夢にまで見たアンプ、SA11が我が家に来て早一ヶ月。そろそろレビューでも書こうか。

店頭で試聴さしてもらったのは勝手に最強のプリメインと決めているSA1と、その弟分に当たるSA11。現在のフラッグシップであるPMA-SXも配線されず鎮座していたが、お年を召した店員さんが30kgのSA1を繋ぐ様を見て、「SXも聴きたいな~」とは言えなかった。何よりSXはかっこ悪いから好かない。どーせ250hz付近を少し抑えて透明感を演出しただけのSA1の値上げバージョンだろう。…と、買えないので決めつけておく。


SA1を聴いたのは始めてだったが、ある意味では予想通りの音だった。ずっと我が家のリファレンスとなっていたPMA-1500の延長上の音であり、カタログの文句の通り恐るべき豪快さと繊細さを合わせ持つ稀な存在であり、個人的にはもっと評価されるべきだと思う。

これをSA11に切り換えると音が一回り厚くなる。良く言えばエネルギッシュだが、厚みの正体は付帯音。カタログ数値ではS/Nで優れているはずのSA11だが、聴感上は遥かにSA1がすぐれる。

エネルギーバランスがやや下寄りにとられていて、クリアだが刺激成分が少なく聞きやすい。絵で言うとやや色彩を強調した写実的な絵画。それに比べるとアキュなどは被写体も背景も細か~く書き込み過ぎて、奥行きや輪郭が希薄に感じられるただすべて細かいだけの絵といった感じ。

SA1には細かさ一辺倒で無く、背景を意識的にぼかす技術によって遠近やデッサンの良さが際立つ工夫がされたような自然さがある。

オーディオでは解像度と言う言葉が良く使われるが、実際の演奏を聴いて、

「実際の音はやっぱり高解像度だな~」

なんて輩はいない。かと言ってもちろん描写力が無くてぼやけているのとは次元の違う話だ。

同じ価格帯と比べてもこれ程真面目なアンプは珍しい。アキュやラックスなら当然のようについてくるラインストレート切り替えスイッチ、スピーカー出力切り替えスイッチ、ラウドネス切り替えスイッチ、プリout、パワーダイレクト等、省けるものは全て省いている。

バランス入力を選択すれば信号はセレクターさえバイパスする構造になっており、カタログ文句のシンプル&ストレートは伊達では無い。

更にBTLと言う二台分の増幅回路で完全バランスアンプとしている効果も想像以上に大きい。プリメインの最大の欠点として、プリとパワーの信号の干渉があるが、BTLなら増幅段の電圧を1/4に抑え、プリ回路への影響を最小限に食い止められるのだ。また、BTLアンプは内、外的ノイズに強いだけで無く、トランスなど機器内部のノイズもプラスマイナスで相殺するため、聴覚上でもノイズや歪みっぽさが弟分のSA11とは比にならない程小さい。この二台を比べると、SA1のノイズは小さいと言うより無いと感じる程だ。

この透明感のカラクリはもう一つある。SA1は定格出力50wとパワーを控えめに抑えてあるが、これはBTLの特性を利用して無帰還アンプとしているからである。

単純にSA11の増幅回路をBTL化したなら理論上で400w以上、実際にしても300w前後も可能なのだが、なんとSA1ではネガティブフィードバックを省き、完全に無帰還アンプとしているのだ。

ネガティブフィードバックは、歪みを抑え、駆動力を上げるのに現在では当然のように使われている技術だが、鮮度が失われる、スルーレートが悪化するなどのデメリットがある。

SA1では無帰還アンプの無垢な音にこだわり、BTLとすることで駆動力を補足し、歪みが検出される50wをリミットとしているのだ。これはスピードで定評のあるsoulnoteのフラッグシップma1.0と同じ構成である。

BTL接続では理論上4倍の出力となるので、50wなら1chあたり12w程に抑えられていることになる。

一般家庭ではこれだけパワーがあれば十分であると言うDENONの答えであり、確かに以前所有していたラックスマンL-550Aの20wと言うもパワーも全く不満を感じたことは無かった。

ワンボディの限られたサイズの中で、最高のパフォーマンスの実現に挑戦したこのモデルは小生的には最もスマートなインテグレーテッドアンプである。



一方、PMA-SA11の音はSA1にもっさり付帯音が乗った感じ。…と、言うと聞こえが悪いが、もちろん単体で聞けばSA11も素晴らしい音である。ただ、DENON特有の下に重心を置いた音が軽快感やメリハリを損なっているのが非常に惜しい。狭い日本の一般家庭では更に低音が暴れて聞き辛い音になるケースが少なく無いのではないだろうか。



こんなパーぺきなSA1を差し置いて何故SA11を選んだのか?


それはSA1にパワーダイレクトが無い為である。

音量調節には機械式ボリュームで音量調節する他に、デジタル領域でbit落ちさせる方法が有り、どちらがいいかは賛否両論あるが、小生は断然デジタルボリューム派なのだ。しかし、そこにはF特の崩れなど障害も多い。

bit落ちの情報欠落を差し引いても小生には遥かにデジタルボリュームがいい。この際だから言っておくが、24bit以上にアップサンプリングしてパワーアンプのゲインを落とせば元々の16bitより遥かに大きな情報を確保できる。

音はどんな風に変化するかと言うと、ラインストレートボタンを3、4回押した感じ、…とでも言おうか。目の前のボケた情景がメガネをかけた様に締まる。

なので、SA11でボリュームを使った音とパワーダイレクトを比べ、ボリュームに寄る音質劣化が小さければSA1、明らかにボリュームによる劣化が大きければゲイン切り替え可能なパワーアンプを探そうと考えたのだ。



それで聴き比べた感想は……


パワーダイレクトの圧勝であった。


小生のオーディオの旅はまだまだ続く。


追記…パワーダイレクトではかなり周波数特性が狂うようで、しっかりフラットを出しての聴き比べではプリメインとしての通常使用に分がある。下が強調された音作りがあだとなり低解像度の印象が強いDENONだが、このSA11のプリ部の劣化の少なさはクラス随一ではないだろうか。