金田一耕助はブラック・ロッジの謎を解くことが出来るか? | ちんちくりん的視点 “warped view”

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毎年夏になると、江戸川乱歩や横溝正史の作品が話題になります
 
去年だったかは長谷川博己主演で「獄門島」が、今年は吉岡秀隆主演で「悪魔が来たりて笛を吹く」がBSプレミアムで放送されました
 
どちらも映画並みに気合いの入ったドラマで、見応えはありましたが、やはり原作ファンとしてはどうしてもひとことふたこと言いたくなってしまいます、、、
 
これまでいろんな俳優がいろんなタイプの金田一耕助を演じてきたのを見たけれど、長谷川博己の金田一はちょっと呆気にとられるほどに感情的で挑戦的な金田一でした
 
あそこまでやるからには、もしかして結末を変えてしまうのか?!と思ったりしたけれど、結局そうでもなかったのでちょっと意味不明でした
 
一方、吉岡秀隆の金田一は、案外金田一らしい金田一だったと思いますが、逆にもっと「変人」ぶりを発揮して欲しかった気もします
 
こちらはあまりに生真面目に謎解きに終始しすぎていた感じがして、もっと理屈抜きに驚かしたり怖がらせたりして欲しかった、、、
 
などと、あーでもないこーでもないと文句をつけながら観るのがけっこう楽しかったりして、、、(w)
 
これはイマジネーション豊かな優れた原作があるからこその楽しみであり、またジレンマでもあります
 
あの複雑な原作を2時間ほどの映像にまとめるには、どうしても簡略化したり一部を変更したりする必要があります
 
作家の中には自分の小説に手を加えられるのを嫌う人もいるけれど、横溝正史はその辺りには全くおおらかだったようです
 
それだけに「原作をどう料理するか」は、映像化する側にとっても観る側にとっても最大のテーマです
 
そして、すべての人が完全に満足することは恐らく永遠になく、新しい映像化へのチャレンジは今後も続いていくことでしょう
 
その証拠に、今回のドラマのラストはあの決め台詞で終わりました
 
「金田一さん!また事件です!!」
 
次は「八つ墓村」で事件のようです
 
また大作になりそうなので楽しみです
 
 
 
 
 

 
そしてこの夏、もうひとつのホラー(?)にどっぷりとハマリ中です
 
25年ぶりに新作が公開されたリンチ&フロストの「ツイン・ピークス」です
 
一世を風靡したあのテレビシリーズが、「25年後に会いましょう」と謎の言葉を残して終わってからちょうど(ではなくてほぼ)25年後の復活ということで、もうワクワクが止まりません
 
僕は「🎵WOWOWに入ろかな」と思ったことがないので、DVDがリリースされるまで約一年ほどお預けを食ったから、なおさらです
 
こちらは「原作」が存在しないオリジナルストーリーなので、まっさらな頭で展開に身を委ねることができます
 
物語はある朝、ビニールに包まった「世界一美しい死体」が湖畔に打ち上げられるところから始まりました
 
ローラ・パーマーを殺したのは誰か?
 
世間から隔絶された田舎町のツイン・ピークスは一種の異次元空間であり、そこには風変わりで謎めいた人物たちが複雑に絡みあいながら生きています
 
誰もが秘密を抱え、誰もがローラと深く関わり、そして誰もが疑わしい、、、
 
ミステリーのお膳立ては全て揃っています
 
ここまでは、横溝作品と共通する部分がたくさんあることに気づきます
 
金田一ものの多くもまた、世の中から取り残された山村や孤島、あるいは世俗離れした旧家の洋館など、閉ざされた異空間が舞台になっています
 
そこは、人知を超えた不思議な出来事がこともなく起きる異界です
 
異様な殺害方法、異様な死体、因縁、因習、怨恨、、、
 
一見、悪霊の祟りか悪魔の仕業としか思えないような超自然的な事件が、金田一耕助の推理によって次第に生身の人間による現実世界の犯罪であることが明らかになっていく、、、というのがお決まりのパターンです
 
