【受験古文速読法】源氏物語イラスト訳 -4ページ目

源氏物語イラスト訳【紅葉賀159】内侍=源典侍

内侍は、なままばゆけれど、憎からぬ人ゆゑは、濡れ衣をだに着まほしがるたぐひもあなればにや、いたうもあらがひきこえさせず。

 

【これまでのあらすじ】

桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。

光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は宮中の女官に手を出すこともなかったのですが、年増の源典侍(げんのないしのすけ)には少し興味を持って、ちょっかいを出しています。

 

 

源氏物語イラスト訳 

 

 

内侍なままばゆけれ

訳)源典侍いくらかきまりの悪い気がするけれど

 

 

憎からゆゑは、濡れ衣だにまほしがるたぐひなれ

訳)憎から思う人ためならば、濡衣さえたがる連中いるそうからであろう

 

 

いたうあらがひきこえさせ

訳)それほど否定申し上げない

 

 

【古文】

内侍なままばゆけれ憎からゆゑは、濡れ衣だにまほしがるたぐひなれいたうあらがひきこえさせ

 

【訳】

源典侍いくらかきまりの悪い気がするけれど憎から思う人ためならば、濡衣さえたがる連中いるそうからであろうそれほど否定申し上げない

 

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■【内侍(ないし)】…内侍司(ないしのつかさ)に所属する女官。ここでは源典侍(げんのないしのすけ)のこと

■【は】…取り立ての係助詞

■【なま~】…いくらか、なんとなく接頭語

■【まばゆけれ】…ク活用形容詞「まばゆし」已然形

※【まばゆし】…きまり悪い。はずかしい

■【ど】…逆接の接続助詞

■【憎から】…ク活用形容詞「にくし」未然形

■【ぬ】…打消の助動詞「ず」連体形

■【人】…思い人。ここでは源氏をさす

■【ゆゑ(故)】…~のため

■【は】…強意(順接仮定条件)の係助詞

■【濡れ衣(ぬれぎぬ)】…ぬれた衣服。転じて、無実の罪。根拠のないうわさ。事実無根の浮き名。汚名

※【憎からぬ人ゆゑは濡れ衣をだに着まほしがる類】…古今六帖「憎からぬ人の着すなる濡衣はいとひがたくも思ほゆるかな」、または、後撰集「憎からぬ人の着せけむ濡れ衣は思ひにあへず今乾きなむ」の引き歌

■【だに】…類推の副助詞

■【着】…カ行上一段動詞「着る」未然形

■【まほしがる】…~したがる

※【まほし】…希望の助動詞

※【―がる】…動詞化させる接尾語

■【たぐひ(類)】…連中。例

■【も】…強意の係助詞

■【あれ】…ラ変動詞「あり」已然形

■【ば】…順接確定条件の接続助詞

■【にや】…~であろうか

※【に】…断定の助動詞「なり」連用形

※【や】…疑問の係助詞

■【いたう~ず】…それほど~ない

■【も】…強意の係助詞

■【あらがふ】…否定する

■【きこえさせ】…サ行下二段動詞「きこえさす」未然形

※【きこえさす】…謙譲の補助動詞(作者⇒帝)

■【ず】…打消の助動詞「ず」終止形

 

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ふだん、わたしたちが何気なく使っていることば。

 

「濡れ衣」なんていうのも、なぜそれが「身に覚えのない汚名」の意味で用いるのかも分からず、「それは濡れ衣だ!」などと叫んでいる人が、なんと多いことか――。

 

 

「濡れ衣」の語源は諸説あるようですが、

今回の『源氏物語』を読むと、このような「引き歌」から派生して広がっていったんじゃないかという気がします。

 

 

憎からぬ人の着すなる濡衣はいとひがたくも思ほゆるかな​(古今六帖=平安時代の私撰和歌集)」

 

「いとひがたく」というのは、「厭ひ難く」と、「いと干(ひ)難く」との掛詞です。憎からず思う恋人が着せた「濡れ衣」なので、厭に思うことができない、もちろん、「濡れ衣」なので乾き(=干)にくいってわけですね。

 

 

また、『後撰和歌集』には、このような相聞歌が載っています。

 

①「目も見えず涙の雨の時雨(しぐ)るれば身の濡れ衣は干るよしもなし(小野好古)」

②「憎からぬ人の着せけむ濡れ衣は思ひにあへず今乾きなむ(中将内侍)」

 

小野好古(おののよしふる)が、元の妻であった中将内侍に浮気を疑われたときに詠んだのが①の歌。

①「あなたに疑われた悲しみの涙が目が見えないほど出るので、 濡れ衣は乾かす方法もないよ

 

それに対し、中将内侍は、

憎からず思う女性が着せたとかいう濡れ衣は、あなたの思いの火に堪えられず、今にきっと乾くでしょう」 と返しています。

 

「思ひ」は、和歌修辞あるあるの「思ひ」と「」との掛詞。また、①②どちらも、「濡れ衣」に関連深い「時雨」や「涙」、「干る」や「乾く」などの縁語を用いて、濡れ衣のじっとり感を印象づけています。

 

 

昔から歌に詠まれたり伝承されたりしてきた「濡れ衣」のニュアンス。こういう「引き歌」から、「濡れ衣」ということばだけがひとり歩きしたんでしょうか。

 

平安時代は、それでも元歌を念頭に置いて引かれていたため、「濡れ衣」のじっとり感や「干る」「乾く」との対比構造も含めて、話し手も聞き手も味わうことができたと思いますが、

現在では、「濡れ衣」ということばだけが、なぜか「いわれのない罪」という意味で使われている。

 

 

古典を学ぶ意義って、こういうところにあるんじゃないかって思います。

分からないままに、何気なく、表面的に言葉を用いる人と、その言葉のもつ重みを、じっくり噛みしめながら用いる人とでは、入ってくる深みも、ぜんぜん違いますよね。

 

 

 

 

 

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