1930年後半のアメリカに、フロイトの精神分析手法をマーケティング調査に持ちこんだディヒター。
アメリカの大企業に消費者の隠れたモチベーションと発見されたモチベーションに基づくマーケティング戦略を提供し続け、モチベーションリサーチの父と呼ばれるに至りました。


そのディヒターが、ニューロサイエンスの普及と共に、今日、再び注目を浴びています。
ディヒターに関しては、2011年12月17日のエコノミスト(英語)に詳しく述べられています。
http://www.economist.com/node/21541706/




虹なぜディヒターが今再び注目されるのか?


ニューロサイエンスは、どんな人がどんな反応をするのか、

非合理的で消費者本人も意識できない意思決定や心の動きを理解し、将来性を予測できますが、

なぜそのような脳の反応が起きるのかを語れません。
それゆえに、ディヒターの深層心理を表層化する調査手法が再び注目されるようになったようです。


アーネスト・ディヒターを代表する著書、The Strategy of Desire(英語版)は今でも入手できますが、
1964年に「欲望を創り出す戦略」という題名で多湖 輝先生によって翻訳出版された和書は、
今やアマゾンで20,750円という価格の中古本しか入手できません。


消費者の意思決定の非合理性が明らかになった今日において、数々の深層インタビューを通して得られた彼の知見が非常に有効であるはずなのに、「欲望を創り出す戦略」が入手困難なことを大変残念に思いました。


そこで、今日は、The Strategy of Desireの内容を少しご紹介することにします。

マーケターにとって、新しい洞察を得られる一冊であることは間違いありません。


虹The Strategy of Desireからの抜粋


1 モチベーションリサーチにおいて、リサーチャーの役割はメーカーと消費者の橋渡しである。
リサーチャーは人間戦略家(Human Strategist)であらねばならない。



2 調査には2通りある。

どの位多くの人が何をしたのかというファクトを理解する調査、
なぜそういった行動がとられたのかを明らかにする診断的調査(=モチベーションリサーチ)である。


人間の行動を予測し、適切な戦略を提供できるのが、診断的調査である。
状況を起こしている真実の理由が正しく理解できた時に、初めて何をすべきか(戦略)が決定できる。



3 調査を実施する前に、「調査結果からどういったアクションを起こせばよいのか」を
クライアントに提案することができるように、リサーチャーは調査で「何を知ればよいのか?」を自分自身に問いかけなければならない。



4 一見関係ないように見えることが、実は関係していることを見抜く力、新しい光をもたらす発見力がリサーチャーには必要である。 創造力はどの科学においても必要条件である。



5 購買行動を促進するのは消費者のエゴの充足の約束であり、純粋に製品の性能であることは少ない。 だからこそ、消費者のエゴ(隠されたニーズや羨望)を十分に理解しなければならない。



6 消費者が購入しているのは、潜在している心理的目標の達成、潜在ニーズや大切にしている価値体系のサポートである。 しかし消費者自身は潜在している目標やニーズや価値体系に気づけない。



7 人間のモチベーションは非合理的で、無意識で、本人にも理解できない。
非合理的要因が合理的要因を圧倒しているのだが、誰しもが、合理的人間として行動したいという欲求を持っており、自分の行動を他人にそして自らに対して合理的に説明しようとする。

非合理的な行動を指摘されることを嫌うし、行動の本当の理由について認めることを好まない。



8 人間はtension(精神的または感情的な緊張または不安の状態)が高まった時に行動する。
未充足ニーズが高まることなしに、人間は行動したり、考えたりすることはない。

tensionは、内的要因や外的要因、技術的要因や心理的要因など様々な要因が複雑に絡み合っている。
行動の源を理解するためには、様々な要因が考慮されなければならない。

殆どの行動の裏には、表面に出現している理由より、もっと深いところに潜在している人間のモチベーションがある。 適切なアプローチを使うことで、深い部分のモチベーションが明らかになる。



9 多くの調査から、モノがジェンダー(性)をもっていることが分かった。
製品やブランドは、私達が人間の質や特徴を考えるのと同様のパーソナリティをもっている。

モノの購入によって、私達のパーソナリティは豊かになる。
多くの場合、購入者のパーソナリティと製品やブランドのパーソナリティ間のマッチングによって、モノが購入されている。


モノには魂がある。人々は製品とのダイナミックな関係を楽しんでいる。
モノは、所有者をより強い人間に感じさせたり、所有者の劣等感を補ったりしながら、個人のパワーの拡張として機能している。 モノは自分のイメージを映し出す鏡ともなる。

