音を表す指標は数多く存在するが、よく使われる割に余り正しく認知されていないのが「スピード」である。

スピードが速い音と言っても、もちろん音の速さは気温や気圧等が同条件なら速くなったり遅くなったりしない。

それではスピードの速い音とはなんぞや?

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上の図の青が原信号だが、アナログ伝送の過程で信号は赤い線の様に急激な変化に追従出来ずにズレが生じる。

この応答性が高いのが速い音である。

特にこの性能が問われるのが、アタック音など打楽器のインパクトである。

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急激に立ち上がる青線の信号に対し、反応が追いつかないと赤線のように振幅の幅まで小さくなってしまう。

この性能の指標として過渡特性(スルーレート)がある。プレイヤーやアンプを経て信号のスピードは失われて行くので、その劣化が少ないのがスピードの速いアンプ、スピードの速いプレイヤーと言うわけだ。


スピーカーの応答性を高めるにはウーファーの駆動部分が軽いほど有利である。しかし、最低域での正確な作動の為には口径の拡大、もしくは駆動部の重量増が必要になる。

知識をお持ちの方のなかには「振動板の面積が増えれば、少ないストロークで同じ音が出せるのだから大口径の方が有利なのでは?」と考える人もいるかもしれない。

しかし、例えばウーファーの直径を倍にすると、面積は4倍になるので振幅は1/4でよくなるのだが、駆動部の質量は8倍になってしまう。

つまりウーファーは小さいほどレスポンスがよくなる。小口径を最低域を両立するための手段として、ダブルウーファーやトリプルウーファーがある。

これらは、細身のトールボーイで面積を稼ぐ為の手段と考えられがちだが、ちゃんと音質的メリットがあるのだ。

更に筆者の経験から述べると、同口径でもダブルウーファーよりシングルの方がスピード感が増す傾向がある。これには二つのウーファーのレスポンスの誤差やエンクロージャー容量からくるエアダンパーの影響もあるだろう。



筆者はどちらかと言うと量感のある低音が苦手だが、スケール感とスピードは欲しいと言う矛盾した好みであるためスピーカー選びは困難な事この上ない。

それを両立するためにはは小径ミッドウーファーと大口径ウーファーの兼用しか無いが、通常のネットワークでは100hz以下でカットオフするネットワークを作ることはむつかしい。位相の問題もあり、ミッドバスはローカットせずにウーファーと並行駆動される事がほとんどである。一挙両得となると方法は限られるし、あったとしてもまた新たな問題を生む事になる。

結局ユーザーはウーファーの数や大きさで低音の質を選択しなければならない。ウーファーが大きくなれば価格も跳ね上がるが、価格が高くてでかいウーファーの方が単純に“良い音”と言う先入観は捨てるべきである。


スピードはアンプでも結構変わる。コーン及び稼働パーツが軽いことに加え、アンプに力があることでスピードを上げることができる。

ここで言うアンプの力とは、瞬間最大出力と言う事になるが、その信号に沿わせてウーファーを動かす為のダンピングファクターが高いこともポイントになる。

瞬間最大電力は、先に述べた過渡特性が高め、電流の供給元であるトランスの容量をあげる事で増やす事ができる。もちろん定格出力とは関係無く、過渡特性が良いと定格出力に達するまでの時間が早くなると言う事になるのだが、瞬間的になら定格出力の数倍の出力を出せるアンプもある。

一方、ダンピングファクターとは電気的なコーンの支配力の指標である。もっと詳しく述べると、回転するモーターをショート(短絡)させるとブレーキがかかる。スピーカーでも同じ事が言え、アンプの内部抵抗が低いほどブレーキ力は強くなる。

瞬間的に動かす力と瞬時に止める力、両方兼ね備えるのがいわゆる速いアンプである。


では、アンプはパワーがありダンピングファクターの高いものを選べば良いかと言えばそうでもない。

高いダンピングファクターを実現する為にはネガティブフィードバックをかければ手っ取り早いが、そうするとスルーレートが悪化して鮮度感が失われてしまう。特に業務用アンプはこの傾向が強く、ウーファーをグイグイ駆動させる反面、濃いだけの鮮度の乏しい音になりやすい。逆にダンピングファクターは後回しのノンフィードバックアンプなども存在し、高いブレーキ力を必要としない小径ウーファーならばこちらのほうが鮮度キレのある低音が得られる。

逆に重量のある大口径ウーファーではダンピングファクタの数値がものを言う。いくらスルーレートが高くてもウーファーが信号に追従出来ず、“鳴らせていない”と言われる状態になってしまうからである。


現在のオーディオ事情では、最低域まで沈み込んだ低音とスピード感のある低音はトレードオフの関係にある。大口径の壮大なスケール感はオーディオの魅力の一つだが、スピードの速さはリアルで小気味良い低音のカギである。

それは近年の優れたユニットと飛躍的に性能が向上したアンプが開拓した新たなオーディオの魅力と言える。


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