フレンチなアイテム ”フィッシュマウス ラペルのジャケット・スーツ”
先月からスタートした、80年代から90年代のフレンチアイビーやフレンチトラディショナルを代表するアイテムを紹介する連載 ”フレンチなアイテム” 今回はフィッシュマウス ラペルのジャケットとスーツについてです。
フィッシュマウスラペルって聞いたことがないという人も多いのではないでしょうか。
ラペルの下襟が少し上衿側に上がった襟で、ゴージの刻みが魚の口のように見えるのでフィッシュマウスと言われています。
自分が初めてこの襟を見たのは、1989年に初めて出張でパリに行った時に、ある店のウィンドウディスプレイで見たジャケットでした。
右岸のエルメスに対して左岸のARNYS(アルニス)と並び称されていたメゾン ARNYSのショーウィンドウにディスプレイされていた、3ボタンのサイドベンツにスラントポケットという英国的なディティールでありながら、それまで見たことのなかった特徴的なラペルに目を奪われました。
1989年から2001年まで、自分が撮り続けたARNYSのショーウィンドウの画像をお見せします。
1989年
1993年
1994年
1994年
1995年
1999年
1999年
2000年
2001年
ご覧の通り、1989年に初めてパリに行ってから2005年くらいまで、毎年2~3回多いときは年4回はパリに行っていたので、その度にARNYSを訪れてウィンドウディスプレイの写真を撮っていました。
その枚数は、おそらく100枚以上はあると思います。
ご覧の通り、小さな変化はあるとは思いますが、基本的なスタイルは変わらないので、ARNYS=フィッシュマウスラペル=パリっぽいというイメージが自分の中で出来上がってしまいました。
そして、90年代は英国調のブームが来て、BEAMSでも英国テイストのジャケットやスーツの展開が増えていきますが、80年代にフレンチアイビーを提案してきたBEAMSにとっては、フレンチテイストの英国調を提案するのは自然な流れで、ARNYSのようなフィッシュマウスラペルのジャケットやスーツを展開するようになりました。
1992年秋冬のBEAMSカタログに掲載された、BEAMS Fのオリジナルジャケット(RING JACKET製)
”今シーズンから登場するフィッシュマウスのジャケット” と書かれています。
フィッシュマウスラペルのジャケットは、この年から登場しました。
1993年秋冬のBEAMSのカタログに掲載された、BEAMS Fのオリジナルのホームスパンのスーツ(RING JACKET製)
フィッシュマウスのホームスパンのスーツというのもARNYSっぽいですね。
シャツとネクタイとチーフが何故かイタリアっぽいのが今見るといまひとつ・・・(苦笑)
1994年秋冬のBEAMSのカタログに掲載された、BEAMS Fのフィッシュマウスの3ピーススーツ(RING JACKET製)
3ピースまで作ってしまいました。
我ながらかなり攻めています。
いま見るとコーディネートはフレンチっぽいですが、なんとなくMARCEL LASSANCE風?
1994年のBEGIN 5月号に掲載されたINTERNATI0NAL GALLEREYの2ボタンのフィッシュマウススーツ(RING JACKET製)
インターナショナルギャラリーでもフィッシュマウスのスーツを展開していましたが、2ボタンで少しモダンな雰囲気に落とし込んでいました。
ご覧の通り、BEAMS FでもINTERNATIONAL GALLERYでも、フィッシュマウスのジャケットやスーツを展開し、顧客様にもとても人気がありました。
ちなみに、ARNYSのジャケットやスーツはISAIA製だった(少し安いラインは別のファクトリーだったようです)ので、当時INTERNATIONAL GALLERYもISAIAでフィッシュマウスラペルのジャケットやスーツを別注して展開していました。
このように、BEAMSにおけるフィッシュマウスラペルのジャケットやスーツは、90年代の英国調の流れの中で、フランスから見た英国を提案すモデルでした。
そして、1999年に当主であるジャン グランベール アルニスさんに会う機会を得ます。
ジャンさんもお兄さんのミッシェルさんも3ボタンのフィッシュマウスラペルのスーツ。
タブカラーに綺麗なプリントタイというのも、ARNYS風でありパリっぽさを感じるコーディネートです。
1999年と言えば、イタリアンクラシックの世界的なブームが始まった頃で、初めてパリに行った1989年から10年目の1999年にお二人に会えたのは、いろいろな意味で自分の中での節目だったのかなと思います。
パリを代表するメゾンであるARNYSを象徴するフィッシュマウスラペルのジャケットやスーツですが、パリのビスポークテーラーの仕立服にはよく見られる襟型ですが、既製服ではARNYS以外のショップで見ることはありませんでした。
フレンチビスポークによくある襟型。
それも我々にとっては魅力的に感じるポイントでもありました。
最近ファッション業界人の間でやたらとフレンチというキーワードが飛び交っていますが、フィッシュマウスラペルの既製服は見かけることはなく、ネットで検索するとオーダー屋さんで紹介しているのをちらほら見かるくらいです。
いまフィッシュマウスラペルのジャケットやスーツと言われ、私がすぐに思い浮かぶのがこのスーツです。
パリで活躍する日本人テーラー、鈴木健次郎さんが仕立てたスーツです。
私自身、鈴木さんの仕立てたスーツはSNSでしか見たことがなかったのですが、高円寺のサファリさんでほとんど着用されていない新品同様のスーツが並んでいて、久しぶりにパリっぽいスーツを見たなとちょっと感激しました。
店長の田島さんに、”このスーツ フレンチっぽくてすごくカッコいいけど、なかなか売れないでしょう?” と聞くと、” はい、わかる人がほとんどいないんです” と想像したとおりの返答。
それはそうですよね。
フレンチテーラードを知る人でなければ、見慣れないビスポークスーツということになるのは仕方ないかもしれません。
自分のサイズに近ければお直しして着たいところですが、サイズが大きく無理でした。
まだ数着残っているようなので、ご興味のある方はサファリさんにお問い合わせください。
ちなみに、このグレーのスーツの画像はサファリさんのオンラインに掲載されているものです。
日本でオーダー会を行うこともあるので、ご興味のある方は是非ビスポークを。
instagram@kenjiro_suzuki
今回のフレンチなアイテムは、90年代にBEAMSで展開していて顧客様にもとても人気のあったフィッシュマウスラペルのジャケットやスーツのお話でした。
ARNYSと言うと、立ち襟のフォレスティエールがファッション業界人の中でちょっとしたブームになっていますが、80年代や90年代は裕福なお年寄りが着るような、かなりシニアなイメージのジャケットだったので、時代が変わったとはいえ、なんとなく若い人たちが着ているのがピンとこないんです・・・
立ち襟のジャケットというのであれば、80年代にパリで流行したチロリアンジャケットの方が、若い人たちが着るにはリアリティがあるかなと・・・
そのあたりのお話はまた別の機会に。
大変お待たせしました。MR_BEAMS CHANNEL 2024春夏リコメンドアイテム スーツ・ジャケット編アップしました。すでに完売したり少なくなっているものもありますが、是非ご視聴ください。