最近はこれは!と言うアルバムのリリースがなくて、ブログの方も滞りがちになっています。
という訳で、放置しっ放しの書きかけメモを仕上げるために”一念発起”しました(笑)。
その第一弾が、発売50周年記念盤としてリリースされた『Abbey Road』2019 Stereo Mixです。 そして、更なる発見のある『Abbey Road』Demos & Outtakes Part I になります。
『The White Album』Remix 2018の時以上に待ち望んでいた、我々の世代にとって絶対的な存在である『Abbey Road』の発売50周年記念の箱は、今を遡ること5年前の2019年9月27日に発売されました。
その2年後の2021年10月には、色々と物議を醸したであろう『Let It Be』の箱が発売されました。 価格的にもう手を出せる金額ではなくなりました、定年間近のオヤジには・・・・・。
以前にブログで3回に分けて取り上げた2018年リリースの『The White Album』Remix 2018では、合計で4枚に及ぶ2種類のデモ・セッションズ、イーシャー・デモ(Esher Demo)、スタジオ・セッションが3枚、このヴォリュームに圧倒されました。
ところで、本アルバムか発売された当時はもうビートルズへの関心は全く無くなっていたのです。アルバムを真剣に聴き込んだのは、66年リリース『Revolver』と67年の『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』まででした。
ですから、この総決算とも言える”最後”のアルバム『Abbey Road』は後追いで聴きました。 特に、メドレーとなったB面は殆ど最後まで聴くことはありませんでした。 A面ばかり聴いていた記憶があります。 アナログ盤しかなかった時代には、こういう事が良くあります。 裏返す手間がかかるのです!
CDがリリースされてからです、本当に通しで聴き込んで驚いたのは・・・・・!?
巷では、ジャイルズ・マーティン(Giles Martin)の一連のリミックス・プロジェクトの取組みに疑問を挟む方は数多くいるとは思います。 確かに、『LOVE』の時の様なマッシュ・アップはやり過ぎだったと思います。 ところが、オリジナル・ミックスに敬意を表したここ最近の仕事ぶりには、父親であるジョージ・マーティン(George Martin)から受け継いだであろうある種の敬意を感じます。
今思い返せば、60年代は音楽を取り巻く全ての事、社会情勢、レコーディング技術、マスメディア、これらがシンクロしながら、躍動し進化しました。
そんな渦中の最中に、ある種の総決算としてリリースされたのが本アルバム『Abbey Road』でした。 ビートルズが最後の底力を見せつけて仕上げた、とてつもない完成度を内包する楽曲で構成されていました!。 公式な記録としては、『Let It Be』の一部の楽曲が70年1月にレコーディングされているために最後のアルバムと再訂正されています。
ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」500選(The 500 Greatest Albums of All Time (2020))の2020年改訂版によると、この『Abbey Road』は2003年版の11位から5位に大躍進しています。 1位になっていた『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』は大きく順位を下げて24位になっていました。
69年当時ビートルズを取り巻く状況は混沌としてきており、アップル・コア(Apple Corps Ltd.)の経営破綻、アラン・クライン(Allen Klein)の暗躍、U.S.を中心に巻き起こる新しい音楽のムーヴメント、それとは対極にある散漫で中途半端な『Get Back Session』、グループの”原点回帰”を目指して取り組んだものの結実しなかった『Get Back』あらため『Let it Be』と空中分解寸前だったのです。 こんな時代のうねりの中で、今までとは違う形で4人の想像力を結集して創り上げたのが、この隙のない傑作『Abbey Road』だと言えます!
― ポール・マッカートニー『Abbey Road』50周年記念エディションの序文より ―
『ザ・ビートルズのレコーディングの旅路には多くの紆余曲折があり僕らは勉強を重ねながら、スリリングな体験をしてきた。 そして今でも、それらの魔法にまだ心を奪われている。』
□ Track listing;
※)All tracks are written by Lennon–McCartney, except where noted.
