「ニノ…」
トーマ王子が、ニノの前に近づいてくる。潤王子はニノの肩をそっと押した。ニノと俺は広間の中央にそろそろと歩み出た。
トーマ王子は、ニノの顔をじっと見つめる。
「ニノ…いきなりいなくなって…心配したぞ?」
「ごめん…まさか、トーマが直々に来るとは思わなかった」
ニノはトーマ王子を見上げるようにして視線を合わせた。
「昔から、ニノといろんなことを競ったり、一緒に学んできたよな…舞の練習したり、歌を覚えたり…」
トーマ王子は一言一言、思い出すようにゆっくりと話した。
「あいつが亡くなったとき…」
あいつ、とは亡くなったいとこのことだろう。
「心を痛めている俺を見て、お前も心を痛めていたことを知っているよ」
ニノはこくん、と頷いた。
「そのために、お前が城を出て…こちらに来ることになったことも理解している…ありがとう」
トーマ王子は微笑んだ。
「一緒に育ったお前と、城で話をしたり、舞の練習したりする時間が、一番癒される。これからも、俺には…いや、あの城にはお前が必要なんだ」
「トーマ…」
ニノの瞳から涙がこぼれ落ちて、頰を濡らした。
拭ってやりたい、と思った瞬間、トーマ王子がニノを抱きしめた。ニノの顎に手をかけて上を向かせると、頰を伝う涙を指で拭う。トーマ王子はニノに顔を近づけた。
あ、キス…と思ったとき、トーマ王子の唇はニノの額にそっと触れていた。
ニノの涙はなかなか止まらなくて、トーマ王子は、愛しそうにニノの髪に触れながら頰の涙にも口付けを繰り返した。
「トーマ…」
ニノがちらっと笑みを見せて、左手で涙を拭った。トーマ王子は微笑んだけれど、ニノの隣で見るその微笑みは、どこか寂しそうにも見えた。
トーマ王子がニノから離れると、広間にいる人々が拍手をした。西国の者たちは言うまでもなく、潤王子や櫻井大尉も神妙な顔つきで手を叩いていた。
トーマ王子は潤王子に向き直った。
「貴国の番だ」