特定の製品やサービスが、個人のパーソナリティにどう適合しているのか、個人の世界観でどのような役割を果たしているのかを理解する必要がある。
購入時のモチベーションを理解する上で、モノが人間の生活において何を意味するのかを理解しなければならない。



10 所有することで、新しい喜び、新しい知恵、新しい体験が生活に加わり、
自分の成長や自己実現に貢献する場合に、人は「購入すべき・購入してよかった」と考える。

心理を深く掘り下げていくことでわかったことは、
人々が本当に欲しているのは、今よりももっと実用的でもっと物質的価値のある製品ではなく、
数々の深層にある心理的目的を達成するのを手助けしてくれる製品である。

成功するには、表層的な満足感を与えるのではなく、今よりもっと生活の質を向上させる製品を提供することである。
「もっと」というのは、技術的向上だけでない。単に技術的な改善だけでは成功しない。
より豊かな心理的ベネフィットの提供があればこそ、技術的改善が受け入れられる。



11 行動は意識されていない感情によって誘導される。

潜在意識にある価値システム(それは理由であり非合理的に見える)に適合していない場合は、葛藤が生じる。



12 私達の行動の多くは、安定と変化の間で葛藤を起こす。行動の背景には変化への怖れが隠れている。
ある領域で速い変化に直面せざるを得ない場合、他の領域において変化しないものや伝統に強く固執することがある。 その領域における製品の場合、伝統的製品が好まれ、新しい製品が拒絶される。





虹The Strategy of Desireからの抜粋 デプスインタビューの原則について


1 車の調査をすると、多くの人が非常に長い時間をかけて、最初に所有した車について話をする。
最初の所有経験は、本人にとって感情的な意味合いが深い。
調査対象となるカテゴリーにおけるモノとの最初の出会いについて語ってもらうことは、特定の製品やサービスに関連する記憶や感情を呼び起こし、真実のフィーリングをより開放してもらうことに役立つ。



2 よかった経験と悪かった経験といったように極端に異なる経験を聞く。
熟考された、回答者のバイアスがかかった判断や意見を聞くのではなく、真実の感情を呼び起こしてもらい、真実の経験を話してもらう。



3 実際のイベントを語ってもらう。
家から戻って昨夜何をしたのか? 一番最近風邪をひいた時の様子をすべて話してほしいなど、状況をそのまま語ってもらう。
回答者に行動の理由を纏めてもらおうとすれば、彼らが普通や平均的と考えている解釈が含まれてしまい、真の理由が見えなくなる。

なぜ彼らがそうしたのか?という理由を決めるのは、人間のモチベーションを調査しているリサーチャーである。



4 感じたフィーリングについて聞く。
事務所にあるオフィス機器の中で最も価値があるのは何か?とか経済的なのは何か?といった質問をするのではなく、それぞれの機器に対してのフィーリングを聞いたり、それぞれの機器との体験を聞くのである。

「どの機器が回答者にとって一番意味があるのか?」「何がなくてはならない機器なのか?」という診断や、購入を動機づける真実の理由を診断をするのは、我々リサーチャーである。



5 あるアルコールブランドへの知覚を理解するために、上司が家にやってきた時の状況や、その時に出したアルコールブランドがいつも自分が飲んでいるブランドかを聞いた。
その話から、あるアルコールブランドをどう感じているのかという深層心理が理解できる。



6 簡単なガイダンスによって、ある課題についての感情を回答者に単に表現してもらうことによって、
すでに決められた選択肢から回答を選んでもらう調査方法より、より信頼のおける本当のモチベーションを引き出すことができる。
例えば、同僚の昇進について何とも思っていないと何度も回答していた人が、「全然気にしていない。ただもっとよい人間に昇進が起こらなかっただけのことだ」と発言した場合、彼は繰り返し述べていた発言と反対の気持ちを認めていることになる。
このような発言こそが、彼の本当の同僚への気持ちを理解する手掛かりとなる。
デプスインタビューにおいて、発言の全て、ジェスチャーの全て、イントネーションの全てを記録することがとても重要である。



7 車の調査をすると、多くの人が非常に長い時間をかけて、最初に所有した車について話をする。
回答者の自発的な話の中で、より多くの時間をかけている箇所は感情的な意味合いが深い。
質問に対して、声が大きくなったり、憤慨したり、驚いたり、回答者の感情の動きが、デプスインタビューでは明白な証拠となるので、感情を観察することだ。