Side one;
1."Come Together" 4:19
2."Something" (George Harrison) 3:02
3."Maxwell's Silver Hammer" 3:27
4."Oh! Darling" 3:27
5."Octopus's Garden" (Richard Starkey) 2:51
6."I Want You (She's So Heavy)" 7:47
Side two;
1."Here Comes the Sun" (Harrison) 3:05
2."Because" 2:45
3."You Never Give Me Your Money" 4:03
4."Sun King" 2:26
5."Mean Mr. Mustard" 1:06
6."Polythene Pam" 1:13
7."She Came In Through the Bathroom Window" 1:58
8."Golden Slumbers" 1:31
9."Carry That Weight" 1:36
10."The End" 2:05
11."Her Majesty" (as a hidden track) 0:23
□ Personnel;
Produced by George Martin (with the Beatles)
Recorded by Geoff Emerick and Phil McDonald
■ Musicians;
John Lennon – lead, harmony vocals, guitars, pianos, Moog synthesize, white noise generator, sound effects, percussion
Paul McCartney – lead, harmony vocals, bass, guitars, pianos, Moog synthesizer, sound effects, wind chimes, handclaps, percussion
George Harrison – lead, harmony vocals, guitars, bass on #3, #4 ,#8	, harmonium, Moog synthesizer, handclaps and percussion
Ringo Starr – drums and percussion, lead, harmony vocals, anvil on #3
Additional musicians
George Martin – harpsichord, organ, percussion
Billy Preston – Hammond organ on #2
さて、まずはA面の頭、”Come Together”です。 ジョン・レノン(John Lennon)によるアヴァンギャルドさを持ったロックンロールですが、コード進行は意外にシンプルです。 頭のジョンによる「shoot me」は結構物騒な決めゼリフですが・・・・。
今回のリミックスでは、ベース・ギターの生々しさがよりファンキーさを増しており、リンゴの繰り出す3連のドラムパターン、「タタタタタタタタタタン」が右から中心に動いています(従来版では右寄りに固定)。
□ “Come Together” by The Beatles;
そして、ジョージの稀代の名曲、”Something”です。 あのフランク・シナトラ(Frank Sinatra)も取り上げており、歌う前のМCで『この50年、いや100年の内に書かれた最高のラヴソングのひとつ。 私はそう確信している。』で言った話は有名です。(ただ、当初はこの曲の作者をレノン=マッカートニーと勘違いしていたという逸話があります!)
ポールの弾くベースがオブリガートを担っている点と、ジョージのギター・ソロのフレージングの構築の仕方が非常に素晴らしい点を再認識しました。 何度聴いても、このベースラインは天才的ですね、ベース弾きとしてはコピーは出来ますが、この音の選び方は考え付かないです!
キーはCですが、ギター・ソロでの独特の音選びには、ペンタニック・スケールでのインプロヴィゼーションが手癖となっているエリック・クラプトン(Eric Clapton)にはないセンスを感じました。
この曲は、当時の妻であったパティ・ボイド(Patty Boyd)に対するラヴ・ソングであると言われていますが、ジョージは後日完全に否定していています。 パティ・ボイドを巡る男女関係は、ロン・ウッド(Ron Wood)、エリック・クラプトンと色々ありました・・・・。
□ “Something” by The Beatles;
”Maxwell's Silver Hammer”はポールによるシュールな内容の架空の物語ですが、結構物騒なことを謳っています。 何故か、自動車事故から復帰したはずのジョンが一切参加していない楽曲です。モーグ・シンセサイザー、ギターやピアノにコーラスなどポールの一人舞台のような楽曲になっています。
□ “Maxwell's Silver Hammer” by The Beatles;
単純なロッカ・バラードのように聴こえる”Oh! Darling”ですが、コード進行はかなり複雑でツー・ファイブ(II-V)進行やオーギュメント・コードが顔を出します。 わざわざ、喉をつぶし気味にヴォーカルを取るポール、ワイルドでブルージなバックで響く3声の美しいコーラスが対照的です。
□ “Oh! Darling” by The Beatles;
そして、”Octopus's Garden”ですが、これはリンゴが単独で提供した2作品の中の一つになります。 もう1曲は、『The White Album』に収録された”Don't Pass Me By”ですね。
サイケデリックな時代の名残を感じさせる歌詞で、モチーフは『The White Album』のセッション時にバンドを一時脱退して、地中海のサルデーニャ島に滞在した時期に聞いた”蛸”の話らしいです。 コード進行も「E C#m A B」と言う王道路線を行っています!
