2024.1.5
こんにちは。活動開始から14年、「読んでたのしい」「眼と心がよろこぶ」「子育てが楽しくなる」「個と社会をみつめる」......様々な視座に立ち皆様に絵本の情報・その魅力をお届けしております、絵本コーディネーターの東條知美と申します。
【2023年の絵本】は、2023年に出会った新刊絵本の中から、東條が「繰り返し読みたい」「贈りたい」作品に的を当て、絞り込んだものです。ぜひお手に取ってお読みいただければと思います。
皆さまと絵本の素敵な出会い、その一助となれましたら幸いです。
絵本コーディネーター東條知美
※選出に際しましては、絵本コーディネーター東條知美個人の趣味・嗜好・経験その他が色濃く反映されておりますことをご了承下さい。
また、いかなる賄賂・脅迫・圧力も受けておらず、いかなる気遣いや義理立てもございません。純度100%です。ご承知置き下さい。
※予算・体力・運命の悪戯等により、東條が出会えていない絵本が他にもまだまだたくさんありますことをご承知置き下さい。
【東條絵本大賞 2023】
1冊目
~ 暗闇のなかで私を守る ~
まっくらぼん
ながしまひろみ 作、絵
(岩崎書店)
【あらすじ】
ある夜、停電になった海辺の小さな町。すみちゃんとお母さんのお家も真っ暗です。灯りを探しに行くお母さんと、ひとり残され怯えるすみちゃん。そのとき――
「ぼくと ともだちに なると こわくないよ」
目を凝らすとそこには〈まっくらで おおきな いきもの〉が立っています。これが「まっくらぼん」です。
満天の空の下、まっくらぼんの背中に乗ったすみちゃんは飛んで行きます。
暗闇の世界で、すみちゃんは、町の中にたくさんの匂いがあふれていることに気がつきます。
たくさんの音があふれていることに気がつきます。
灯台の上に立ち、灯りの戻った町を見て、すみちゃんはお母さんが恋しくなるのでした。
【コメント】
子どもの頃に出会ったよくわからない不思議なもの、でもちっとも怖くないもの――そのひとつが「まっくらぼん」なのかもしれません。
すみちゃんは安心しきって「まっくらぼん」に身を預けます。仲良く手を繋ぎます。新鮮な驚きに胸をふるわせます。
大人になると私たちは、いつの間にか何でもわかったような気になって、知らない、経験したことのないものを警戒しがちです。わからないそれをやり過ごす図々しさ、既存のカテゴリーにひとまず押し込める癖......こういう悪癖は、絵本を読むときにはなんの役にも立ちません。(ついでに言うと、タイパもコスパも役に立ちません。)
わからなさはそのままに、「絵本の世界」にまっさらな心で飛び込んでみてください。
絵本『まっくらぼん』を選んだひとつめのポイントは、「まっくらぼん」の存在が、読者のイメージに委ねられている点にあります。
暗闇の中で守ってくれる「まっくらぼん」。
名前は自分で名乗ったものなのかどうかも判然としません。
妖精?おばけ?神さま?それとも・・・
もしかしたら「まっくらぼん」は、複数存在するものなのかもしれません。時々によって(中身が)変化するものかもしれません。
読者の中には、絵と文章を読み解いて、すみちゃんの元へやってきた「まっくらぼん」の正体に思いを馳せる人もいるでしょう。
読む人、読むタイミングによって無数のイメージが生まれうる絵本であると感じました。
ふたつめのポイントは、「光」のモチーフです。
町の上空には、こぼれるような星空。
星の「光」
失われ、やがて復活する電気は、窓明かりとして描き出されます。
電灯の「光」
海の道標、灯台の「光」
そして、まっくらぼんという
守り人の「光」、
すみちゃんという子ども――生命の「光」です。
まっくらぼんと いっしょに あかるい ほうへ。
「光」を希望といいかえてもよいと思います。
絵本をめくり、子どもという存在に光を感じながら、私たちを守ってくれるもの、信じるに値するものは、目には見えなくてもたくさんあるよ.....と励まされるような気持ちになり、勇気がわいてきました。
誰もが暗闇(悲しみや寂しさ)から逃れることはできない、でも光(希望)はけっして消えない――
ながしまひろみの作品はいつも、ほんの少しの寂しさを漂わせながら、けっして消えない灯りを読者の胸に宿します。
漫画出身の作者ですが、『まっくらぼん』では、「絵本」という形式の中で、読者としての対象を子どもから大人まで抱えながら、寂しさと希望の両面を静かに伝えることに成功しています。
黒色と淡いブルーの世界。人物の自然な表情。
漫画の手法を取り入れたコマ割り、高い視点からの画角、移動する登場人物に当てつづける焦点......
紙面上の視覚的要素を考え抜いたテクニックが、いたるところで光っています。
絵本コーディネーター東條知美