分厚い一枚ガラスからの柔らかな日差しはそれほどの温度を孕んでないからか
チョコレートアートはマットな質感を保っていた。
どこもかしこもチョコ…
バラもハイヒールも動物たちも…
ネイルチップでさえチョコ。
絵画もチョコ。チョコの濃淡で表されたアンティーク仕様の風景に君は感心して見入ってる…
作戦成功かな?
絵の話をすると、君は必ず身を乗り出して目をキラキラさせるからここに連れて来たかったんだよね。
ほら、チョコは何で溶いて描いてるんだろう?なんて僕に熱心に聞いて来たりしてる^ ^
テレピン油じゃないことは確かだよって答えると、楽しそうに微笑んだ。
ああその笑顔を僕がキャンバスにとどめておきたいよ…
…さっき選んだバレンタインに着てほしい服は君に着てほしい服。
試着してもらったくらいじゃ君基準でコーディネートしてることとか伝わらないのかなあ。
ああ、きっと僕なんていい友だち止まり。
チョコでできた馬のアートに夢中になってて君に「かわいい」なんて言われちゃう。
君があこがれてる人はかっこいいのかな?なんてふと気になること思い出したり。
ここは「かっこいい」の方が断然よかったのにな…
ブツブツつぶやいてると
「ゴニルくんはもうちょっと強引にぐいぐい行ってもいいのかもよ」
なんて君が言う…
ひと休みのカフェでホットチョコレート飲んでる時も
「気になる人はそれを待ってるかも」
なんて君は言う…
そのままじっと僕を見つめる。
君の手が僕に伸びる。
僕の唇に触れる。
えっ?
君の手のひらは僕の右頬に添えられ
親指だけが唇をスッと撫でて
中指の先の感触を最後に残して離れて行った。
「ゴニルくん、チョコ付いてた」
…官能的でさえある仕草はそのセリフで
ああそういうことだったのかってなんでもないことみたいになってしまう。
でも僕だけのスローモーション…
柔らかさも温かさも焼き付いてしまったよ
今度は僕が手を伸ばす…
君の言葉も後押しになって。
ホットチョコレートを飲む幸せそうな君。
前髪を人差し指と中指で軽く挟んでスライドさせてそのまま君の左耳にそっとかけた。
「チョコ付いちゃうよ」
「…⁉︎ 」
君は驚いたみたい。
「そ、そんな感じでいいんじゃないかなあ?ほら…気になる人のアプローチ…」
今ドキッとしちゃったしとか言ってる
それはこっちのセリフだよ
by ゴニル
ショコラチークのイベント当日2月14日は快晴…
キッチリ衣装を着こなしたゴニルくんはキャッチコピー通り魅惑的な大人な彼氏。
ゴニルくんが選んだ服をバッチリ着こなした素敵なモデルさんと並んで
黄色い歓声に包まれて完璧な微笑みで手を振って…
遠い存在だ…
ゴニルくんの気になる人って
ああいう世界のああいう人だよね…
大盛況でイベントは終了。
華やいだ余韻とはうらはらに私の気持ちは暗く沈んでいた。
裏方として、このプロジェクトの責任者として、最後までベストを尽くす。
ちょっと翳った気持ちの罪滅ぼしのように黙々とひとりで片付けをした。
気がつけば周りに人影はなく。
バックに手をかけ、
ゴニルくんに渡すはずだったチョコを見つめた。
チョコレートアート美術館のロゴの入った小さな包み…
ゴニルくんがじっと見つめてた馬の形のチョコレート
渡したかったな。
④に続く☆