今回の目玉である『『Abbey Road』Demos & Outtakes』では、ジョージの手助けがこの曲に命を吹き込んだことが分かるデモがあります。 今回のリミックスでは、海の中の様々なSEの臨場感が倍増しています。
□ “Octopus's Garden” by The Beatles;
そして、A面の最後になる、一番の問題作と言われていた”I Want You (She's So Heavy)”、当時イギリスを席巻していたブリティッシュ・ブルーズ・ブームのトップにいたフリートウッド・マック(Fleetwood Mac)に影響を受けたラテン・ビートを取り込んだマイナー・ブルーズ調の不思議な楽曲です。
”Black Magic Woman”や”Albatross”の影響はそこかしこに見え隠れしますが、コード進行を見るとブルーズ進行とは全く違っています。 テンション・コードの多用だったり、リズム・チェンジの後にハチロクのパートを差し込んだりと、一筋縄では行かない凝りようになっています。
2つのヴァージョンを繋ぎわせて出来上がった楽曲で、8分弱の長尺です。 ビリー・プレストン(Billy Preston )の弾くハモンド・オルガンのソウルフルな速弾きがしっかり聴こえるのはうれしい限りです!
□ “I Want You (She's So Heavy)” by The Beatles;
続いてはB面に入り、ジョージ作の変拍子を取り入れた美しいリフが印象的なアコギ・ナンバー、”Here Comes the Sun”です。 アップル・コアでのビジネス・ミーティングをさぼり、盟友であるエリック・クラプトンのサリー州にある自宅に逃げ込んで、アコースティック・ギターを借りてこの曲を作ったと言われています。 コードとメロディーとを同時に弾くところが印象的ですけど、特にブリッジ部の「Sun, sun, sun, here it comes」のコード解釈と演奏はさすがです。
□ “Here Comes the Sun” by The Beatles;
レコーディングにおいては、彼らのことを熟知している不動のコンビであるジョージ・マーティン(George Martin)とEМIを辞めていたジェフ・エメリック(Geoff Emerick)が復帰したことと、新しいテクノロジーにより進化した(真空管からトランジスタへ)ミキシング・コンソール;TG12345によりチャンネル数が24インプットと3倍に増えたことで今までのサウンドとは大きく変わりました。 特にリンゴの叩くドラムスが・・・・。
そして、ジョン・レノンが作曲したとは思えない複雑なコード進行の”Because”です。 オノ・ヨーコの作風に影響を受けているようで、キーは C#mですが転調はあるわ、ディミニッシュ・コードのDdimは出てくるわ、もう驚きですね。
最後のヴァースのところでも、コード進行は以下の様な感じでどうしてこういう風になるのか解らない展開です。
C#m→D#m7(♭5)→G#→A→C#m→A7→A13→D→Ddim→C#m
Because the sky is blue, it makes me cry________
Because the sky is blue____ ah________________
たった3分足らずの曲の中にベートーヴェンの「月光」ソナタがいるとは・・・・びっくりですね。
□ “Because” by The Beatles;
そして、ここからB面のラストまでメドレーが一気に続きます。 実際にメドレーで演奏したわけではなく、それぞれの楽曲の繋ぎ方にも工夫が見られます。
その始まりを告げる”You Never Give Me Your Money”はポール作ですが、曲自体も3部構成になっています。 ピアノから始まるバラッドから、ドラムスの強烈なフィルインによりドライヴ感溢れる第2部に入り、コーラス、ギター・ソロを経てブリティッシュ・ブルーズのような第3部に移行します。 最後には、子供にはなじみの童謡のフレーズに効果音へとクロス・フェードして行きます。 アラン・クラインに対する強烈な批判が歌詞の中に見え隠れしています。
□ “You Never Give Me Your Money” by The Beatles;
続く”Sun King”はジョンの作品でテンション・コードをあちこちに盛り込んだ美しい曲になっており、ここにもフリートウッド・マックの影響が垣間見えます。
