2014年9月19日/Side O
ニノは負けず嫌いだ。
自分に対して。
そんで、あんまり素直じゃない。
でも、人の想いは人一倍汲む。
だから、松潤の
「ジャンプアップやめる?」
って言葉に間髪いれず
「大丈夫大丈夫」
としか言えねぇんだ。
おいらがスライドにしようって言わなかったら、ニノは跳んだんだろう。
躊躇なく、高く。
自分の出し得る限りの全力で。
ライブの後半、ニノがおいらの肩に手をかけた。いつもはそっと触れているだけのその手に、ぎゅっと力が込められていた。
いつもすごく痛いわけじゃない、とニノから聞いたことがある。
ダメな、体勢があるだけ。
キツイ時は、そのダメな体勢ばっかりになる。
なぜ、あのタイミングだったんだろう。
ハワイの神様は優しそうに見えて、あの時だけすごく意地悪だった。
あのタイミングで、
あいつが、
跳べないなんて言えるわけがない。
おいらはニノの腰に手を当てて支えるようにした。
手を当てると、温かくて少し楽、と言ってたから。
あんなとこで一瞬そんなことしたって、ニノの痛みがどうにかなるなんて思ってない。
ただ、
顔は見えなかったけど、
おいらにはそんな感じがした。
ライブが終わって、食事の後、おいらは当然のようにニノの部屋について行った。食事のときも動くのがつらそうで、部屋で身の回りのことを手伝ってやりたかった。
ニノはしかめ面をして、ドアのところで、おいらを通せんぼした。
「大野さんの部屋はあっち」
「ニノ、入れて」
「腰のことなら大丈夫。痛みはひいてきたから」
ニノはおいらのことをみくびってる。
作り笑いがわかんないほど、浅い付き合いなんかじゃねぇぞ。
おいらはドアに体を半分割り込ませた。
「お前、今日はダメだって。明日もあるんだから、俺に構わずゆっくり休め」
真剣な顔になったニノが珍しく怖い声を出す。
頑固さなら、負けねぇよ? ニノ。
おいらも真面目な顔で応酬した。
「これから、跳べないときはそう言うって約束できんなら、いいよ、帰る」
そう言ったら、ニノの眉がぎゅっと寄って、おいらの体をさえぎっていた手の力がふっと抜けた。
「ニノはできないでしょ。おいらがいないと、ニノは…」
ニノの顔がくしゃ、と歪む。目を逸らした理由は、おいらにはわかる。
「なあ、甘えてよ、おいらに」
遮るものが何もなくなったドアの中に入って、突っ立ったまま目を逸らしてるニノをそっと抱きしめた。ちらりと見えた瞳に、薄く涙が滲んでいる。
こいつの扱い方は、もう、わかってんだ。
「悔しかったよな?よりによって今日なんて…」
ニノは俺の体に腕を巻きつけて、黙ったままかすかに頷いた。