「カズは…俺の異母兄だ。幼い頃、行方知れずになったが、貴国の人間に保護され、やがて、貴殿の乳母子となった…」
潤王子は、先ほど判明したニノのことを手短に話した。トーマ王子は黙って聞いていたが、話が終わると脇にいたヨコと呼ばれた男やヒナと呼ばれた男が声をあげた。
「そういうことやったんや…どうりでニノ、西国弁うつらんなーと思ててん」
「まわり全部西国弁やのにな…こっちの王子やったんやったら納得やな」
黙って聞いていたニノはふきだした。
「最初の感想はそこなんだ…」
「ニノ…」
トーマ王子はニノに向き直った。
「お前は…大切な乳母子…ずっと、そばにいるものだと…思っている」
ニノはトーマ王子を見つめてこくんと頷いた。
「ニノは…どうしたい?」
「俺は…」
ニノがあげた声はかすれていた。
「待って待って、カズはもともとこの国の王子なんだからさ」
潤王子はニノの様子を見て焦ったように声をあげた。
「公明正大に、決める必要があるよ」
「…というと?」
トーマ王子は眉を寄せて訝しげに問うた。
「古来より我が国に伝わる、示愛の儀【じあいのぎ】で決めないか?」
「示愛の儀?」
トーマ王子が聞き返すと、潤王子は深く頷いた。
「もちろん、最終的にはカズの意思を尊重する。示愛の儀は異なる二者が同じ一つを求めているときに、求める一つに対する愛を語り、ふるまいで示し、それに応えて周りの者が拍手をする。つまり、この場合、カズに対する愛を一国ずつ順々に示して、その後ここにいる皆が」
潤王子はそこで、広間をぐるっと見回して、そこにいる人たちを確認した。
「…拍手で応える。求められる一つが、求める二つのいずれのものとなるべきかは、拍手の大きさが教えてくれる」
トーマ王子は頷いた。
「いいだろう」
「…決まりだな」
黙って聞いていたニノは口を尖らせた。
「俺の意思はどこいくのよ」
「カズの反応も見た上で、周りの者の拍手が教えてくれるのさ」
潤王子はにやりと笑った。
愛を示す…
潤王子は、そんなに自信あんだろうか…
俺は、トーマ王子と力強く視線を合わせる潤王子を見つめた。
「それでは、私から、いいか?」
トーマ王子は、ニノを見ながら、潤王子に問うた。
潤王子は頷く。
おいらは、精一杯拍手するくらいしか、できねぇな…
でも、おいらだって…
ニノのこと…
…ってか、ここにいる誰よりも
おいらが
ニノのこと…
俺は隣に立つニノを見た。ニノの横顔は、ゆっくりと目の前に歩いてくるトーマ王子を見つめていた。
おいらは、精一杯拍手するくらいしか、できねぇな…
でも、おいらだって…
ニノのこと…
…ってか、ここにいる誰よりも
おいらが
ニノのこと…
俺は隣に立つニノを見た。ニノの横顔は、ゆっくりと目の前に歩いてくるトーマ王子を見つめていた。