Side O
「カズ…やっぱり俺を…もう覚えてない?」
王子は腕の中に抱いたニノの顔を心配そうに覗き込んだ。
「潤様」
そばに立っていた、白髪の老人が口を開く。確か、潤王子の身の周りの世話をしている爺やだ。
「和也様は幼少のみぎり、潤王子のお名前がうまく発音できなくて、別のお名前で呼ばれていましたよ」
和也様⁈
俺はぽかんとして、潤王子に抱きしめられているニノを見つめた。
「カズ…」
王子が、もう一度名前を呼んだ。ニノは記憶を手繰り寄せようとしているのか、遠い目になった。
「…ジェ…J ?」
ニノが小さく呟くと、また周りの者から「おお…」とため息が漏れた。潤王子は嬉しそうに微笑んで、またニノを抱きしめた。
「そうだよ…J って呼ぶの…カズだけだった…」
「はははっ…他の者は恐れ多くて到底呼ぶことはできませんよ」
先ほど口を開いた白髪の男が笑った。
「あなたが…J なの?どういうこと?」
ニノが目を丸くしたまま、潤王子を見上げて呟いた。
「ああそれは…ひとまず、この手錠を解こう…」
王子は話を始めようとして、ニノと俺を繋ぐ鎖に目を留めた。
「智さん、もう手錠は外してあげて?カズは…亡くなられた和宮様のお子…」
和宮様…もうだいぶ前に亡くなられた、王の側室様…
…え⁈
ってことは…
「カズは…すなわち、れっきとした…この国の王子なんだ」
「マジか…」
ニノが、「お、俺が ⁈ 」と声をあげるのを、俺は夢でも見ているかのようにぼうっと見ていた。
牢屋番と捕虜、だと思ってたら…
王子と牢屋番だった…ってこと⁈