後半に飛び出すポールとジョンによる歌詞、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、それ風に聴こえるでたらめな語句はひねりの効いたジョークでしょうね。ジョン作の小曲、”Mean Mr. Mustard”を挟んで、リンゴによるドラムスのフィル・インを合図にして、同じくジョンによる”Polythene Pam”に続きます、 両方ともにインド滞在時に作られた楽曲です。
□ ”Sun King”~”Mean Mr. Mustard”~”Polythene Pam” by The Beatles;
そして、ジョージによるギター・ソロを挟んで、ポールによる”She Came In Through the Bathroom Window”に続きます。 この曲はスタジオでも”Polythene Pam”と続けて演奏されてレコーディングされました。 熱狂的なファンの女の子が実際にポールの家に侵入した事件がモティーフなって生まれた楽曲です。
□ ”She Came In Through the Bathroom Window” by The Beatles;
ここで一旦演奏が終了したかのような間合いがあり、ポールのピアノによる”Golden Slumbers”はスタートします。 歌詞自体は、17世紀のイギリスの劇作家トーマス・デッカー(Thomas Dekker)の詩”Cradle Song”(揺りかごの歌) から取られていますが、しみじみとした”望郷”の念が謳われていて涙腺が緩みそうになります。
ポールの頭の中には、”ビートルズの終焉”という事が浮かんでいたのかもしれないです。 ポールによる単独公演を東京ドームで観た時には、この曲で涙腺が崩壊した想い出が甦ります・・・・。
□ ”Golden Slumbers”~ ”Carry That Weight” by The Beatles;
続く”Carry That Weight”も前曲の”Golden Slumbers”と続けてレコーディングされています。 前曲のメロディーやギターのアルペジオが再度曲中に顔を出しており、メドレー構成であることを強く印象付けています! 大編成のオーケストラによるストリングスと、歌詞にある「重荷を背負う。」意味が対照的に耳に入ってきます。
おそらくですが、マネージャーであったブライアン・エプスタイン(Brian Epstein)の死後、「メンバー各自がどれだけ個々に重責を担ってきたのか?」、そして、「解散後に抱えて行く筈の責任」についてポールは言いたかったはずです。 矛先は、多分ジョン・レノンに向けられていたように感じます、当時は。
そして、本当に最後を飾るポールによる楽曲、”The End”が、とてもパワフルなイントロからリンゴによる強烈なドラム・ソロに移り、ポール→ジョン→ジョージによるギターソロが2小節ずつ3回ほどリピートします。 ジャムバンドの様にギターソロを回す様には驚かされましたし、それぞれの音の定位が随分変わって、ポールが左、ジョンが中央、ジョージが右と振り分けられて聴きやすくなっています! その後、ピアノ・ブレイクを挟んで美しいコーラスが連なり、ストリングスが被さり大団円を迎えます。
□ ”The End” by The Beatles;
そして、本来はこのB面メドレーからは外すことが決まっていたにもかかわらず、仮にトラックの最後に置かれたままトラックダウンされた”Her Majesty”が突然”♪ジャ~ン”と始まります。 発売当初はこの曲の記載は一切なかったので、隠しトラックのような扱いになり大きな話題になりました。 ポールのアコギの弾き語りによる30秒足らずの楽曲です。
本ブログでは、あまりビートルズについて書く機会がありませんでした。 あまりにも、近すぎる存在であり偉大過ぎるためか、アルバムを取り上げることができないでいました。 でも、こうして彼等の凄さを再発見できて幸せです。
今までのザ・ビートルズ関連のブログを再掲させてもらいます。
2018年11月 『The White Album』Remix 2018 (こちらです↓↑)
2018年12月 『The White Album』 Sessions in '68 (こちらです↓↑)
2018年12月 ”While My Guitar Gently Weeps” の真実 (こちらです↓↑)