私「あ、はい。お願いします。」


サ「『今なら、子供にヒドイことをしたとは多少は思えるけれども。

悪いけれど、もし、また同じような状況になったとしたら、私は同じことを繰り返すと思う。』


私「は?」


サ「お母様は、もし、同じような状況で、もう一度親子関係をしたら、同じことを繰り返す、とおっしゃっています。」


私「へ?」


サ「『子供が、今苦しんでいる姿を見ると、自分の罪の重さを感じる。

けれども、あの時、私は自分の身を捨ててでも、子供を助けるつもりはなかった。

今でも、そう思っている。』」


私「はぁ…。」


サ「『私にあの時できるのは、あれが精一杯だった。

浮ついた気持ちを持ったことも一度だけあったけれども、あれが自分の生き方だった。

子供を助けるつもりはないし、それが生きていく上で当たり前のことだと思っている。』」



私「はぁ。」


サ「なにか質問したいこととか、ありますか?」


私「…えっと。

あの、そういえば、あの時、お母さんは、私のことを『この子もキズモノになってしまった』と言っていたけど。

もしかして、お母さんも、辛い思いをしたことがあったのかな…。」



サ「『こんなちいさな子供がそんな目にあうとは思わなくて驚いたけれど。

若い頃、自分もされたことがある。』」


私「…そうですか…。」


サ「『女は男に蹂躙されるものだ』と思ってらっしゃる方ですね。」


私「…昔、母からそれを聞いたことがあります。

私が小さかったから、意味がわからないだろうと思って話していたと思いますけど…。」


サ「そうですね、子供でも言葉の意味がわからなくてもニュアンスで伝わりますものね。」


私「(そのままの言葉を使っていたけど)そうですね。


子供だからわからないだろうと思って、ポロっと言っちゃったんでしょうね。

その時、お母さんのことが人間ではなく、機械仕掛けの人形みたいだと思いました。


お母さんの所属している世界は、なんて、無機質で空虚で…。

怖くて、お母さんがかわいそうに思いました。」


サ「時代もあるかもしれませんね。

女の人の幸せは、こんなものだと。

生活出来るだけで、精一杯で、男に蹂躙されるのが当たり前だとの認識でいたと思います。

母親からの嫉妬もあって、幸せになってはいけないと、自分を抑えていたし。


女性が自立するという、教育もなかったと思います。

そして、お店を切り盛りするのに、すごく苦労していたと。

それが子供を育てることだと思っていて、心のことまでは分からず…。

愛情を表現する習慣がない家庭で育っていますから、子供に愛情をかける、ということが理解できていなかったんでしょうね…。」


私「…そうですか…。」


サ「お母様の時代と比べて、しんじゅさんは恵まれています。

悩みを話せるカウンセラーとか、逃げ込むことができる公共施設とかもありますよね?

あの時代、そういうものはなくて、すべて家庭内の問題で片付けろ、と言われいた。


しんじゅさんのお母様、お父様と結婚した当初は幸せを感じていたと思いますよ?

今度こそ、幸せになれるって、張り切っていたと思います。」


私「…そうですか、幸せになれると思ったんですね…。」


サ「『しんじゅさんの事を、心底悔やむことができるようになったら、ここから解放されるだろう。

業が深いのかもしれないけれど、それほど子供に悪いことをしたとは思っていない。

すまなかった、という気持ちもある。』」


私「…どこかに囚われているんですか?

そこから、抜け出せない?」


サ「えぇ、そうですね…。

亡くなった状態で、静かに暮らしている。

けれど、成仏とは、また違う領域にいますね。」


私「…そうですか…。」


サ「しんじゅさんが、お母様をどうにかしようと思う必要はありませんよ。

それはお母様が自ら招いた因果ですから。」


私「…そうですね、お母さんの人生は、お母さん自身の課題です。

私、お母さんのことが、理解できませんでした。


けど、腑に落ちましたよ。

愛情が分からない人だったんだって。

子供を助ける気が無かった、というのも、わかる気がします。


そういう人だったんだって。


近所中の人から、評判のよい人だったんです。

『弥勒みたいだ』とか言われてて、常識を大切にしていて、困ったお年寄りとかに按摩しにいったり、お惣菜を差し入れしたり、地域の掃除をしたり。


お葬式にも、何百人の人が参列していました。

みんなお母さんの事を、悪く言う人、いなかったんです。


それなのに、私は、お母さんの事を、心の中が、陶器でできた、人形みたいだと思っていたんです。」


サ「えぇ。

お母様は、そのお母様の期待を裏切らないように、心の綺麗な女の人を演じていた。

ある意味、頑固です、無理を重ねて、死ぬまでそれを貫いていた。

お母様に愛されるために。」


私「えぇ…。可愛がられていました。」


サ「そして、悪い言い方をすれば、『いい人である』という事に酔っていた人です。

こう、行動すれば、周りから尊敬される、そういう目線で動き続けた人。

だから、商売もうまく行っていた。


幸せとか、愛情を、どうやって表現していいいか、本当は分からない人だったんです。」


私「…(かわいそうな人だという言葉を飲み込んでいる)。」


サ「お母様のことは、お母様ご自身で解決する問題です。

しんじゅさんが、悩むことではありません。


しんじゅさんは、ご自身の問題を解決していくこと。


これが大事なんじゃないでしょうか…。」