【書評】空気を読むな、本を読め。
小飼弾さんと言えば、書評ブログを書いたり読んだりするような人間の間では知らない人はいないであろう有名人。
ほんの数分で1冊の本を読み終える速読の達人、書評を書けば売上に大きな影響を与えるアルファブロガーとして知られている。
(もちろん、オン・ザ・エッジ(現在の株式会社LDH)の元CTOとしても有名だが。)
そんな小飼弾さんが「読書法」を書かれたとあっては読まないではいられない。
まず、「読書」という行為に対する考え方から衝撃的。
読書は生活の一部。ご飯を食べることや風呂に入ることと同じくらい、私には欠かせないもので、いわば水みたいなものでした。(p.48)
私にとって読書は食事と同じなのです。
・・・<中略>・・・
モノを食べるのと同じで、私にとって読書は生きるのに不可欠なもの。だから、社会人になって、本を読むのが当たり前でない人がいるのに気づいたときには、本当に驚きました。「そうなんだ、本を読まなくても死なないんだこの人」という具合に。(p.73-p.75)
ここまで「読書」という行為が、生きるということと結びついている人は聞いたことがない。
この極みにまで到達しましょうというのが本書の目的ではないし、こうでなければ「頭が強くなる読書」ができないというわけでもないのでご安心を。
ただ、これが小飼弾さんなのだ、ということを知っておきたい。
しかし、「読書(から得た知識・知恵)を血肉化する」という言葉を考えると、比ゆでも、「読書」という行為を食事と同等に捉えて考えるべきなんだろうなとは思った。
期待度の高い、小飼弾さんによる具体的読書法の指南は、第3章と第4章を中心に書かれている。
その中から特に厳選して、僕も取り入れたい方法のいくつかをご紹介しておきたい。
ノンフィクションは「速く」読め! いい「論文型」の本はスピーディーに読破できる
ノンフィクションを読むというのは、自分の知らない事柄を拾っていく作業です。だから、「これは知っている」という箇所は読み飛ばせるわけです。言い換えれば、本に書かれている内容から自分が獲得している知識分を引いた分だけ読めばいい。
たくさん読書をしていると、「これは前に読んだな」という経験があるので差分が少なくなり、結果的に速く読み終えられる。この差分の質や量によって、その本の重要さやおもしろさが決まってくるのです。(p.87)
ここに小飼弾さんの速読の秘訣の一端が垣間見える。
驚異的な読書量で知られる佐藤優さんも、これと全く同じことをおっしゃっていたけれど、急速に読書量が増えてきた最近、自分自身でも実感していることでもある。
※参考: [記事] 時間を圧縮した本の読み方
そして、見過ごしてはいけない点だが、「差分の質や量によって、その本の重要さやおもしろさが決まってくる」ということは、その本がいい本かどうかということは、読む人が蓄積してきた知識や経験などによって大きく左右されるということである。
当たり前のことなのだけれど、「読書」をあまりしていない人ほど、忘れがちというか思い至らないポイントなので注意しておきたい。
(書評を書く際に悩ましいポイントでもあるのだけれど・・・。)
読んだら「外」に出す 「アウトプット」があなたの読書力をアップさせる!
