最近思い出したかのように聴いている楽曲がこの”I'd Rather Go Blind”なんです。
先日15年振りに来日し、ひと夜限りのライヴを行った、サー・ロッド・スチュワート(Sir Rod Stewart)が披露してくれたからです。 3月20日の有明アリーナにおいて、アンコール2曲を含めて全23曲を熱唱してくれました。
中盤に差し掛かった頃、11曲目にこの”I'd Rather Go Blind”を謳い上げてくれました。 ステージ後方のスクリーンには、2022年に亡くなったフリートウッド・マックのクリスティン・マクヴィー(Christine McVie)(彼女は、この曲をチキン・シャック(Chicken Shack)時代にカバーしシングルカットされ、その後最初のソロ・アルバムにも同ヴァージョンが収録されました)の姿が投影されて、思わず涙ぐみそうになりました。 ロッドも72年リリースのソロ・アルバム、『Never a Dull Moment』で取り上げており、フェイセズ(Faces)のライブ盤、『Coast to Coast: Overture and Beginners』にも収録されていましたね。
今回のツアー・タイトルが【One Last Time】(最後にもう一度)と銘打たれており、おそらくこれが最後のツアーとなるのだと思います・・・・・そういつかはマイクを置く時がくるんですね。
あの時以来、この曲のプレイリストを作りずっと聴いているのです。 数えてみれば100曲近いカヴァーがあるほどに、際立って心に沁みる名曲だと思います。 コード進行は非常にシンプルで、AとBmの二つだけです。
この曲のオリジナルは、1967年にエタ・ジェームス(Etta James)によりアラバマ州マッスル・ショールズのFAMEスタジオ(at the FAME Studios in Muscle Shoals)でレコーディングされました。 楽曲は、友人のエリントン・“フギ”・ジョーダン(Ellington Jordan )とエタ・ジェームス、ビリー・フォスター(Billy Foster )とによって作られたのですが、税金対策上の問題からか、当時のパートナーでドゥーワップ・グループのザ・メダリオンズ(The Medallions)のシンガーであるビリー・フォスターの名義となっています。
この楽曲が収録されているのは、彼女の稀代の名盤と言われている、7枚目のアルバム、『Tell Mama』です。 最も良く知られている楽曲、”Tell Mama”がシングルカットされた際に、そのB面に収録されています。 ”Tell Mama”は、彼女のキャリアの中で最大のヒット曲の一つで4年振りのトップ10ヒットとなり、ビルボード・ポップ・チャートでは最高位のシングルとして23位に達したのです。
当初は注目を集めることのなかった、”I'd Rather Go Blind”ですが、楽曲が有する非常にエモーショナルで詩的な内容により、やがて、素晴らしい両面シングルの1つとみなされるようになりました。
丁度この頃、エタ自身は重度のヘロイン中毒に陥っており、休養を取らざるを得ない状態にありました、まだ29歳くらいでしたが・・・・・。
□ “I'd Rather Go Blind” by Etta James;
同じマッスル・ショールズのFAMEスタジオでレコーディングされたヴァージョンでは、盲目のソウル・シンガーであったクラレンス・カーター(Clarence Carter)の68年のアルバム、『This is Clarence Carter』に収録されているものが浮かびます。
□ “I'd Rather Go Blind” by Clarence Carter;
私にとっては、馴染みのあるのはエタのオリジナルではなくて、クリスティーン・パーフェクト(Christine Perfect)、フリートウッド・マック加入後はクリスティーン・マクヴィー(Christine McVie of Fleetwood Mac))をフィーチャーしたイギリスのブルース・バンド、チキン・シャック(Chicken Shack)のバージョンです。 1969年に全英シングル・チャートで14位に達したのです。
□ “I'd Rather Go Blind” by Chicken Shack(Christine Perfect);
彼女が逝去したニュースを耳にした頃、2022年12月には繰り返して聴きました・・・・・・あの憂いのあるヴォーカルは唯一無二でした。
2022年12月 クリスティン・マクヴィー (こちらです↓↑)
そして、冒頭で書いた様にこの曲を思い出させてくれた、サー・ロッド・スチュワートのカヴァーです。ロッド自身は本当にこの楽曲を気に入っているようで、最初にカヴァーして以来50年経っても未だにライヴで取り上げており、本当に素晴らしい歌いぶりです。 何でも、当のエタ本人が自伝『Rage to Survive』の中で、ロッドのカヴァー・ヴァージョンを好意的に言及しています。
□ “I'd Rather Go Blind” by Rod Stewart;
最近聴いたカヴァー・ヴァージョンで印象に残っているものを挙げておきたいと思います。
2008年に公開された、伝説のブルーズ・レーベル、チェス・レコーズ(Chess Records)と中心にいたレナード・チェス(Leonard Chess)、を描いた伝記・ミュージカル映画である『Cadillac Records』の劇中でエタ・ジェームスを演じたビョンセ(Beyoncé)が歌っているヴァージョンです。 ビョンセ自身の想い入れが強い作品で、彼女は製作総指揮を執っており、感情が溢れ出さんばかりの歌唱が聴けます!
