続き。

破水してからはいよいよクライマックスを迎えます。

『髪の毛がもう出てきてますよ』と看護師さん。『鏡で見てみますか?』と聞かれましたが『いやいや!見なくていいです!!』と即答しました。お股が広がってる様子を見たりしたらこの場で卒倒してしまうかもしれない。

髪の毛の向こうに頭があるんだろうけど、あと何回フーーをしたら出てくるんだろう。今の時点でもう限界超えてるんですけど。

何回か陣痛を乗り越えた時、扉の向こうから先生が登場しました。おお!いよいよ取り上げの瞬間ですか?でもまだ頭も出てきていないはず。

何やら先生と看護師さんが話をしています。左腕に血圧計を巻かれました。『血圧、155!』看護師さんが言いました。その後何度か血圧を計られましたがずっと150を超えてくるあたしの血圧。検診の時はずっと正常値だったはずなのにー。

先生があたしと王子に向かって言いました。

『このままでは母体に危険があります。血圧が上昇していて血管が切れて死んでしまう可能性もあります。急いで赤ちゃんをお腹から出してあげる必要があるので、緊急処置をすることにします』

えっ!!!

なになになに。あたし、死んじゃうかもしれないって言われた!!

やばーい!赤ちゃんに会えないまま死んじゃうなんて絶対困ります!!

緊急処置って何だろう。まさかここまで来て帝王切開?だったら最初からお腹を切り裂いて欲しかったー。こんなに苦しんだ果ての帝王は辛いなー。

しかし帝王ではありませんでした。頭が見えてる段階なので、今の時点で帝王切開は出来ないとのこと。逆を言えば、頭が見えてなかったら帝王になってた訳で。帝王は75万円ほどかかると聞いていたのでうまくまぬがれて早速親孝行な娘です。

緊急でなされた処置は「吸引分娩」でした。

産院から指示された通り毎日せっせとマッサージしてきた会陰を悲しいことにジョキジョキっと切開し、下半身に麻酔を打ち、赤ちゃんの頭をマシンで吸引するという。

本当なら『ああ、最後まで自力で産みたかった』と悔やむところなのかもしれませんが、痛さマックスの陣痛にこれ以上耐えられなくなっていたあたしは『どうぞどうぞ!今すぐ吸引してくださいな!』という気持ちでいっぱいでした。

先生が股の向こう側で緑色の手術着を羽織りました。股を照らしているライトが先生に後光をさしていました。かっ、、神が降臨なさった!神があたしを痛みから解放させてくれるぞ!

分娩室は急に慌ただしくなり、看護師さんの数がいつの間にか増えていました。あたしは酸素マスクをつけられ、相変わらず左腕には血圧計。血圧165!!おいおい、どんどん上昇してるぞ。右腕には点滴を打たれました。

先生が『お尻に麻酔を打ちます。ちょっと痛いよー』と言いました。ううううっ!本当に痛い。
麻酔を打ってる最中にも容赦無くお腹の張りと痛みは襲ってきます。あちらこちらが限界の痛さ。ウギギギギギギ。耐えろ、耐えろあたしっ!!

しばらくすると下半身の感覚が無くなってきました。でもお腹の痛みだけはしっかり残っています。今までと同じように張りが来たらフーーーです。

フーーーーーっっ

フーーーーーーーっっっ

何やら器具が股の中に入ってるみたいだけど、何も感じません。その様子を王子がガン見してますが大丈夫ですかね。貞子に豹変している様子や、股から赤子が出てくる様子を見られてしまって、あたしに対する性欲がまるっと無くなってしまうんじゃないですかね。お産を機にセックスレスになる夫婦って多いんじゃないですかね。

股の向こう側の先生の手元に何やら物体がドゥルンと出てきました。灰色のなにか。

先生が『産まれましたよ!頑張りましたね!』と言いました。

え?

うまれた??

その灰色の物体をよく見てみると、小さな人間でした。

『ギョエーーー!!』

あたしはマンガのセリフのような奇声を挙げてしまいました。

『赤ちゃんが産まれてギョエーって言うママ、初めて見ました』と看護師さんに笑われました。

だって産まれる瞬間の感触がまったくなかったから。麻酔ってすごいな。麻酔してなかったら痛み死にしてただろうな。

ほんとに?ほんとに産まれたの?赤ちゃん?産まれたの?

『ママ!頭を撫でてあげてください』と看護師さんが灰色をあたしの胸元に持ってきてくれました。恐る恐る頭を撫でると、すぐさま灰色は赤ちゃん処置台に乗せられ色んな処置をしてもらってました。

王子と顔を見合わせ「やったね!「産まれたね!」「がんばったね!」「がんばったよ!」などと喜びを分かち合いました。その間、股の向こう側では神がお腹の中から胎盤を取り出したり、切開された会陰を縫合したりしてくれてましたが、あたしの意識は台の上の赤ちゃんでいっぱいだったのでちっとも痛くありませんでした。

再び看護師さんがキレイになった赤ちゃんを胸に抱かせてくれました。カンガルーケアと呼ばれるものです。前にエコー写真で見たことのある顔がそこにありました。お腹の中から本当に出てきたんだね。びっくりしちゃう。

妊婦検診で初期の頃からずっと大きい大きいと言われ続けてきた割にそんなに大きすぎなかったよ。予定日も超過してたし絶対4000gくらいで産まれてくると思ってたから。指も5本あって、目・鼻・口・手・足がちゃんとあったよ。それだけでも本当に良かった。当たり前のことがとっても嬉しかった。

十月十日お腹の中に居てくれて、ずっとずっと会いたかったピコタンが産まれたのだ。あたし、ずっと夢だった「ママ」になれたのだ。

どうか元気にスクスク育ってくれますように。

入院生活編につづく。