楽屋のソファで眠りに落ちたニノを、俺は向かいのソファから見つめながら、指で自分の唇に触れた。
前のを入れたら…
2回も…キス、しちゃった…ニノと…
まだ、かすかにドキドキいう胸の音をおさめたくて、俺は喉に手を当てた。
今までに、ニノと、キスしたいと思ったことがないと言えば、嘘になる。
いつもそばにいて、きらきらした瞳でじっと俺を見つめてきて、俺に屈託無く触れて、落ち込んでいればそっと…何か言ってくれる時もあるし、放っておいてくれる時もある。
ニノはおいらをおいらで居させてくれる。
いつも。
めちゃくちゃ近くでじゃれあってるときとか、お互い酔っ払ってるときとか、キスしたいと思ったことが何度かある。
キスしなかった理由の3分の1は、
男同士だから…やっぱ変なんだろうな…って思いと、
3分の2は、
いつもそばにいるから、
戯れにそんなことしたら、大変だぞ…っていう、ともすれば溢れ出してしまう気持ちに鍵をかけておこうとする、先回りの安全弁みたいな思いのせい。
ニノは、多分酔っ払ってキスするくらい、笑って受け入れてくれると思うけど、
万一、拒否されたり、そのあと壁を作られたりしたら、
何よりも俺が、再起不能になりそうな気がして…
適度な距離を保つのが一番心安らかに過ごせると俺の本能がうすうす感じていたんだろう。
そう思ってた…はずなのに…
さっきの…
なんだったんだろ…
自分でしておきながら、ずいぶんだと思ったけど、ニノが寝てから、俺はしばらく呆然としてニノの寝顔を見ていた。
今までずっと、自分を抑えてたのに、あのザマはいったいなんなんだろ…
いとも簡単に、キスしちゃって…止まんなくなって…
ニノだって、いとも簡単においらにキスさせて…
今まで、ダメだって言い聞かせてたおいらは何なんだよ…
いや、
あれはニノが言ったとおり、
キス…じゃない、か…
薬、飲ませただけだよね。
最後のは、おまけ。
寝ているニノが「ん…」と小さく声を漏らして苦しげに眉を寄せる。柔らかい、と、もう知ってしまった、形のよい唇がかすかに開いた。
おまけ…か…
そういえば昔、夢中になったな…
小さい頃、おまけを目的に菓子を買ったことを思い出して俺は笑みを漏らした。
ああいうの、お菓子は言い訳なんだよな。
売る方も、買う方も…
本当に欲しいのはおまけの方なのに、
取り繕って、
おまけとしてお菓子売り場で売ったり買ったり、
バカみたいだよな…
本当に欲しいのはおまけの方なんだって、
ちゃんと、言えばいいのに。
しばらく子供の頃の事に思いを馳せた後、ニノに再び目をやると、かけてやった俺のシャツがずり落ちそうになっていた。俺は立ち上がって直してやる。
薬が効いてきたのか、ニノの寝顔が穏やかになってきた。