こちらの写真は仏師 斉藤侊琳先生の制作された「見返り観音像」です。

伝統的な仏師の技法と現代的な彫刻の魅力を併せ持つすばらしい作品だと思います。

 

九月二十一日の記事「訃報http://ameblo.jp/aokihitoshi/entry-12201982531.html

でもお伝えさせていただきましたが、去る九月十八日、仏師斉藤侊琳先生がこの世を去られました。

 

私にとって斉藤先生は、私の師匠関侊雲先生の師匠にあたります。

恥ずかしながら、自分は関先生に入門するまで斉藤先生について存じ上げませんでした。

しかし、一般の方々もかつての私同様、斉藤侊琳先生の名前をご存知無い方が大半なのではないでしょうか。

 

今日は不世出の仏師斉藤侊琳先生の功績を、私の偏狭な視点からではありますが、綴ってみたいと思います。

 

斉藤先生について、(強引に)一言で申しますと、伝統的な井波彫刻の技法を習得し現代彫刻の表現を身につけた後に、正統な京仏師の技を継承された、現代において最高峰の仏師の一人。と言うことが出来ると思います。

(斉藤先生の詳しい経歴につきましては、以下↓のリンク先をご参照いただければと思います。

http://www.sekikoun.com/master/ )

 

斉藤先生はまず、富山県井波の伝統的な木彫刻の修業を積まれます。

日本古来の厳しい内弟子修業によって徹底的に木彫刻の技術を身につけます。

 

その後、日展作家として現代彫刻作家として活動されます。

 

しかし、日本の仏像に感銘を受け、40を前にそれまでの仕事を全て捨てて、仏師の技術を学ばれるのです。

 

そして、仏師としての師、松久宗琳先生より侊琳の仏師号を授かったのです。

「不動明王立像」 斉藤侊琳 作

井波彫刻、現代彫刻の技術を身につけていた斉藤先生は、日本の伝統的な仏像のスタイルを崩すことなく、新しく洗練された仏像を次々と制作されます。

 

また、斉藤先生は日本の歴史に造詣が深く、伝統的な日本人の美徳を重んじていました。

そういったことから、日本史上の偉人、特に武士の人物像も数多く制作されています。

「蒙古軍大襲来ニ天に必勝祈願 河野道忠十四歳」 斉藤侊琳 作

それらの作品は今にも動き出しそうな躍動感と迫力に満ちています。

 

関先生より常々、“彫刻は面である”と言われます。

これまでの修業を通じて少しづつ、面を効かせるということが分かるようになってまいりました。

そうしますと、斉藤先生の作品の完成度の高さ、隙の無さを益々感じてまいります。

本当に偉大な方だったと実感いたします。

 

幸運にも自分は、関先生より特別のご高配をいただき斉藤先生に直接仏画をお教えいただきました。

そのこともあって自分は関先生の弟子の中でも比較的、斉藤先生と接する機会に恵まれました。本当にありがたいことだと思います。

関先生から常々、斉藤先生の下での修業は厳しいものであったと、お聞きしていますが、

しかし自分達孫弟子にはいつも優しく気を遣って下さり、紳士的に接して下さいました。

 

亡くなられる直前まで制作をされていた事を思いますと、まだまだすばらしい作品が作られたのではないかと、突然の悲報が惜しまれます。

 

今では、お浄土で仲の良かった奥様と再会されていることと思います。

斉藤先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。