Side O
視線の先にあるのは…
「ほくろ…」
王子は小さく呟いて、ニノの顎のほくろをそっと撫でた。
目をぎゅっと閉じていたニノは、目を開けて怪訝そうに潤王子を見上げた。
王子はしばらく考え込むように黙ってニノの顔を見つめていた。
「まさかな…」
小さく呟いて、王子はニノの顔から手を離した。くるりと俺に向き直る。
「大野隊長、よくやった。この後も引き続き、こいつの取り調べを続けてくれ」
「は…はいっ」
ほっとしたところに、王子の冷たい声が飛んできた。
「でも成果が出ないようなら、すぐ翔さんにお願いするからね」
牢屋を出ようとした王子は、ドアのところで俺に目配せした。
「智さん、ちょっと…」
ニノや、見張りの兵士達には聞かせたくないのか、王子は廊下の端まで移動した。
「あいつへの取り調べ、あんまり痛めつけない方法でやって」
さっきまで冷たそうに見えた王子の眉が苦しげに歪んでいる。
もとよりそのつもりだった俺はこくこくと頷いた。
「場所も…ここは冷えるから、特別に智さんの寝所とか連れて行っていいよ」
「え…」
牢屋の収容者を自分の寝所に連れていくなんて、おそらく普通はないことだろう。
「ただし、さっき言ったことはホントだからね。成果が出ないようなら、あいつは翔さんに…託すから」
潤王子はギロリと俺を睨むようにしながら念を押した。
その瞳の強さに気圧されて、俺は「はい…」とかすれた声で応えた。
「ひとまずはさ…あいつの名前、ちゃんと聞き出して」
「それは『ニノ』と…」
王子はため息をついた。
「智さんも知ってると思うけど、西国も俺たちと同じ。苗字と名前ね。『ニノ』だけじゃ吐かせたことになんない」
王子は真剣な顔で、俺をじっと見た。
「特に、名前…下の名前を早く吐かせてほしい」
そう俺に命じたときの潤王子の顔は、なぜか苦しげで、俺は黙って深く頷いた。