月あかりの窓辺に、ぼんやりと浮かび上がる蝋燭のシルエットが、炎など着いていないのに、まるでそっと灯火でちらちらと燃えているように映ります。そこで、わたしは猫のかぼすに、そっと耳打ちをします。

 

「きょうのことは、月あかりの窓辺の記念日と言って、きっとずっとずっと語り継がれるに違いないのだから、ゆっくりと息をして、しばらく何が起こるのか、この蝋燭の影を見つめていよう」

 

かぼすは、返事をしません。その代わり、じっと黙って、月あかりの窓辺の蝋燭の影を見つめています。ちらちら、ちらちら、と、それは本当にあたたかな炎を内に秘して揺れながら、静かに優しく、燃えているのです。

 

見上げると、円い大きなお月様が輝いています。すると、お月様はにっこりと微笑んで、かぼすに話しかけます。

 

「かぼすちゃん、あなたがきょう、アーイシャさんと目撃するすべては、そっくり、そのまま、すべてなのです。でも、誰にも話す必要はないし、また、話してはいけません。何も、怖がることはないし、ひとつ、気をつけることがあるとすれば、そう、ゆっくりと息をすること」

 

やっぱり、かぼすは、返事をしません。でもその代わりに、ゆっくりと息をしながら、お月様の光を浴びています。そして、じっと、蝋燭の灯りの影を見つめています。

 

わたしは、かぼすの方に向き直ります。すると、さっきまでは気が付かなかったけれど、かぼすの二つの瞳が、ちらちら、ちらちら、と、やっぱり月の光に照らされて、奥の方で深く優しく燃えているのです。わたしはとても美しい気持ちになって、かぼすの瞳の奥を覗き込みます。すると、かぼすもキョトンとした目をして、わたしの瞳をじいっと覗き込むのです。

 

(ああ、そうか。わたしの瞳も、月あかりに照らされて、灯火となって燃えているのだな)と気がつきます。

 

窓辺に映ったほのかに燃える蝋燭のシルエットが、いつの間にか、ずいぶんと短くなっています。

 

それは、ちらちら、ちらちら、と、やっぱり揺れながら、美しく燃えてまわりをわずかに浮かび上がらせ、ぼんやり、ほんのりと窓辺に映ります。

 

ふいに、大きな雲がお月様をみるみると覆い隠したかと思うと、キャンドルも、かぼすも、わたしも、すっかり燃えるのをやめてしまい、さて、どうしたものかと戸惑うのです。わたしは急に心許なくなって、思わずかぼすをぎゅっと胸の中に強く寄せて抱き締めます。あたたかなかぼすの温もりが、まるで、胸に溶けてゆくようです。

 

いつの間にか、朝が来ています。

わたしは、横になっています。

かぼすはわたしの腕の中で、すやすやと丸くなって気持ちよさそうに眠っています。

 

太陽が鮮やかにかぼすとわたしを照らして、窓辺にくっきりとした大きな影を貼り付けています。

 

蝋燭はもう、ありません。お日様があたたかくて、なんとも心地いいので、わたしはもうひと眠りしようと思い、かぼすの目の上と白くて柔らかいお腹を撫でながら、静かに、そっと、瞼を閉じました。

 

 

Aisha

 

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