内容を消化しながら、自分のなかにオリジナルな知の世界をつくっていく。これが読書です。だから、読書の質は、読む前と読んだ後にどれだけ自分が変わったかで測ることができます。
読書の前後でどれだけ変わったかを確認するには、アウトプットするのがいちばんいいでしょう。アウトプットすることは、自分を客観的に見るのに役立ちます。(p.93)
小飼弾さんはアルファブロガーなのだから、ここでブログの話が出てくるのは当然だけど、別にブログをお薦めしているわけではなく、アナログな方式でもなんでもいいと言っている。
そして、もう一つのアウトプットの効用として、「忘れられること」を挙げている。
「忘れるために書く」という行為は、こうした知的生産の達人からはよく聞く言葉だ。
※参考: 【書評】思考の整理学 、【書評】「結果を出す人」はノートに何を書いているのか
小飼弾さんは記憶力についても相当とご自身で書かれているが、この「忘却力」についても以前にインタビューに答えられいる。
※参考: “忘却力”で仕事する──404 Blog Not Foundの小飼さん
記憶力と忘却力という一件相矛盾する力を如何なく発揮できるようになるためにも、アウトプットという行為が必須だということであろう。
僕は忘却力が強すぎて、読んだ内容を忘れてしまうことが多々あったのだけれど(汗)、ブログで書評を書くようになってからは、少なくともブログに書いたなあという程度のことは覚えておけるようになった。
「電話番号の記憶というのは、電話番号そのものではなくて、「ここに登録したよ」という記憶と差し替えられる。」(p.98)ということを実感している。
1時間で10冊読む超読書法 「超」速読は誰にでも簡単にできる
目の前に10冊の本があったとき、1時間で、どれだけ読めるかチャレンジしてみましょう。1冊すべてを読み切る必要はありません。目を通せるところまで通してくださるだけでけっこうです。
こういう場面に遭遇したら、どんな行動を取りますか? そう、目次をかたっぱしから読みますよね。1冊目の目次を読み終えたら2冊目という具合に。そして、ここは気になるところだなと感知した部分だけを読む。これなら1時間で10冊の本を読める。新書なら、これくらいのスピードで私は読んでしまいます。(p.112-p.113)
目次をざっと眺めて、もっとも気になる項目の一つかもしれない。
小飼弾さんだから出来る方法というわけではなく、確かに誰でもできると言えるけれど、そこにはこれまでに裏打ちされた読書量が必要だと思う。
感知される部分が多すぎたり、目次から想像することすら出来ないようではお話にならないはずだ。
小飼弾さんは、これを速読法だとは言っておらず、「溺れ読み」をした経験から自然と速くなっただけだと言っているが、今の自分にもどれくらい出来るものなのか、実践したみたい項目の一つではある。
捉えどころが多すぎて記事がいつも以上に長くなってやしないかと心配になってきたところだが、もう少しだけ。
小飼弾さんは、以前ご自身のブログのエントリーでこんな記事を書かれていたのだが、「読書体験」ということが一つのキーワードになっている。
※参考: 書評blogの本当の売り物
本書でもここで書かれていた考え方は散りばめられている。
例えば、「読書というのは体験です。いつ、どんな気分で読んだのかは、その本の内容以上に大事であったりします。」(p.120)と言っていたり、本そのものと読書体験は、似て非なるものとした上で、「クソ本そのものには価値はないけれども、クソ本を踏んでしまったという体験は、必ず得になる。」(p.129)と言う。
そして、読書体験を豊かにするための方法として、「読書しりとり」をすることや、自分の意見と真っ向から対立する本を読むことを薦めている。
読書体験自体は、僕も随分豊かになってきたなと最近になって思う。
本と本の間でのつながりも自分のなかで持たせることができるようになってきたし、多読になってきたことが自分のなかに「知」を創り上げているというか、根付かせているということが少しずつ実感できるようになってきた。
あとの課題は、それをいかに書評という形に落とし込んでいくかということなのだが・・・(汗)
これでも僕が読みながら感じるところのあった、ほんの一部を紹介してきたに過ぎないというところに、この本の凄さが分かっていただけるだろうか。
「読書」という行為を有意義なものに高めるだけでなく、自分の人生と世界を有意義なものにするためにも、多くの人に手にとっていただきたい一冊。
最後に小飼弾さんからのメッセージを。
平和のためにも本を読みましょう。
モノも時間もお金もあふれている時代に、やるべきことは戦争でない。あなたが本を読み、自分と世界を知り、そして愛することなのです。(p.202)
追伸:
巻末に収録されている『小飼弾が選ぶ最強の100冊+1』も、読書体験を豊かにするために二重丸チェックで。
読んだことのある本が10冊程度しかない僕の読書遍歴って一体・・・(涙)
【関連リンク】
【基礎データ】
著者: 小飼弾
出版社: イースト・プレス 2009年10月
ページ数: 216頁
紹介文:
考える力が恐ろしいほど身につく!
イースト・プレス
売り上げランキング: 92
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