久々の従兄からの電話は叔父の訃報を知らせるものでした。


実母には2歳上に姉がいて、次女が母、そして母の2歳下に

弟がいます。

亡くなった叔父は母の直の弟にあたります。


日曜日がお通夜で月曜日が告別式なんだけど

おばさんはさすがにムリだよな?

でも、一応知らせておこうと思ってさ


従兄のその言葉にワタシ答えました。


んーーどうかなぁ

でも実の弟だもんねぇ

仲のいい姉弟だったしね

ウチのおばあちゃんならお葬式に行けそうだけど・・・



母は認知症を患っています。

要介護3。

果たしてお葬式に行けるのだろうか


認知症にもいろいろな症状があるようですが、母の場合善悪の判断がつきます。

排泄も食事も完璧に自立していて、徘徊なども一切ありません。

毎朝起きるとお化粧だってしちゃいます。

入浴もひとりでできるし、ドライヤーで髪の毛だって乾かします。

暴言を吐くこともありません。

いつもひたすら「迷惑かけてごめんね」とワタシに謝ります。

発病前の元々の性格が穏やかだったこともあるのでしょうか。

介護する側にとってはまさにステキ認知症。


パッと見は全く認知症を患っているようには見えないんですがね・・・

問題は「記憶」というわけです。


3秒前に話したことはキレイさっぱり忘れます。

ついでに夫や息子の名前も忘れかけています。

でも不思議ですよねぇ。

ワタシとワタシの家族のことは忘れないんですよね。

ちゃんと名前も言えますしね。


あ、自分に姉弟がいることは覚えていません(^_^;)

なのに、自分の生年月日はシッカリ言えたりします。

まさしく不思議ちゃん♬


そんな母の口からよく出る名前があります。


「カオル」


母に聞くとカオルさんは自分の息子のようです。

娘の名前は「なの」、息子は「カオル」

これセットのようなものです。


が、実は息子(ワタシの兄)の名前はカオルではないんですよね。

カオルとは亡くなったという母の弟の名前です。



なぜカオル、カオルと言うんだろう。

弟と過ごした昔の記憶が残っているんだろうか・・・

母にとってカオル叔父さんは大切な大切な弟だったに違いない。

それならやっぱり最期のお別れはさせた方がいいんじゃないか・・・


そう思いましてね。

告別式に連れて行くことにしたわけです。


場所は東大和市。


え?!

東大和市ってどこだよっ!

そんな市があるのか??


早速ググってみたら立川の近くってとこでしょうか。

2時間はみないといけません。


遠いな・・・



母を連れて行くことにしたと夫に話すと、「それならオレも行く」と。

この人は意外に気遣い屋さんです。

会場までの2時間、母とサシだとワタシが大変だろうと察してくれます。



当日、9時に母のいるGHへ行きました。

喪服を着せるのはなんてことがないはずです。

妊婦さんが着るような、ストンとした七分丈ワンピースの喪服にしましたから。

問題は・・・


ストッキング!!


もう何年もパンストなど穿いたことのない母に一体どうやって穿かせるんだよっ!

試しに用意したLLサイズのパンストを母に手渡すと、

「こんな小さいの穿けないわよ」と。


穿けないわけないじゃんっ!

MサイズのおばあちゃんにLL買ってきてんだよ

これ以上大きいのなんてないんだってばっ!


ダメよねぇワタシ。

優しく穿かせてあげればいいのよね。

でも時間がおしてるんだってば!

ばーちゃん動くから穿かせにくいし!!


ってことで、職員さんにSOSで無事完了。

すごいわよ職員さん。

ストッキングなんて穿かせ慣れていないはずなのにさすがだわ。


準備完了。

夫の運転で助手席にワタシ、母はセカンドシート、その後ろに子どもたち。

いざお葬式へ!



ねぇ、誰が亡くなったの?

あのね、カオルおじさんが亡くなったんだよ

えーーカオルさんが亡くなったの??

うん、だから今からお葬式に行くの


3分後・・・


ねぇ、誰が亡くなったの?

カオルさんだよ

えーーカオルさんが亡くなったの?


3分後・・・


ねぇ、誰が亡くなったの?

カオルおじさんだよ

えーーカオルさんが亡くなったの?




リピート・エンドレス!!



繰り返しているうちに思わずおかしくて夫に言いました。



笑っちゃうよね。

カオルさんが亡くなったって言うと必ず返事は

「えーーカオルさんが亡くなったの?」なんだね。

どうして?とか、いつ?とか、他のリアクションは一切ないんだね。

今聞いたことはすぐにリセットされるんだよね。

だから何度聞かれても「だーかーらー」とかって怒っちゃいけないんだろうね。

本人にしてみれば今初めて聞いたのになんで怒られるんだろうって感じ?

でもたまには違った返事を聞いてみたいもんだね。



東大和市の会場に着くまでこの会話は途切れることなく繰り返されました。

途中でワタシはギブアップ。

夫が代わりに優しく答えていました。



会場について母が一番に目にしたのが「●○家」という文字。

そこには母の旧姓が書かれています。


ねぇ、●○家だって

誰か亡くなったの?


うん、カオル叔父さんが亡くなったんだよ


えーーカオルさん亡くなったの?



喪主であるカオル叔父さんの奥さま、母にとっては義理の妹が迎えてくれます。


お姉さん、来てくれたの?ありがとう

来てくれるなんて思ってなかったわ

本当にありがとう


手を握られ久しぶりの再会をした二人。

ふと見ると母が目を覆っています。


あれ、泣いてる・・・

わかってんのか??


棺に納められた叔父の元へ。

まるで寝ているかのような安らかな顔で叔父がそこにいます。


母、無言・・・


わかっているのかビミョー



間もなく告別式が始まり、喪主、親族の順でお焼香をあげます。

ワタシは母と一緒に前へ進み、一礼をしてお焼香を済ませました。


母、完璧な手順でお焼香



式は滞りなく進み、そのまま初七日法要へと入った時、

エアコンの風が直にあたるのか、寒い寒いという母を一旦外へ連れ出すと、


ここは暖かいねぇ~


と満面の笑み。



ちょっと!

弟が亡くなってんですけど??

もしかしてもう忘れてる??



再び会場に入り、棺の中にお花を入れ最期のお別れです。

母にもたくさんのお花を渡し、叔父さんとのお別れを告げます。

なんとなく神妙な面持ちでお花を添える母。


3秒後・・・


なんか疲れちゃった

もう帰りましょうよ



えーーーーーーーー!!!

目の前に弟が眠っていますけど・・・



火葬場までは無理と判断し、ワタシたちはここで会場を後にしました。

途中、車の中で着替えたワタシ。



さてと、みんなでお昼でも食べて帰りますかね。



途中で立ち寄ったファミレスで意地悪なワタシが聞きました。


ねぇねぇ、なんでおばあちゃんだけ喪服着てるの?

どっか行ったの?

なにかあったのぉー?


あ、ホントだ。

知らない(^_^;) 

なんでワタシだけ喪服なんだろう




もし今母が健常なら、あまりにも突然の弟の死に嘆き悲しんでいたはずだ。

そう考えたら認知症って幸せなのかもしれないね。


でもきっとワタシが先に死んでも母は忘れちゃうんだろうな。