ワールドカップ特集(笑)1:世界のメタファーとしてのサッカー | PAGES D'ECRITURE

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フランス語の勉強のために、フランスの雑誌 Le Nouvel Observateur や新聞の記事を日本語に訳して掲載していました。たまには、フランス語の記事と関係ないことも書きます。

しばらくの間、テレビを見る限りサッカーワールドカップの話題を目にしないことはできなさそうです。

サッカーに大して興味のない人間は、テレビから離れるいい機会かもしれません。

とはいえ、折角なので、別の意味でワールドカップに関連した記事を紹介しておきます。

1本目は、週刊誌 L'Obs の2018年6月7日(通巻2796)に掲載された LA FOLIE DU FOOT : UNE MÉTA-PHORE DU MONDE (サッカーの狂気:世界のメタファー) という記事です。




FOOT-METAPHOREDUMOND






LA FOLIE DU FOOT : UNE MÉTA­PHORE DU MONDE
PAR Daniel Cohen
Directeur du département d’économie de l’Ecole normale supérieure


ひと月の間、文字通りの意味で、世界中がサッカーワールドカップに釘付けになるだろう。フランスのブラジル戦勝利20周年記念が、68年5月革命50周年記念よりも、強さにおいて圧勝すると賭けてもよい。サッカーは、それが生み出す視聴者や選手の給料によって、現代世界の非常識( démesure )に見合って(à la mesure )いる。単純な統計を見ればサッカーが記録するインフレが理解できる。ネイマールはPSGのカタール人経営者にとって2億2000万ユーロかかった。史上最高のサッカー選手と考えられるペレは、ワールドカップでの最後のそして伝説の勝利の年である1970年に、現在の価値で1000万ユーロを得ただけだった… 20分の1に過ぎない! 

 リュック・アロンデルとリシャール・デュオトワの本が、この変異に関するせわしない物語を語る。二人の経済学者はパヴァロッティ効果と呼ぶ(そのパヴァロッティもトリノのユベントスの大サポーターだったが…)。あるオペラのCDを買わなければならないとしたら、最高の歌手のものを買うだろう。それは「勝者総取り Winner Takes All」と呼ばれる理論である。最優秀な者が賭け金の殆ど全てを掻っ攫い、2番目が残りを、以下続く。現代の不平等の素晴らしいメタファーだ。ヨーロッパのサッカーに関しては、1991年に選手の移動を自由化したボスマン判決が、優秀な選手を引き寄せるためのクラブ間の競争を先鋭化した。この判決は報酬のインフレを恐ろしく加速した。「ファイナンシャル・フェアプレー規則」はこの変化を弱めはしたが、ごく僅かに留まった。

 現代サッカーの中心的なパラドックスの理由を明らかにするのがこのメカニズムだ。選手は財を成すが、クラブの財政は悪化する! アロンデルとデュオトワは、スポーツの結果とクラブの金銭的成果とに統計的な相関は全くないことを示す… レアルマドリードの利益は4000万ユーロ「しか」なく、ネイマールの年俸の5分の1である。主要なクラブの大半は、金銭的な見返りを期待せずに多額の金を注ぎ込む大金持ちの個人によって所有されている。彼らは名声またはゲームに対する並外れた情熱のためにそうしているのであって、金を稼ぐためでは確実にない。サッカーは若者、殆どの場合は大衆階級出身が、億万長者の情熱狂的な同意のもとに彼らから強請り取る唯一の例である。

 選手と出資者の間の富の分配の問題は、それがサッカーそのものにもたらす影響に比べれば大したことはない。この点で、アメリカ合衆国との比較は衝撃的で逆説的だ。アメリカのスポーツリーグは全面的に規制されている。クラブの給与総額はリーグによって規定され、平等だ。クラブ間の競争ははるかに釣り合いが取れ、試合の質は極めて高い。ヨーロッパにはそのような規制をする手段を持てないように見える。そして、サッカーがメタファーとして最終的に際立つのはこの領域である。ヨーロッパの自己組織力のなさのメタファーとして。

L’OBS No 2796-07/06/2018


https://www.nouvelobs.com/chroniques/20180604.OBS7699/les-joueurs-gagnent-des-fortunes-mais-les-finances-des-clubs-sont-mauvaises-le-paradoxe-du-foot.html


著者にダニエル・コーエン (Daniel Cohen)氏の著書(共著)が、発売されていました。

未来を読む AIと格差は世界を滅ぼすか (PHP新書)/ジョーン・C・ウィリアムズ
¥950
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PHP新書というのが、どうも引っかかるので買わなかったのですが・・・


わざわざ「ワールドカップ特集(笑)1」というタイトルにした以上、2があるかもしれません。

2があるとすれば、独裁政権とワールドカップという内容です。

1934年のイタリアと、1978年のアルゼンチンに関して。

今回のワールドカップ開催国のロシアも、次回のカタールも(以下略)