「スピーカーケーブルを変えてずいぶん好みの音に近づきました」

よく目にする文章だが、スピーカーケーブルで好みの音質に近づくなんて事があるのだろうか?


ケーブルで音は変化する。それはケーブルと言えども回路の一部であり、完璧な性能を持った製品など存在しない事を考えれば当然である。

ケーブル、つまり並行に並んだ銅線は電気的にコンデンサー、アンテナ、抵抗などとして作用する。

電気的に想定外の電流を発生させる要素は数えきれないほど存在するわけで、「ケーブルで音が変わらない」と言い張ることは自らの無知を晒しているのに等しい。

しかし、音は変わるが人間に察知可能か否かと言う些細な変化である事は確かで、この程度の変化に大枚を叩く事も利口とは言い難い。

そもそもオーディオ用アクセサリーなんてものは加工や仕上げにコストをかけていて、メカニカルな外観がいかにも高性能のように見えるが、機能としては数十円の電工パーツの代わりにもならないガラクタである。

握力が強くなる指輪はないし、耳が良くなるピアスも無い。アクセサリーはあくまでアクセサリーなのである。

コンセントを例に取るなら、一般的な電気法より厳しい基準が定められたホスピタルグレードと言うものが存在し、確実な保持力の確保などオーディオ的にもメリットが多いのだが、更に高額なオーディオグレードなんてものを見て、

一般<ホスピタルグレード<オーディオグレード

なんて考えてしまうのは至極危険である。

全てのアクセサリーが効果が無いとは言わないが、オーディオグレードなんて何の基準も存在しないもので、立派なのは見た目だけ、特異な製品は音が悪くなる危険性だってある。そもそも高額なアクセサリーの多くは半端な知識しか持たない人間の設計と言う事も珍しくない。

兎に角、ケーブルを初めとするアクセサリー関連で大事なのは、詐欺まがいの製品に気をつけろとか、ケーブルなんかで音が変わらないと言う事で無く、

『値段と音質には全く因果関係は存在しない』

と言うことである。



ケーブルの変化と聞いてまず思い浮かべるのは抵抗値、つまりインピーダンスだろう。しかし、ケーブルによって変化が見られるのは20,000Hz以上の帯域の為、聞き分ける聴力には個人差がある。

十代~二十代数人でテストした事があるが、16000~17000Hzから聞こえ辛くなるようで、中高年になると更に狭くなる。

ただこの聞こえない周波数が音楽の聞こえ方に変化をもたらすのは現在のオーディオにおいては承知の事実である。

例えば、バナナやYラグで音が和らぐのは、高域のインピーダンス増加がハイカットフィルターとして作用するのだろう。

20,000Hz以下は大抵フラットな為、周波数特性に変化は無いはずだが、全体域のインピーダンスを下げればダンピングファクターが向上し、低音の締まりが良くなると言う事も考えられる。

それならばと、抵抗値の小さい線材を吟味する…と言うのはあまり利口ではない。

ケーブルなんて半分の長さに切れば抵抗も半分になるのだ。もし6N(純度99.9999%)のケーブルと7N(99.99999%)の違いを感知出来る人が居たなら、ケーブル長を10センチ短くしただけであまりの変化に腰を抜かすはずである。

その他、フレミングの法則によって振動、磁力、電磁波が相互に影響してケーブルがノイズを拾う事が考えられるが、こちらは各家庭で条件は様々だろう。

家庭にはコンセントから供給される50Hzから携帯電話の数百MHzまで実に様々な電磁波が溢れている。

条件さえ揃えば音楽信号と同等以上のノイズを拾ったりする事もあるので、決して無視できるものでは無い。

最も信号が微弱となるプリ、パワーアンプ間をRCAケーブルで繋いでいるなんて人は特に要注意である(小生のセパレート嫌いの理由の一つが、この最も繊細な経路を外部に晒す事への抵抗でもある)。


ノイズは密度間や力感と捉えられる事も多いので、

「このケーブルで力感が増して音楽性が豊かになった!」

…なんて場合は、何らかの電磁波とケーブルの波長が合ってケーブルがアンテナ代わりになってノイズを拾っているのかもしれない。

夢のような音を出したケーブルを他の部屋に持ち込んだら他のケーブルと何の変わりも無い音を出すなんて事も十分考えられるのだ。


しかし、ノイズだろうが歪みだろうが、オーディオでは心地良い音を出した者が勝者なのは間違いない。




iPhoneからの投稿