源氏物語イラスト訳【紅葉賀155】笹分けば
「笹分けば人やとがめむいつとなく駒なつくめる森の木隠れ
わづらはしさに」
とて、立ちたまふを、
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は宮中の女官に手を出すこともなかったのですが、年増の源典侍(げんのないしのすけ)には少し興味を持って、ちょっかいを出しています。
源氏物語イラスト訳
「笹分けば人やとがめむ
訳)「笹を分け入って逢いに行ったら、誰かが見咎めるでしょう か。
いつとなく駒なつくめる森の木隠れ
訳)いつでも馬を手懐けているような森の木陰では
わづらはしさに」とて、立ちたまふを、
訳)厄介なことだからね」と言って、席を立ちなさるのを、
【古文】
「笹分けば人やとがめむいつとなく駒なつくめる森の木隠れ
わづらはしさに」
とて、立ちたまふを、
【訳】
「笹を分け入って逢いに行ったら、誰かが見咎めるでしょう か。いつでも馬を手懐けているような森の木陰では
厄介なことだからね」
と言って、席を立ちなさるのを、
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
■【笹(ささ)】…竹類のうち、小形で茎の細いもの
■【分け】…カ行下二段動詞「わく」未然形
※【分く】…分け入る
■【未然形+ば】…順接仮定条件の接続助詞
■【人】…世間の人々
■【や】…疑問の係助詞(結び;「む」)
■【とがめ】…マ行下二段動詞「咎む」未然形
※【とがむ】…見咎める
■【む】…推量の助動詞「む」連体形(二句切れ)
■【いつとなし】…いつと限らない。常にそうだ
■【駒(こま)】…馬
■【なつく】…てなづける。なれ親しませる。なじませる
■【める】…婉曲の助動詞「めり」連体形
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【木隠(こがく)れ】…木陰
■【とて】…~と言って
※【と】…引用の格助詞
※【て】…単純接続の接続助詞
■【立つ】…席を立つ
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【を】…対象の格助詞
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「君し来ば手なれの駒に刈り飼はむ盛り過ぎたる下葉なりとも」
と言ふさま、こよなく色めきたり。
「笹分けば人やとがめむいつとなく駒なつくめる森の木隠れ
わづらはしさに」
とて、立ちたまふを、
【問】 傍線部の心情として最も適当なものを選べ。
1.源典侍の誘いの贈歌に対し、光源氏は、「世間の噂になってしまうのが煩わしいから」と、駒を自分にたとえて断りを入れている。
2.源典侍の誘いの贈歌に対し、光源氏は、「他の情人に見つかると厄介だから」と、二句切れの答歌で断りを入れている。
3.源典侍の誘いの贈歌に対し、光源氏は、「自分には心に決めた愛人がいるから」と、駒を愛人に見立てて断りを入れている。
4.源典侍の誘いの贈歌に対し、光源氏は、「他にもあなたには愛人がたくさんいるでしょう」と、三句切れの答歌で断りを入れている。
5.源典侍の誘いの贈歌に対し、光源氏は、「世間の噂になってしまうのも困るから」と、句切れなしの答歌で断りを入れている。
男女間の和歌のやりとりは、「贈答歌」のなかでも「相聞歌(そうもんか)」などといわれます。
今回は、直前の引き歌どうしの会話の戯れを経て、
〈源典侍の贈歌〉
・「下葉」⇒源典侍
・「駒」⇒光源氏の馬
に対し、
〈光源氏の答歌〉
・「笹」「森」「木隠れ」⇒「下葉」の縁語
・「駒」⇒源典侍の手なずけた他の男たち
と、返しているようですね。
※【答え】は最後にあります。ぜひやってみてね!
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。
答え…【2】