2024.1.12
こんにちは。活動開始から14年、「読んでたのしい」「眼と心がよろこぶ」「子育てが楽しくなる」「個と社会をみつめる」......様々な視座に立ち皆様に絵本の情報・その魅力をお届けしております、絵本コーディネーターの東條知美と申します。
【2023年の絵本】は、2023年に出会った新刊絵本の中から、東條が「繰り返し読みたい」「贈りたい」作品に的を当て、絞り込んだものです。ぜひお手に取ってお読みいただければと思います。
皆さまと絵本の素敵な出会い、その一助となれましたら幸いです。
絵本コーディネーター東條知美
※選出に関しましては、絵本コーディネーター東條知美個人の趣味・嗜好・経験その他が色濃く反映されておりますことをご了承下さい。
また、いかなる賄賂・脅迫・圧力も受けておらず、いかなる気遣いや義理立てもございません。純度100%です。ご承知置き下さい。
※予算・体力・運命の悪戯等により、東條が出会えていない絵本が他にもまだまだたくさんありますことをご承知置き下さい。
【東條絵本大賞 2023】
3冊目
~ 読んで味わう心地よさ ~
どすこいみいちゃんパンやさん
町田尚子 作
(ほるぷ出版)
【東條コメント】
まわしではなく、エプロン。力士ではなく、パン屋。そして猫――。
なんてキャラクターの立った主人公でしょう!
パン屋の猫の朝、開店準備の様子が描かれる絵本です。
表紙に描かれた猫「みいちゃん」の、堂々たる姿をごらんください。
この姿勢、相撲では蹲踞(そんきょ)と呼ぶそうです。この姿勢をとることで、戦いに向かう意識が強くなりテンションも上がるのだそうです。
しかし、みいちゃんの職業はおすもうさん…ではなく、パン屋さん。毎朝、力強く四股(しこ)を踏むのが習慣です。
どすこい どすこい おはようさん。
どすこい どすこい がんばるぞ!
生地をこねて、丸めて、焼いて、オーブンに入れて……(この時、無意識にとっているのであろう押し出しのポーズにも、足腰の強さはしっかりとあらわれます)
パンの焼きあがりを待つ間、みいちゃんはうたた寝。
夢の中で、みいちゃんは力士になっています。
びくともしない強い体幹。圧倒的な横綱です。
この夢の場面を描く5見開き――可愛くて、ユーモラスで、ダイナミックな展開には、思わず笑みがこぼれます。
夢の中の土俵では、どれだけ転がされてもだいじょうぶ。
さて、この土俵は何でできていると思いますか?(それは読んでのお楽しみ♪)
パプン ポフン と跳ね返されてみたくなる、みいちゃんの丸くて柔らかなお腹、パンの焼ける香ばしいにおい、美味しいお味・・・
そう、『どすこいみいちゃんパンやさん』のすごさの秘密は、身体感覚にうったえる力にあります。
我々が五感でとらえる感覚を、心地よさを、疑似体験できる絵本なのです。
絵から感じる五感だけでなく、文章の語感にもご注目ください。
〈グーパーグーパー きじをこねる〉
〈おヒゲピクピク おおあくび〉
〈どすこい どすこい はないき フンッ。〉
などから、
〈じかん いっぱい まったなし〉......に繋げる、この一連のむだのない・淀みない流れよ!
子どもたちの笑顔が目に浮かぶ絵本。集団への読み聞かせにもおすすめです。
猫を愛するあなたには、町田尚子の描く(やぶにらみの・まるくしなやかな・耳の欠けた)「みいちゃん」はたまらないでしょう。
わたしもすっかりファンになりました。
絵本コーディネーター東條知美