Side S
さっきから、教授の話す内容がちっとも頭に入ってこない。
ぶるる…と手元でスマホが震えた。こっそりメッセージ画面を開く。
『終わったよ』
『どうだった?』
『疲れた』
『お疲れさん』
『英語に関して言うと、英訳問題で「嵐が来る」ってあったんだけど、『嵐』がわかんなくて、ARASHI is comingって書いちゃった…それ以外はだいたいいけたと思う』
名詞の単語がどうしてもわからないときは、日本語ローマ字表記しておけ、と言ったのを覚えていたようだ。
『大丈夫、単語一つわかんなくても、文型あってたら点くれることもあるよ』
『うん。翔ちゃんそう言ってたなあと思って。今、授業中だよね?疲れたからこのまま帰るね。今日はありがとう』
『うん、お疲れ。気をつけて帰れよ?』
チャットみたいにやり取りした後、少し、ニノからのメッセージが途切れた。ややあって、震えるスマホ。
『翔ちゃん…発表…一緒に見に行ってくんない?』
少し途切れた時間が、ニノのためらいを表しているみたいに感じた。
『いいよ。一緒に行こう』
『ありがとう』
メッセージはそこで終わった。
ジリリリリリリリ…
うっるせー…
ばんっと目覚まし時計を止める。
これで、もっかい寝られる…
………
ふと、覚醒して、がばっと起き上がった。
何時⁈
10時‼︎
目覚ましをかけた時刻から1時間経過している。
やっちまったーー‼︎
今日はニノの…
髪をかきむしりながら起き上がると、急いで顔を洗う。
合格発表は10時からだ。9時45分に正門でニノと待ち合わせしていたはずだ。
スマホを見ると、『着いたよ』とニノからメッセージが来ていて、すぐに『ごめん‼︎寝坊‼︎』と返信する。
身支度をマッハで整えて、家を飛び出した。
ママチャリを必死で漕ぐ。コートの裾がはためいた。春に近づいた太陽の光が、起き抜けの体に眩しい。
デジャブだな…
違うのは、ニノが乗ってない。ニノは…
会うのは入試の日以来だった。
正門前に姿を見つけて、胸がドキドキ鳴り始めた。
俯くニノの表情はわからなかった。
怒ってるかな…
約束したのに、寝坊なんて。
ってか、発表…
俺が緊張してきたぞ。
正門前に自転車を止める。あたりには受験生と思しき学生とその家族など、たくさんの往来があった。
正門の脇の樹の下でたたずむニノに近づく。ニノが気づいて顔を上げた。
その顔は放心したように力が抜けている。
「ニノ…ごめんっ…待たせた…」
「翔ちゃん…」
ニノは青白い顔のまま、俺を見上げて、ぼうっとした瞳で俺を見た。寒いのか、心なしか唇も青い。
「せっかく…家庭教師してくれたのに…怒らないでね…俺…俺ね…」
ニノが眉を寄せて小さな声でつぶやいた。
な…
まさか…
ぶるる…と手元でスマホが震えた。こっそりメッセージ画面を開く。
『終わったよ』
『どうだった?』
『疲れた』
『お疲れさん』
『英語に関して言うと、英訳問題で「嵐が来る」ってあったんだけど、『嵐』がわかんなくて、ARASHI is comingって書いちゃった…それ以外はだいたいいけたと思う』
名詞の単語がどうしてもわからないときは、日本語ローマ字表記しておけ、と言ったのを覚えていたようだ。
『大丈夫、単語一つわかんなくても、文型あってたら点くれることもあるよ』
『うん。翔ちゃんそう言ってたなあと思って。今、授業中だよね?疲れたからこのまま帰るね。今日はありがとう』
『うん、お疲れ。気をつけて帰れよ?』
チャットみたいにやり取りした後、少し、ニノからのメッセージが途切れた。ややあって、震えるスマホ。
『翔ちゃん…発表…一緒に見に行ってくんない?』
少し途切れた時間が、ニノのためらいを表しているみたいに感じた。
『いいよ。一緒に行こう』
『ありがとう』
メッセージはそこで終わった。
ジリリリリリリリ…
うっるせー…
ばんっと目覚まし時計を止める。
これで、もっかい寝られる…
………
ふと、覚醒して、がばっと起き上がった。
何時⁈
10時‼︎
目覚ましをかけた時刻から1時間経過している。
やっちまったーー‼︎
今日はニノの…
髪をかきむしりながら起き上がると、急いで顔を洗う。
合格発表は10時からだ。9時45分に正門でニノと待ち合わせしていたはずだ。
スマホを見ると、『着いたよ』とニノからメッセージが来ていて、すぐに『ごめん‼︎寝坊‼︎』と返信する。
身支度をマッハで整えて、家を飛び出した。
ママチャリを必死で漕ぐ。コートの裾がはためいた。春に近づいた太陽の光が、起き抜けの体に眩しい。
デジャブだな…
違うのは、ニノが乗ってない。ニノは…
会うのは入試の日以来だった。
正門前に姿を見つけて、胸がドキドキ鳴り始めた。
俯くニノの表情はわからなかった。
怒ってるかな…
約束したのに、寝坊なんて。
ってか、発表…
俺が緊張してきたぞ。
正門前に自転車を止める。あたりには受験生と思しき学生とその家族など、たくさんの往来があった。
正門の脇の樹の下でたたずむニノに近づく。ニノが気づいて顔を上げた。
その顔は放心したように力が抜けている。
「ニノ…ごめんっ…待たせた…」
「翔ちゃん…」
ニノは青白い顔のまま、俺を見上げて、ぼうっとした瞳で俺を見た。寒いのか、心なしか唇も青い。
「せっかく…家庭教師してくれたのに…怒らないでね…俺…俺ね…」
ニノが眉を寄せて小さな声でつぶやいた。
な…
まさか…