映画を観に行きました。
Hindi映画です。
映画の内容も面白かったのですが、
さらに嬉しさを増したのは、
後半の舞台となったヒマチャル州とラダックが懐かしかった。
もう里帰りしたような…そんな気持ちでわくわくしながら観ていました。
セリフの一部と歌詞の一部にヒマチャル語が入っていて、
さらに懐かしさがこみあげてきました。
ヒマチャル語はヒンディ・ネイティブのインド人にも意味不明だろうと思います。
私、少し知っているのは、元カレがヒマチャル州出身だから

で、映画の感想の掟は、ネタバレをしない…ということのようですが、
ヒンディ映画の場合、いくらネタバレしても、「おきまり」があるので、
そしてまたその「おきまり」がなければ、面白くないのです。

一応、日本なんで、なんとなくネタバレがないように努力しますが。

さて、前半の舞台となるのがIEC工科大学。
たぶん、IISCかムンバイ工科大学がモデルだろうと思います。
キャンパスはデリーのようセットが作られていました…。

で、工科大学での背景として、インドの現代社会の縮図が見え隠れしています。
村一番の秀才が「学士」を目指す。
低学歴の親が決めた進路による入学、少数民族、
貧困家庭や低いカーストが工学部を志す傾向があるということです。
これらは、ネルーの一族(インディラやラジブ・ガンジー)の政策によって、
優遇させる効果によるものなのですが、それが効きすぎて…というか、
逆差別状態になっているともいえます。
逆差別については、深く表現されていませんが、
かなりの競争率で社会的に恵まれていない家庭の学生が入ってきていることは、
映画の中でわかると思います。

またエンジニアは、海外で職を得、高い給料を得る機会なので、人気があります。
日本でも都会で若い背広を着たインド人を見かけると思いますが、
その中でもエンジニアの仕事をしている人たち…、
彼らは日本には興味がなく、職場でコンピュータに向かっていて、
自分の部屋に帰るという生活をしています。
大抵はアメリカの派遣会社の社員で、第二希望の日本に派遣されてきたからです。
第二希望でなく、第三希望であるかもしれません。
日本は英語が通じないので…。

セリフの中で「男の子からエンジニア、女の子なら医者」
というのがありましたが(後半でしたね)
高い教育の性差も、さり気なく・・・。
女性の医者は、(宗教的理由も含めて)男性にみてもらいたくない、
という社会だから。
日本でもウイメンズ・クリニックがありますよね。

カップルとしてエンジニアと医者が多いのかというと、
カーストや宗教の違いがあるので、それほどでもなさそうです。
親が決めて当たり前の社会ですから。

で、前半、登場人物の家庭状況が徐々に見えてきます。
「おきまり」の[婚約者がいる+主人公と良い関係でない父親を持つ]女性ピアとの恋愛。

前半途中で後半はヒマチャル州が舞台となることを臭わせる歌。
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ここでちょっと字幕ばなし。
◆タイトルは「3バカ」"IDIOT"はセリフの中で効果的に使われているので
字幕に頼らず、聞きながら注意してくださいね。

◆チャーラचालという言葉を、いろいろ使っているはずです。
言語に興味ある人は聴き取ってください。動詞です。
「行く」「来る」なんかも…。翻訳する人も大変だぁ。

◆「2ルピー頂戴」が字幕では「4ルピー」となっていて、

「5ルピー」という字幕は「おつりはいらない」と言っています。
わざとの誤訳だろうと思いました。
1ルピーだけチップにしたほうが日本人には通りがいいからでしょう。
チップの習慣がなく、こういう便利屋的な少年がキャンパスの中に入って商売。
簡単には理解できないからでしょう。

「空」はカーリーです。似ていますね。

お姉さんの出産シーンは…にゃは☆

あと、先ほどの述べましたが、
意味不明のカタカナのほとんどはヒマチャル語と考えていいでしょう。
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後半ですが、行方不明になった主人公を探すことが中心になっています。
まず、名前から「避暑地のシムラー」にいるとライバルがいいます。
シムラーは英国植民地時代に「夏の首都」でした。
主人公の(偽りの)名前に「シャーマルダス」が入っている「シムラの月(10かもしれません)」
あ…名前については、最後のほうで詳しく。

