
ああやっぱりあれはシャンプーの香り…
一緒に歩く時は少しだけ後ろを。
座っている時は膝に僅かに触れて。
君が立ち止まると僕も止まった。
距離を保ちながらも今日は決めたい。
バレンタインパーティだし。
君の彼氏役だし。
心の距離を縮めるチャンスを狙って…
今日はずっと焦ってる。
そんな中での君からのチョコはホントにホントにうれしくて…
ワインの威力でふらふらで…
もう我慢できなくて君を引き寄せた。
愛しくてたまらないよ……
…
「…酔ってますか?」
えっ?
「外に出ましょう」
あっ…うん、そうだね。
かっこよくて大人な完璧Knightを演じきれず君に手を引かれて外に出る。
声は遠くに聞こえるのに手のひらでは確かに君を感じた。
ああクラクラする…
君も僕のこと…そうなの?
by ユナク
……
……
ユナクさんに連れられて小道に入り込むと知らない景色が広がった。
オレンジ色のランプが隠れ家のような扉を照らす。
私たちはこっそりパーティを抜け出した。
今度は私がユナクさんに手を引かれる番…
ユナクさんおすすめのバーのカウンターへとやっと辿り着いてふたりきり。
「はあ…」
私はユナクさんの隣で幸せなため息をついた。
カクテルも何もかもユナクさんにお任せ…
「モヒートとこちらバレンタインのデザートです」
目の前にライムとミントの葉があしらわれたロングドリンクが差し出された。
フォンダンショコラには真っ赤な苺とハート型の淡いピンク色のマカロンが生クリームと共にデコレーションされてる。
「わあ」
思わず歓声を上げるとユナクさんが私の顔を覗き込んでああよかったと呟いた。
小さくてやさしい声…
デザートはユナクさんの注文で作った特別仕様なんだそう。
いつの間に連絡したんだろう?
「さあ早く食べてみて」
ユナクさんはとにかくうれしそう。
私がおいしいとユナクさんはうれしいの?
私がうれしいとユナクさんは幸せなの?
ユナクさんがうれしいと私も幸せ
ユナクさんは間違えなく私の特別…
私が食べるのをただ見つめて微笑む。
私もユナクさんの特別だったらいいのに。
私のモヒートもユナクさんのモヒートもどんどん進んであっと言う間に帰らなきゃならない時刻に…
いつのまにか呼んでくれていたタクシーにはユナクさんも乗り込んで…
タクシーの後部座席でピッタリユナクさんの体温を感じながら、離れたくないと心から思う。
いつもの見慣れた街並み…
いつもの曲がり角…
思いに反してタクシーは私の家の前に止まってしまった。
ユナクさんも私に続いて降りて来て
「寒いね」と肩をすくめる。
暖かいタクシーの中に戻ってほしい。
戻ってほしくない
帰りたくない…帰らないで…帰さないで
心の中でユナクさんに甘えて離れ難くて…
きっとモヒートのせいだね…
「本当はまだ一緒にいたいけど、今日は遅いから…また今度…」って言ったくせに、また今度…の後もユナクさんは私をずっと見つめてたりもして。
マフラー緩んでるよってユナクさんが私のマフラーをほどいてしっかり巻き直してくれたりもして。
うん。これで大丈夫だ。
寒いから…ねっほら、
早く戻らないと…そう言いながら
もう一度そばに来てユナクさんがポンポンと私の頭に触れたりもして。
ユナクさんもなかなかなかなか帰れない…
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「うん」
ユナクさんのやさしい「うん」と、やさしい眼差しに満足してやっと離れて
振り向いて
背を向けて
エントランスへとゆっくりと踏み出す。
諦めてタクシーの走り出す音を待った。
ん?
タクシーの音がしない…
振り向くとタクシーに寄りかかるようにしてユナクさんが私を見ていた。
ユナクさんは手を振って大きく口を動かす。
それは「またね」と読み取れて
私はコクリと頷き返した。
END
今日の寝る前の一曲は
♪「君だけは離さない」
大好き‼︎