モーグル堀島行真が体操とフィギュアスケートを始めた理由  影響受けた2人のレジェンド

平昌五輪では失意の11位 『続けるのであればポジティブな気持ちで』

 2022年2月4日に開幕する北京オリンピック。昨年夏の東京オリンピックに続き、日本勢の活躍が期待される中、金メダル候補として注目されるのが、フリースタイルスキーモーグル男子の堀島行真だ

 

 振り返れば、平昌オリンピックを控えた4年前も金メダル候補として名前が挙がっていた。2017年3月に開催された世界選手権ではシングルとデュエルの2種目で優勝。いきなりスポットライトを浴びることになった堀島は『金メダルだけを目指してやっていた』というが、同時に『不安な気持ちでスタートラインに立っていたのを覚えています』と振り返る

 

 堀島行真とそのライバルたちを客観的な目で見た時、自分では『勝てる要素はないわけではないけど、100%勝てるわけでもない』と感じていたという。金メダルは獲りたい。でも、期待に応えられなかったらどうしよう。若干20歳の心は、相反する2つの気持ちで揺れていた

 

 結果は、決勝2回目で転倒して11位。目指していた結果に手が届かず、残ったのは喪失感だった。この先、競技を続けていくには何をモチベーションにするべきか

 

 『競技を好きでいたかったし、続けるのであればポジティブな気持ちで続けたかった。だから、スキーが好き、スキーが楽しいっていう気持ちに目を向けることでしか続けることができなかった部分もあります』

 

 必要に迫られての“原点回帰”ではあったが、これが結果として選手としての飛躍的な成長に繋がるのだから面白い。難しいトリックに挑戦したり、いつもより多く回してみたり、採点基準にない技に挑戦してみたり、スノーボードの技を取り入れてみたり。『すごい技を自分もやってみたいなという、ただの好奇心だけなんですけど、それができたら楽しいし、うれしいんですよね』

 

 競技者として当然、結果を求めるが、固執し過ぎては自分を窮屈にしかねない。楽しむ気持ちが心のゆとりと、成長するための余白をもたらしたのだろう。ワールドカップでは2018-19シーズン、2019-20シーズンと2季連続で総合2位となり、今季も開幕戦で3位と好スタートを切っている

 

体つきから立ち姿まで『全てが勝つに相応しい』と尊敬する2選手とは

 モーグルを上手くなりたい、モーグルを極めたいと取り組む中で、他競技のトップ選手から刺激を受けることもある。堀島が特に大きなリスペクトを抱いているのが、体操の内村航平、フィギュアスケートの羽生結弦の2人

 

 『同じ選手という立場から見て、お2人の共通点は大会に対するアプローチや準備を人より深く取り組んでいるところにあるように思います。本当に細かいところまで。技術でも本当に細かな技術まで高めようとしているんじゃないかと。そこを妥協せず、もっともっと突き詰めて行くから、大会でしっかり結果に繋がるんだろうなと思います』

 

 競技を代表するトップ選手になってもなお、そこに妥協が生まれることはない

 

 『おそらく、これ以上できない、と思う以上のところまでやっているんだろうなと。だからこそ、トップにいて当然の存在なんだと思います。体つきも無駄がないし、立ち姿も骨格上正しい。全てが勝つに相応しく行動できている。そういう点を尊敬していますし、なぜそういう考えになったのか、どうしてそのプロセスを踏めているのか、お2人のインタビューや練習風景をメディアで拝見する時は気にするようにしています

 

 内村とも羽生とも直接話をしたことはないというが、もし対面することが叶えば『多分、質問攻めにしてしまうと思います』と少年のような笑顔を浮かべる

 

 『もしお会いした時にいっぱい質問ができるように、実は僕、昨年の夏には体操を始めたり、フィギュアスケートにも挑戦してみたりしています。自分がやったことがあれば、フィギュアスケートでの感覚で聞けるじゃないですか。どういうことを技術として考えて取り組んでいるのか、ヒントにできるなと。だから、もしお会いして質問できる時のために、体操やフィギュアスケートをやって、お2人の感覚に近づけるアプローチをしています』

 

 いつか訪れるであろう対面の日に向けて、実際にそれぞれの競技に取り組んでしまう行動力には脱帽だ。だが、こういった行動も全てはモーグルを極めるためのものだ

 

 『モーグルに生かしたいんです。内村選手から学んだことをモーグルに採り入れたらすごく面白いだろうし、羽生選手から学んだことをモーグルで実践したら要素の厚みと幅が増す。モーグルなのに体操やフィギュアの動きも入っているそんな選手になれたら面白いと思うんですよね』

 

 そう言って目を輝かせる姿から溢れるのは、ただただモーグルが楽しいという純粋な気持ち

 

 平昌で味わった喪失感をバネに、選手として大幅なスキルアップを図り、円熟味を増した今。結果以上に競技の楽しさ充実感を追い求める堀島が、北京で大仕事を果たしてくれそうな予感がする

 

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