20年数年経ってもヒマチャル州の景色が変わらないこと。
懐かしくて懐かしくて・・・。

シムラーで主人公と同じ名前の人物、実は、主人公の雇い主の息子だったことが判明。
雇い主は、主人公の天才的な頭脳を利用して息子の替え玉として、
工科大学に入学させたのでした。

そして、主人公の恋人ピアが元の婚約者とマナーリーで結婚式を挙げる。
そう、マナーリーはスキーもでき、日本でいうと軽井沢のような土地です。
リンゴ農家の里だと、元カレが言っていました。
カレの実家もまたリンゴ農家です。

すごく美しい女性が着るすごく美しい花嫁衣裳。
あまりにキレイだったんで、自分が着るという妄想すら出てきませんでした。
(まあ既婚者だし…トシもトシだから…)

ここで、花嫁を連れて主人公が住むラダックまで…。

ラダックに到着し、主人公が校長をしている小学校では・・・。

◇バイクのエンジンを使ってハダカ麦を精製し、ツァンパ*を作る子どもたち。
*チベット系民族の主食。ハダカ麦を粉にし、焦がす。
ラダック産は、ものすごく美味しい

◇自転車を動力にして羊の毛を刈る子どもたち。

工学の知識が生活の一部となるような教育を行われていることを目の当たりにする。
校庭のいたるところで、アグレッシブな教育の様子が繰り広げられている。
ライバルがたちしょんするのを自作の望遠鏡で覗いている子ども。
子どもの悪戯が、行方不明の主人公とそっくり同じ☆

で…ネタバレのため省略☆

湖のほとり子どもたちとラジコンで遊んでいる男性…すなわち主人公。
…あの、関係ないんですが、私の友達でラダックの校長している友人に似ていた。
もしかして、モデル???ただし彼は、若いころスリムでしたが太った…私と同じ
で、ステキなラブシーン。
その後、主人公は本名を明かします。
「プンツォ・ワンギェルཕུན་ཚོགས་དབང་རྒྱལ་」…それは、著名な科学者で特許も3000。
⇒字幕では「フンソク・ワングル」ですが、チベット語を知らないから仕方ない
で、ここでも「日本」が出てきますので、注意して聴いてくださいね。
校長兼科学者…ということで・・・
はい…happy end☆
邦題の「もっと、うまくいく」は

All Izz Well

…すべては、チャレンジでうまくいく。
…本名については、文末へ。
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主人公・主人公と書いてきましたが、物語そのものは、
脇役的なマドハバン演ずる動物カメラマン・ファルハンが本当の意味で主人公です。
インド映画ではよくあるパターンです。
で…あの女性と結婚したのか?? ちょっと不明でしたね。
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もうひとつ、デリーと思える場所→シムラー→マナーリー→ラダック
この間、物語の語り手であるファルハンは、1日の出来事としていますが。
20数年前+で、道がよくなったわけではないのに、この移動は???
地図上は可能に見えますが、高地なので坂が多くて無理だけど…これが映画☆
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ラジュー。貧困家庭でアクがないクセのあるタイプ。
もしかすると、現代インドの大学生男子の典型的なタイプなのかもしれません。
娯楽映画でありながら、彼の存在がインド社会を
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本当の悪者でない学長。
私は割合好きな先生でした。
大学教授がわがままで変わり者なのはふつうですから。
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風習メモ
◆パイロットがターバン シーク教徒が多い
◆遺灰 コルカタ(カルカッタ)の水葬が普通という訳ではありません。
◆制服 もちろん、英国統治時代の名残。すべての学校にあるという訳ではありません。
*蛇足ですが、ブータン…子どもたちが着ているのは「民族衣装型学校制服」です。
ブータンの教育はインドの指導によりますし、それは英国式の名残りでもあります。
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最後のほうで本当の名前「プンツォ・ワンギェル
チベット系であることがはっきりしました。
で、チベット難民であるかどうかは、はっきりわからないのですが、
シムラーで生活していた、チベットとの国境沿いの湖。
その可能性が高いと思います。
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北インドに住むチベット系民族
…なぜ「北」と限定するのかというと、
南は基本的にチベット難民の居住地で仏教寺院があり、
仏教寺院はチベット人以外にブータン人・ネパール人のチベット系。
(モンゴル人も)

