窓からふり注ぐすでに力を持った陽かりを感じて
右手を伸ばして左側を探る。
指先に触れるとそれはすぐにスルリと潜り込んで来るはずだった。
いつもだったらその後は
目を閉じたまま柔らかく抱きしめる…
馴染んだ香りごと深く吸い込んでまたトロトロと眠る…
今日もふたりでゆっくり眠って遅い朝食を食べよう…
キッチンにふたりで立って
お互いに好きなものを作り合おう…
でも、なかなか思ったような感触を手に入れることができない。
ああ…もう君との休暇は終わったんだったと思いながらもまだ諦め切れなくて
目を閉じたままさわさわと右手を動かしてぽっかり空いたベッドの左側を探し続けた。
僕の故郷を君はとても気に入って
ヨットからの街並みにすごくはしゃいだ。
あんなに高いビルがたくさん…
あの橋はきっと1kmはあるよね…って。
「もっとあるよ…ねぇ、それより
シャツ…白の方がよかったかな?」
なんて。
あの時は自分もすごくはしゃいでた。
「赤いシャツのソンモも新鮮で好き」
そう小さな声で言った後…止めるのも聞かないで立ち上がって
離れて行く釜山の港に向かって
「ソンモが大好きぃ~‼︎」
そう君は叫んだ。
隣に並んで、僕も
「葉子が大好きぃ~‼︎‼︎」
なんて。
その後は大きな声対決みたいになって
何度も叫んで…
笑い合ってじゃれ合って…
倒れ込んでそのまま…
…
…
さわさわと探る手を諦めて
掛け布団に潜る。
アラームが鳴ってスマホを手に取ると、ロック画面には君からの電話の着信の表示…
ああ~気づかなかったなんて。
後悔しながらそのまま自然に君とのLINEのトーク画面を開いた。
ぼんやり寝ぼけたまま離れてからのやり取りを遡る。
朝からかなしい…とか
会いたくて会いたくてたまらないよ…とか
なんともこちらは弱々しいのに
君からの言葉は常に力強かった。
『私はソンモに愛される幸せな葉子です‼︎』って、
そんな風に韓国語で書いてくれてることもあって
僕はすぐに、日本語で
『僕は葉子に愛される幸せなソンモです』
って返したりした。
…昨日のおやすみの電話の後に送られて来た写真はお気に入りの白いシャツの僕。
『白いシャツのソンモも大好きぃ~‼︎‼︎』
って言葉付きで。
そしてすぐにまた君から電話がかかった。
聞こえた?って聞かれて
聞こえたよって答えた。
僕たちはとにかく離れ難くて
会いたくて会いたくてたまらなかった。
今は仕事中かな?
声を聞きたいけど
電話はがまんしよう。
『葉子、おはよう!今起きた…さっきはごめんね。』
すぐに一枚の写真が送られて来た。
『赤いシャツのソンモも大好きぃ~‼︎』
そんな言葉が添えてある。
写真の中の幸せなそうな僕は
空も手に入れたって顔してる…
ベッドの左側をさわさわしながら
仕事中なのにって…ふって微笑む。
そこにふいに君からの電話…
えっ?
驚いてすぐに出ると
超ひそひそ声の君は
「聞こえた?」って言った。
「聞こえたよ」
超超ひそひそ声で
今は遠くにいる
君への愛を
僕は叫んだ。
END