TAOC TITE-35





TAOCには鋳鉄が数種類存在する。




先ず密度、炭素含有量が段階的に変化するグラデーション鋳鉄。ラックスマンのフラッグシップにも使用される。素材としてはハイカーボン鋳鉄より硬いらしく、ステンレスピンスパイクと組み合わせることで振動吸収性を上げている。


続いてハイカーボン鋳鉄とアドバンスドハイカーボン鋳鉄。鉄と炭素がミルフィーユ状に重なっており、非常に振動吸収性が高い。


特にアドバンスドハイカーボン鋳鉄の受けは振動吸収性が高いが、恐らくスパイクにするには柔らか過ぎるのだろう。



TAOCにはステンレスのスパイク受けも存在するが、こちらは傷付き防止の為のもので、振動を吸収する能力は無いようだ。


TITE-35ではスパイクがハイカーボン鋳鉄、スパイク受けがアドバンスドハイカーボン鋳鉄となっている。


これらはトランスミッションやブレーキローターなど、高負荷に加え激しい振動に晒される鋳造パーツのノウハウから生まれたもの。


自動車部品でも、振動のコントロールは命題で、ブレーキの鳴きや金属疲労に繋がるので、マテリアルの振動吸収性は極めて重要である。


しかし、金属を溶かす段階からオーディオパーツを作成出来るのは世界でもTAOCくらいのものだろう。



そのTAOCがオーディオ用にこしらえたのが上記の鋳鉄で、その他どれにも属さず"鋳鉄"とだけ表記されたものがある。




持った感じはスカスカの鉄と言うイメージ。


鋳鉄同士をぶつけても鉄やステンレスのようにカチカチ音がしない。


ハイカーボン鋳鉄はグラデーション鋳鉄より柔らかく減衰性が高いとの事だが、まさか触って違いを感じる程とは驚きだ。


因みにTITE-35S3とTITE-35S4があるが、末尾の数字はパッケージの個数である。





第一印象は「期待はずれ」




インシュレーター聞き比べでダントツ良かったTITE-25PIN、その重量バージョンの46PINは更に良かった。


重量はTITE-25250gTITE-46800gで素材が同じで大きく重くする事で大きく性能アップするのを体感した。


鋳鉄の重さは音質に直結するのだ。


それではハイエンドながら355gTITE-35はどうなのか。





値段とは裏腹に音の方は微妙な変化。


音は変わっているが何が変わっているのか分からない。


これはアハ体験と言うものに似ている。ゆっくり変化する画像、いくら見てもどこが変わっているのか分からないのだが、ゆっくりと一部の大きさが変わったり色が変わったりしている。中々気づかないのだが、一度気付いてしまえば変わっていく様子は明らかなもの。


オーディオも一緒で、何が変わったか分からなくても変わった音を特定するとさっきまでなぜ分からなかったのか不思議になるほど違いを感じる。


先ず800gTITE-46が最もアドバンテージと感じた最低域の解像度に注目してみると、やはり重さが半分以下のTITE-35は46に及ばない。


50Hz以下の最低域では瞬発力、スケール感、解像度全てTITE-46に分がある。


しかし、一般的に"低音"と呼ばれる80300Hzくらいでは逆にTITE-35"正確さ"を感じる。


スケール感は無いが正確精巧に作られたミニチュアのような低音だ。


次にメタリックな耳に付く高音の吸収性では圧倒的だったTITE-46だが、TITE-35は更に上手である。46は吸い過ぎくらいに思っていたが、35との比較ではまるで大人と子供の戦いである。


しかし、46が劣るかと言うとそうでもなく、良く伸びた最低域と取り逃した高音のお陰で、全体的にはヌケが良い開放的な音となっている。




TAOCはこれを「華やか」と表現しているが、TITE-35の正確な音は、言い方を変えれば地味である。


TITE-46は少々騒がしいと言えなくも無いが、全体の雰囲気まで含めて評価するとTITE-46の勝ちか


評価をほぼ確定させて最後にもう一度TITE-35の音を確認し、比較試聴を終わりにしようと思ったが、46に戻すとボーカルのリアリティが数段劣る事に気づく。


もう一度スピーカーを下ろしTITE-35にすると、やはり目の前で人が話す実在感が違う。


ヌケの良い全体の雰囲気、量と質の最低域に支えられたスケール感で勝るTITE-46、一方、地味だが僅かにボーカルのリアリティがあるTITE-35



オーディオショップではどんな音が好みかと聞かれるが大抵あまり理解して貰えない。小生の目指すのは"ボーカルとドラムのリアリティがある音"である。


カーテンがあったらその向こうで本物のドラムを叩いているのかスピーカーの音か分からない音。…加えて人の声は気持ち悪いほどの実在感があって欲しい。


ドラムならTITE-46なのだが、ボーカルはTITE-35


本当はどちらも譲れないのだが、最低域のスケール感を伸ばすプランはまだまだあるので、現時点の小生の回答はTITE-35である。



しかし価格差を考えればTITE-46はやはり素晴らしい。小生が入手したのは何十年も前の未開封品だが、パッケージの当時の価格は7500円だったようである。長らく形を変える必要がないのも音を聞けば納得である。



因みにこのTITE-35、とても滑る。新品では滑り止めシールが付属するようだが、僅かでも厚みがあるものを挟めば音が甘くなる。


ビリヤードのチョークの粉を塗布してみようかと思うが、最終的には接着剤も考えている。







あ、こう言う事もできるのか…