三原舞依が新プログラムを初披露  セリーヌ・ディオンの名曲で表現する『強い自分』

●可憐さのなかにある反骨

  6月30日、横浜。この日で、フィギュアスケート界はシーズンが切り替わる。7月1日からは新シーズンが幕を開ける。その点、3日間にわたって開催される『ドリーム・オン・アイス』は過去と未来を結ぶ『夢の宴』だった

 

『ありがとうございました』

 

  公演後、メディアに対して行われた囲み取材、日本人女子のトリを務めた三原舞依(23歳/シスメックス)は、リポーターのねぎらいの言葉にまっすぐな声で返していた。会見に入る前、記者とリンクに一礼をする律義さが彼女らしかった。生き方そのものが演技に出るタイプで、その真摯さと渾身で強くなるというのか

 

  凛とした人間性は変わらないが、小さな変化もあった

 

『昨シーズンは、世界選手権ですごく悔しい思いをしたので。今シーズンは最初から最後までパーフェクトな演技ができるように、体調管理もしっかりしながら、一つひとつ頑張っていきたいです。グランプリ(GP)ファイナル連覇と世界選手権で表彰台に上がれるように』

 

  三原は可憐さのある声のなかに、反骨をにじませた。もっとも、強くなる欲求は備わっていたのだろう。それも彼女の正体の一部だ

 

●『もっと頑張れよ』世界選手権の悔しさ

『悔し涙も出ない。これでは終われない』

 

  今年3月の世界選手権後、三原はそう心情を吐露している。ショートプログラム(SP)の『戦場のメリークリスマス』で3位につけたあと、フリースケーティングの『恋は魔術師』では終盤にミスが出て6位と後退

 

  自己最高タイの5位は、恥ずべき結果ではない。そもそも昨季のGPシリーズでは2連勝してGP女王に輝き、全日本は自己最高の2位とキャリアハイのシーズンだったのだが……

 

  強くなる選手は、勝ちとるほどに高みを目指すもの

 

『もっと頑張れよ、と自分に言いたい』

 

  三原は言い訳をしなかったが、自己最高13試合出場は自信を強くした一方、疲労も蓄積させていたのだろう。持ち前の集中力でSPは滑りきったが、フリーでは限界を超えていたのだ

 

●新プログラムで見据える世界

  本来のスケートができなかった無念さで、彼女はひたすら身を焦がしていた。その悔しさが彼女を突き動かすのか

 

『今シーズンは初めて(カナダの)ジェフリー・バトルさんに振り付けをしてもらっています。ショートはカナダ出身のセリーヌ・ディオンさんの曲(『To Love You More』)が、いろいろな思いを含めてピッタリだなって。すばらしい曲なので、一つひとつ心を込めて滑れるようにしたいです』

 

  三原の世界選手権に対する気迫が、じわじわと伝わってくる

 

『ドリーム・オン・アイス』で披露した新プログラム『To Love You More』は、ひとつの代名詞になった『戦場のメリークリスマス』に匹敵する完成図が見えつつある。細やかな感情表現が、スケーティングで映えるプログラムだろう。曲と一体化した滑りは、彼女の真骨頂だ

 

『初めてのお披露目だったので、すごく緊張しましたが、楽しんで滑れてよかったです。間の作り方とか、一つひとつの動きを大事に。歌詞も強いところと柔らかいところがあるので、歌声に合わせてスケートで表現したいです』

 

  三原はこう続ける

 

『この曲の最大の盛り上がりはポイントは、ステップシークエンスの最初のところで、バレエジャンプがあるんです。「Waiting for you」という「待っているよ」の強い思いが弾けるようにしたいですね!

 

  ジェフリーさんが「舞依はバレエジャンプが好きだから」と急遽、取り入れてくれました。しっかり曲に合わせ、間の取り方も考えながら滑れたらと思っています』

 

  この日の演技でも、バレエジャンプのところで潮目が変わった。そこからは彼女の独壇場になっている

 

●『強い三原舞依を見せたい』

『オフはカナダでトレーニングしたり、アイスショーでトップスケーターたちと一緒になったり、日々、もっと強くなりたいと思うようになりました』

 

  三原は言う

 

『どんな状況でも、自分のベストを尽くせるようにしたいですね。だから、睡眠からトレーニングまですべて大事にこだわって。これまで学んできたことをすべて出せるように

 

  筋肉痛になる日も多かったんですが、どうにか身体を動かしてやってきて、それをシーズンで活かせたらと思います』

 

  三原は言葉だけではなく、余念なく戦いの準備をしてきた。振り付け練習では、バトルコーチがしばしば歌声をつけて指導してくれたという。その歌がうまく、彼女自身も世界観に引き込まれるように滑ることができた

 

『ブラケットひとつでも、お客さんに伝わるものが違います!』

 

  明るい声で語る彼女は、スケーティングの一つひとつを楽しみながら磨いてきた

 

  昨シーズン、2連勝したGPシリーズは11月の中国杯、NHK杯にエントリーしている。12月には、GPファイナルが北京で開催、同月に長野で全日本選手権。そして来年3月、モントリオールで世界選手権だ

 

『強い三原舞依を見せたい』

 

  そう語る機会が増えた三原は、競技者として湧いてきた欲求を昇華するのだろう。その時、強く輝くヒロインが誕生するはずだ