違憲の「1票の格差」是正へ正念場 議員の「死活問題」に各党の思惑入り乱れ

[参院選挙制度]

毎日フォーラム~毎日新聞社
(現代ビジネス2011年03月04日)http://p.tl/S63u


 参院選の「1票の格差」を巡る選挙制度の見直し議論は今年、正念場を迎える。見直し論の旗振り役の西岡武夫参院議長は昨年12月に自らの私案を各党に提示。1月24日に召集された通常国会中に各党間で見直し案を合意し法制化を進め、次期13年の参院選で実施する予定だ。だが各党とも現行制度の見直し論は議員の「死活問題」ともなるだけに、いろんな思惑が入り交じり、議論が停滞しているのが現状だ。

 西岡氏は昨年12月22日、各会派会長クラスを集めた「選挙制度の改革に関する検討会」を開き、自らの私案を提示した。各都道府県単位の選挙区と非拘束名簿方式による全国比例代表が並立する現行制度を廃止し、全国を九つのブロックに区分する比例代表制に移行する案だ。選挙区制度と比例代表制を融合させた案と言える。

 9ブロックは次の通りだ。

▽北海道(定数12)
▽東北(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、定数18)
▽北関東信越(茨城、栃木、群馬、新潟、長野、定数22)
▽南関東(埼玉、千葉、神奈川、山梨、定数44)
▽東京(定数24)
▽中部(富山、石川、岐阜、静岡、愛知、三重、定数32)
▽関西(福井、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、定数40)
▽中国・四国(鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、定数22)
▽九州・沖縄(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄、定数28)

 この案で昨年7月の参院選の際の有権者数から換算すると、1票の格差は、最大が東京と北海道の1・15倍と、格差はほぼ解消される。衆院は全国を11ブロックに区分する比例代表制を導入しているが、西岡氏が9分割案を採用したのは、政府の地方制度調査会が06年に示した全国を9~13の道州に再編する構想を参考にし「経済圏や文化の要素があり、あまり分断しない方がいい」と判断したためだ、という。

 ところが、この私案に対し、多くの〝物言い〟がついた。

 自民党の中曽根弘文参院議員会長は「衆参同日選となれば非常に混乱する」と難色を示し、社民党の福島瑞穂党首も「全国比例がなくなるのは問題だ」とかみついた。民主党の岡田克也幹事長も「一種の比例制度で小党分立になる。衆院との調整をどうするかも問題だ」と指摘した。

2大政党制を念頭にした小選挙区制度を有する衆院に対し、参院が比例代表一本では各政党が分立する形となるため、衆参両院の方向性がかい離し過ぎるとの指摘だ。さらには「西岡案」では政党に所属していない無所属議員の立候補は事実上不可能になるなど、多くの問題点が指摘されている。

 13年参院選から導入目指すが……

 だが、西岡氏は今年前半にもこの案を「たたき台」として各党が一致する合意案を見いだし、今通常国会中に法制化を目指す考えだ。13年参院選から導入するためには2年間程度の周知期間も必要であるため、今通常国会で公職選挙法改正案などの法整備も完了させないと間に合わないためだ。次期参院選にこだわるのは「現行制度のままで次期参院選に突入すれば、選挙無効の司法判断も出かねない」との危機感に他ならない。

「1票の格差」の問題は今に始まった話ではない。国会ではそのつど、対応策を講じてきた。

 これまでの対策とは、基本的に有権者数の多い都市部の定数を増やし、逆に少ない選挙区の定数を削減する考え方で、94年には「8増8減」、06年には「4増4減」と定数の修正を繰り返してきた。

 司法判断もこうした国会の対応には寛容だった。

 従来は最高裁においては国会の裁量を広く認め、これまでも選挙区での5倍前後の格差を容認してきた。「地域代表」として都道府県単位の選挙区が採用されており、区割りの見直しは容易ではない。しかも3年ごとの半数改選である参院の特色から考えれば、最少の選挙区でも定数2(改選数1)を配分しなければならない。参院の位置づけを考慮してきたためだ。

ところが風向きは変わった。

 09年9月の最高裁大法廷判決。07年参院選で最大4・86倍だった格差を合憲としながらも、多数意見として「現行の選挙制度の仕組みを維持する限り、各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは、最大格差の大幅な縮小を図ることは困難であり、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる」と指摘した。司法が選挙制度の抜本的な見直しを求めた異例の判決で、定数の増減という「小手先の是正」で済ませてきた国会の対応を事実上否定したものだ。

 これには参院も反応した。各会派で構成される参院改革協議会の専門協議会が昨年5月にまとめた報告書で「抜本改革の必要性」は明記した。だが、与野党間の対立が深まる中で議論は進まず、逆に司法判断は一層厳しさを増した。

 民主党が大敗を喫した昨夏の参院選の「格差」を巡り、東京高裁は昨年11月、最大5・00倍の格差を「違憲」とする判決を下した。今年1月25日も高松高裁が同様に違憲とした。仙台高裁や広島高裁など「違憲状態」とする判決も相次ぎ、抜本改革はもはや「待ったなし」の状況だ。

自ら旗振り役を買って出た西岡氏だが、各党の議論は低調なままだ。

 比例代表を重要視して安定した議席数を確保してきた公明党の山口那津男代表は「方向性は間違っていない」と一定の理解を示すが、民主、自民両党の2大政党内での意見集約は難しい状況だ。

 参院民主党では石井一副代表を中心に衆院と同様に全国11ブロックに区分する案も示されたが、全国比例で組織内候補者を当選させてきた支援労組は難色を示している。また、有権者数が少ない定数2(改選数1)の「1人区」選出議員にとって相対的に当選が不利な状況に陥るため、「選挙制度については立法府の判断であり、司法が口出すこと自体がおかしい」との強硬論も出ている。

 また、民主党は昨年7月の参院選公約として「衆院80、参院40程度」の定数削減を掲げたが、「西岡案」は格差是正を優先して定数削減を行わない案のため、輿石東参院議員会長らは「国民にうそをついたことになりかねない」と難色を示す。

 各団体の職域代表や「1人区」選出議員も多く抱え、民主党と同様に定数削減も提唱した自民党にとっても事情は同じで、選挙制度見直し論は「かけ声倒れになるのでは」との見方も広がりつつある。参議院の在り方が選挙制度でも焦点になってきた。