世界は分けてもわからない (講談社現代新書)/福岡伸一- ¥819
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分子生物学において、
”全体は部分の総和以上の何ものかである”
というテーマについて語った本です。
生命現象を理解するために、顕微鏡を覗き、解像度を上げていけば、臓器→組織→細胞→タンパク質→アミノ酸というふうにミクロなパーツに分解していくことができます。
しかし、パーツを切り取り切り取り、ミクロな構造を確認できたとしても、逆にそれらを組み合わせつなぎ合わせていくだけで全体となるわけではありません。
全体を成すには部分の総和にプラスαが必要です。
パーツを切り取ると同時にこれらのプラスαの部分も切り取っている、だから世界は分けてもわからないというわけです。
不可逆的な時間の流れの中で秩序の破壊と再構築を繰り返しながら動的平衡状態を保つ生命という存在においては、そのプラスαはエネルギーや情報の流れということになります。
このへんは「生物と無生物のあいだ 」の内容の延長ですね。
鳥瞰的に見ると全体は見えるがディテールがわからない。
顕微鏡で覗くとディテールは見えるが全体がわからない。
それでも分けようとするのは、ミクロとマクロの往復を繰り返す以外に、世界を理解する術はないからだと筆者は結んでいます。
この本では、分子生物学だけではなく、一見全く関係のないように思えるような脳科学や芸術の分野のエピソードを交えながら、上記のようなテーマについて語っていますが、それぞれのエピソードの細部に拘れば拘るほど全体が見えなくなり、正直読みづらいです。
意図的にそうしているのかどうかはわかりませんが、この本の構成自体がこのテーマを体現しているようにも思えます。
そもそも本というものはそういうものなのかもしれませんが、読者の読力が試される一冊です。