□ “I'd Rather Go Blind” by Beyoncé;
続いては、2012年にホワイトハウス(The Whitehouse)で行われた音楽イベント、『RED, WHITE & BLUES』での1シーンになります。 このイベントは、ブッカー・T・ジョーンズ(Booker T Jones)をバンドマスターにして集結したバンド、The White House Blues All Stars、をバックに、ミック・ジャガー(Mick Jagger)、ジェフ・ベック(Jeff Beck)、バディー・ガイ(Buddy Guy)、B.B.キング(B.B. King)など凄いミュージシャンが参加しており、DVDがリリースされています。
その中で、オールマン ブラザーズ(The Allman Brothers Band)が、スーザン テデスキ(Susan Tedeschi)をヴォーカルに据えてこの楽曲を演奏しています。 オバマ大統領夫妻が聴き入って様子とデレク・トラックス(Derek Trucks)のギター・ソロに圧倒されます。
□ “I'd Rather Go Blind” by Susan Tedeschi with Derek Trucks and Warren Haynes;
次にに紹介するのは、ジェフ・ベック(Jeff Beck)に他なりません、もう凄いの一言で”歌心”溢れるギター・ソロはもう黙って聴くしかありません。 音楽活動50周年を記念して、2016年夏頃にアメリカ西海岸のハリウッド・ボウル(the Hollywood Bowl)にて開催した豪華なゲスト陣が参加したライヴからです。
ヴォーカルを採るのは、ベス・ハート(Beth Hart)ですが、彼女は2011年にジョー・ボナマッサ(Joe Bonamassa)とのデュエット・アルバム、『Don't Explain』でこの曲をカヴァーしています。 ジェフとは何度となくライヴで共演しており、相性はとてもいいようですね。
□ “I'd Rather Go Blind” by Jeff Beck and Beth Hart;
最後は、アコーステックなヴァージョンで歌っているのは何とUKポップのアイコンとも言える、デュア・リパ(Dua Lipa)嬢です、意外ですがいい味わいがあります。
□ “I'd Rather Go Blind” by Dua Lipa;
最後に歌詞を掲載しておきます。 コード進行同様、シンプルで分かりやすい語句が並んでいます。 それだけに歌唱力が試される楽曲なんだと思います。
Something told me it was over
When I saw you and her talking
Something deep down in my soul said, "Cry Girl" (Cry, cry)
When I saw you and that girl, walking around, ooh
[Chorus]
I would rather, I would rather go blind boy
Than to see you walk away from me child, and all
So you see, I love you so much
That I don't want to watch you leave me baby
Most of all, I just don't, I just don't want to be free no
I was just, I was just, I was just sitting here thinking
Of your kiss and your warm embrace, yeah
When the reflection in the glass that I held to my lips now baby
Revealed the tears that was on my face, yeah
[Chorus Outro]
And baby, baby, I would rather, I would rather be blind boy
Than to see you walk away, see you walk away from me, yeah
Baby, baby, baby, I'd rather be blind now
最後に関連する過去のブログを再掲させてください。
2021年5月 ザ・スワンパーズに捧ぐ (こちらです↓↑)
2021年6月 Rod Stewart: 1975-1978 (こちらです↓↑)
2023年1月 唯一無二のギタリスト Jeff Beck (こちらです↓↑)