北インドに住むチベット系民族は以下のように分類できます。
州でおおまかに分けますと、
ジャンムー・カシミール州、ヒマチャル州、アルナチャル州、西ベンガル州、シッキム州です。


◆元々、旧チベットだった地域からインド領になった「インド人」であるチベット系民族

ラダック人、ザンスカール人、(ラホール)スピティ族、それから、シッキム州はもともとチベット藩王家、西ベンガル州のダージリンなどチベット寺院の荘園、アルナチャル州は多民族なのですが、チベット系の遊牧民も居住し(厳密にはチベットだったと言えないというご指摘をいただいた)、と…。
◆ヒマチャル州に住むインド系+チベット系+ネパール系(旧グルカ)の人たち
これは混血もありえます。
ここは元々チベットだったのですが、インドとグルカが領有権を巡って闘い、
最終的にインドが勝ちました。主人公に対して恋人が「ヘンな名前」と言っていますが、
これは、ヒマチャル風のチベット語語源でネパール化しインド風になった名前が現地にあり、
それ風な名前を作ったからでしょう。
したがって、主人公の雇い主一家は、このチベット系とは言い難く、複雑な血統。
◆ギャガール・カムパ
1959年にダライ・ラマ法王がインドに亡命された時期に、
貴族~民衆まで難を逃れてインドに身を寄せたのですが、
実はそれ以前、1919年辛亥革命~1949年中華人民共和国成立にも、
カム地方=現在の四川省西部からインドに住みついた人たちもいます。
その人たちを、「ギャガール=インドのカムパ=東チベットの人」と自称・他称します。
この人たちはすでにインドに定着し、主に農業を営んでいます。
またカーストの中にも組み込まれています。
チベット語・ヒマチャル語・ヒンディ語・(英語)を当たり前のように使います。
名前もチベット名とヒンディ名と二つ持っています。
◆ご存知「チベット難民」もしくは「亡命チベット人」
1959年以降インドに難を逃れてきた人たち。
尚、1959年の数年のうちに逃げてきた人たちと、
それ以降、文革あたり以降から現在まで逃げてきた人たちとは、
育った文化が違うため、新難民をサンジョルワと呼びます。
サンジョルワは、一時はチベット人の中で差別的な態度を取られていましたが、
現在は数が増えたため、自文化の共有によってそういった態度はなくなりました。
インド人相手に中国語の先生をやっているチベット人もいます。
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と、予備解説で…。
この主人公はおそらく「チベット難民」だろうと思います。
ギャガール・カムパのの可能性もありますが、
生い立ちから想像すると…です。

この映画は2009年制作なので、北京オリンピックの翌年です。

娯楽映画に考え過ぎなのかもしれませんが、
優秀なカーストの低い人材は海外に派遣として流れていき、
亡命地インドでたくましく生きているチベット人たちに対して、
おおらかな目で、しかもしたたかに受け入れるインドのすがたが感じられるのです。

私の場合、インドで生活していたとき、
南インドからチベット人経営のゲストハウスでサーバントとして働いていた男の子がいて、
その子ときたら、一緒に神経衰弱をやれば、あっという間に勝ってしまう、
あまりの頭脳に「もったいないな」と思っていたのですが、
そういう子が大学の猛烈な入試に勝ち残って、
そしてインド社会の差別よりも海外派遣でいなくなる…、
そんな時代になってきた風潮と相まっていると感じました。

3馬鹿トリオというタイトルは、その流れに組み込まれないおばかさんたち。
そういう若者を求め、なおかつ、チベット人をインドの中で育てていき、
教育制度や科学のありかたを問うているのだろうと思いました。

私自身は、主人公がチベット系民族だったので、
自分がチベット人のようにすごく感動しました。
嬉しかった。

実は…インドでうまくいかず、ちゃらいチベット人の若者も少数とはいえ、
存在していますので。

チベット系民族を演じていたのはイスラムのアーミル・カーンだということも、
インドの懐の広さを感じてしまいました。

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極めて個人的なオチ。
帰りの電車でfacebook開いたらギャガール・カムパのマナーリー出身の元カレから誕生日コメント☆
特にやましい関係ではなかったんですが、
テレパシーというかなんというか…。



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