ところが、「ツインピークス」は同じような舞台装置を用いながら、これとは全く逆の展開を見せます
 
現実の世界で起きたはずの事件が、いつのまにか異次元の超常的な世界へとつながっていくという、横溝作品とは全く逆の道を辿っていくのです
 

犯人が明らかになって、現実世界での事件は解決したにも関わらず、物語は異次元の迷宮に入り込んだきり、25年経った今でもまだ混沌と悲劇を生み続けています

 
「超自然的な力を使ってはならない」
「偶然や第六感に頼ってはならない」
「謎解きの手掛かりは全て提示されなければならない」
「犯人は最初から登場していなくてはならない」、、、
これらはノックスが探偵小説のルールとして定めた戒律です
 
横溝正史はもちろんこの戒律に忠実に則っているし、孫の代の「金田一少年」や「コナン」の時代になっても、その骨子はまだ生きているはずです(未確認)
 
しかしリンチは最後に挙げた戒律(これは驚くべき方法で忠実に守られている)以外、全てをぶち壊そうとしているかのようです
 
実際、クーパー捜査官は積極的に第六感や夢分析やチベット式や宇宙からのメッセージなど超自然的能力を駆使して捜査を進めていきます
 
そして比喩的な意味での「異空間」ではなく、実際に「異空間への入口(ブラックロッジ)」が出現してしまうのです
 
物語はもはやツインピークスという閉ざされた世界には収まりきれず、時間、空間、次元を自在に行き来して、理論的な理解の範疇を飛び越えてしまいました
 
 
だからといって、ただデタラメをやっているのかというとそうではなく、この世界にはこの世界独特のルールがあって、無意味に見える事象や謎にも、きっと何か一貫性や意味が隠されているはずなのです(…多分)
 
「キラー・ボブ」が邪悪な精神の擬人化された存在だとするならば、人の心の中には理屈では説明できない深遠な闇が確かに存在していて、そこには「邪悪」に魅入られてしまいそうな弱さが隠れていることを、僕たちは漠然と知っています
 
論理的な説明ができなくても、どこかしら琴線に触れるところが誰にもあるはずなのです
 
少なくとも僕たちはこのルール不明のゲームの駒を進める試みに、知的好奇心を掻き立てられずにはいられません
 
それはリンチの(あるいはフロストの)脳内とのシンクロ率を限りなく上げていく作業だといってもよいかもしれません
 
だから、その答えがディナー後のサロンで明確に示されることは決してありません
 
答えは見る側一人ひとりの感性に委ねられているからこそ、物語は25年経ってもまだその興味と神秘性を失わないのでしょう
 
 
 
 
そしてまた横溝作品の中にも、ブラックロッジの存在がありました
 
金田一耕助が鮮やかに事件を解決した後も、スッキリ解決めでたしめでたし、とはならないのが常です
 
結末では、やはり人の怨念や運命、人知の及ばない見えざる力を感じずにはいられない、そんなもやもやとした恐怖が残ります
 
ノックスの縛りのために現実世界から出ることの出来ない金田一を置き去りにして、ブラックロッジの扉はそっと開かれるのです
 
金田一耕助の探偵物語はそこで終わりますが、横溝正史もまたその見えざる世界の存在を示唆することこそが、作品の本来の目的だったのではないかと、つい想像を膨らませてしまいます、、、
 
映像化という形で、同じ物語が何度も何度も違う時代に違う人の手によって再現され続けるということは、パラレルワールドやドッペルゲンガーが無限にループしていると捉えることもできるでしょう
 
それはまさに「ツインピークス」と繋がる世界観です
 
今までは全く異なるジャンルと思っていた横溝とリンチに、意外な共通点がありそうだという思いつきは、自分でもちょっと驚きでした、、、
 
 
 
いやいや、でもまだわからない、、、
 
ぜんぜん見当違いなのかもしれない、、
 
 
とにかくまずはブラックロッジの謎を解かなければ、、、
 
 
 

 
〓ちん〓