{349CE58D-D068-4EDE-BC26-4B713A554FA0}

{E19896EA-6DE1-41E3-8DBC-CC6A00109965}


先日、友人に誘って頂き、久しぶりに歌舞伎を観に行って来ました

これが本当に素晴らしかったのでレビューしたいと思います。

12月の歌舞伎座は年末ともあり、朝昼晩と3本の公演は年末らしいエンターテイメント性の高い演目ばかりでした。

今回は朝の部の新作歌舞伎「あらしのよるに」を観て来ました。

私は昔から歌舞伎が好きで、古典は今まで結構沢山の演目を観て来ていますが
型を重んじる事を大切にしている歌舞伎の中で、現代劇の新作歌舞伎に歌舞伎性が有るのか?と疑問で、今まで新作歌舞伎には苦手意識を感じてなんとなく食わず嫌いで遠ざけていたのですが、お誘いともあって初めての新作を!

お子さんがいる方はご存知かも知れませんが、
「あらしのよるに」の原作は、きむらゆういちさんという作家さんのもので、もともとは絵本作品です。

狼と山羊の種を超えた友情を綴った物語で
あまりにも良い話だったので調べてみたら、映画化され数々の受賞も果たしている有名なお話だった様です。

自然界の弱肉強食の世界の中で、捕食者である雄の若い狼のガブと、本来ならばガブに食べられてしまう立場の雄の若い山羊のメイがそれぞれ夜中の山道で嵐に遭ってしまう。 
彷徨った末に見つけ逃げ込んだ真っ暗闇の山小屋で偶然2匹は出会い、
お互いの姿も見えないまま、朝になるまで身の上などを語り合っては労い慰め合って行くうちに2匹に友情が芽生え始める、、、

暗闇が明ける頃に嵐は過ぎ去り、姿が見えないまま2匹は帰路に着く事となったのですが、
また会いたいと感じて、別れ際に翌日の昼間に同じ場所でまた会う約束をしました。
それにはお互いの姿は知らないので、
「『あらしの』…『よるに』」  
という合言葉を元に再会を約束する。
そして翌日、再び山小屋の前で会ったのは良いのですが、
狼と山羊だったという現実を知った2匹は困惑し、初めは本能と理性を天秤にかけながら動揺しながらも過ごすのですが、自然とお互いを思いやる気持ちが強くなり、やはり「2人はともだち」という意識が確信に変わる。

ただ現実は2匹だけの世界から群の世界へ。
野生界という社会の中で捕食者と被食者である狼と山羊の群の中の残酷な対立や、祖先の怨みつらみが起こした複雑なカルマがシンクロして行き、、、
2匹の友情はタブーなものに。

それでも2匹は求め合い、群の仲間には言えずに2人きりで内緒で会っては友情を深めていく。

このあとの話はとても純粋かつ壮絶なクライマックスでした。
まるで、人種や国、宗教観などの相違で起こる人間界での対立やしがらみが映し出されている様で深く考えさせられる物語でした。

私的な解釈ですが、それは友情という言葉を超越した愛の話に見えました。
恋愛とはまた違う愛の形。
愛について、深く考えさせられてしまった。

中村獅童さんと尾上松也さん、血脈を重んじる歌舞伎の世界では立場的にはあまり恵まれなかったかも知れないお二人が、この役を華と才能と努力で勝ち取り、歌舞伎の世界を生き抜いている2人の織りなす友情の話の中に同世代である私はとても熱いものを感じました。

歌舞伎ともあり、悪役や善者の違いを表す隈取りや、歌舞伎の様式的な立廻りの中では、ここぞという時に見得を切ったり、狼と山羊との抗争の殺陣のシーンでは「とんぼ」と呼ばれる宙返りなども織り交ぜ、長唄の音楽と義太夫節が率いる語りの中で尾上松也さんが東京歌舞伎、音羽屋の型でしっかりと歌舞伎を表現していて、なるほど新作歌舞伎もしっかりとした歌舞伎なんだと知り、感服でした。

歌舞伎には珍しく、語りの浄瑠璃の竹本義太夫の太夫や三味線と中村獅童演ずるガブとの言葉での掛け合いもあったりと、その姿も新鮮で面白かったです。
そういうところが新作らしいのかも。


歌舞伎に限らずとも、知識を重ねて行く事で感じるものが深くなる事はとても楽しいものなので、苦手意識などは取っ払い、新しいものはどんどん観ていこうと感じました。
今は古典と言われている演目も、何百年も前の発表当時には新作だったはずですから、先人の残した古い物を懐かしみ、重んじる事は素晴らしいけれど
新しいことを受け入れ深めていく事は今の時代を生きている私たちには自然なことなのだと改めて気付きました。

古典芸能の世界には日本人の本来のあるべき姿が見えると思います。
最近では歌舞伎の基となったお能にも触れ、
あの様式的な最小限の表現の中での奥深さに感動を覚えて、来年はもっと色々な作品を観て能の世界も深めていきたいと感じました。

仕事納めも終わり、私もすっかりリラックスモードです。
今年もこの長たらしいblogへのお付き合い、ありがとうございました。

皆様も明るく穏やかな新年をお迎え下さい!!