今年の2月頃のことだったと思います。一般用医薬品を持参されての相談でした。

その一般用医薬品のパッケージの裏面に書かれている成分を確認すると[酸棗仁]、[知母]などの生薬名が確認できました。

[酸棗仁]が含まれている漢方薬はそれほど多くなく、おそらく【酸棗仁湯】ではないかと考えて調べたところ、やはり【酸棗仁湯】でした。

【酸棗仁湯】の構成は[酸棗仁][茯苓][甘草][知母][川芎]です。【酸棗仁湯】の一般用漢方薬を初めて見てビックリしました。

箱のJANを読んでみたところ、登録がない商品でした。無いものは仕方がないので、【加味帰脾湯】を勧めたんですが、「これだと途中で目が醒めてしまう」とのことで、却下されてしまいました。

結局、初めからお持ちいただいていた不眠のファーストチョイス薬ともいわれる【柴胡加竜骨牡蠣湯】と【桂枝茯苓丸】を買って帰られました。

【酸棗仁湯】は帰脾湯の基本になった漢方薬で、出典は『金匱要略』で、「虚労、虚煩して眠るを得ざるは酸棗仁湯之を主る」と記述があります。

構成生薬 酸棗仁15.0 茯苓3.0 甘草1.5 知母3.0 川芎3.0

各生薬の働きは次の通りです。
[酸棗仁](大棗の種子)が精神不安、動悸、焦躁感などを改善。
[茯苓]が脾胃を補うことで精神を安定させ、[甘草]との組合わせで、不眠・心悸亢進・精心不安などを治すします。[甘草]が補気作用を現すと共に諸薬の作用を増強し調和させます。[知母]が胸部の熱を冷まし、煩悶感を緩和させます。そして[川芎]が気血をめぐらせるます。


この【酸棗仁湯】ですが、クヨクヨ考えて良く眠れないという方や疲れ過ぎてしまって良く眠れない方に向くそうです。

また、今年の5月中旬頃の話です。不眠で悩んでいらっしゃる女性の相談を受ける機会がありました。

この方は、失敗が許されないという仕事をされているとのことで、常に緊張感があるとのことでした。

そしてその他にも聞いたところ、
①物事をクヨクヨ考えてしまう
②イライラはない
③緊張すると心臓がドキドキする
とのことでした。

すでに当店においてある、【抑肝散加芍薬黄連】を服用したそうですが不眠に対する効き目が今一つだったとのことで、他によい漢方薬はありませんかという相談でした。

当店はドラッグストアで一般用の漢方薬のみの取り扱いです。このため手持ちの漢方薬が限られます。医療用のエキス剤があればなぁ、ということもしばしばあります。

今回も①から【酸棗仁湯】があればなぁと思いました。なぜなら、【酸棗仁湯】はクヨクヨ考えてしまう方の不眠に良いとされているからです。

しかし、手持ちの漢方薬に【加味帰脾湯】があります。これは【帰脾湯】に清熱薬を加えた漢方薬ですが、【帰脾湯】は【酸棗仁湯】と【四君子湯】の方意が含まれています。

【四君子湯】は気虚の漢方薬。気虚とはため息をつくような状況です。

このお客様は、納得されて買ってくださいました。

そして数日後、そのお客さんが来店されました。手には【加味帰脾湯】と【抑肝散加芍薬黄連】を持っていました。

伺ったところ、【加味帰脾湯】を飲んで見たところ、クヨクヨ考えることはなくなったとのことでした。それで眠れる様になったのですが、ドキドキ感はなくならなかったので【抑肝散加芍薬黄連】を飲んでますとのこと。凄く感謝されました。

【加味帰脾湯】がこんなに効くとは思いませんでした。肯定的なことしか言わなかったのでプラセボ効果もあったのかも知れませんが、治れば良いと思いました。

自分はこのような形で漢方薬の効き方の報告を受けて、大変嬉しかったです。

これがあるからこそ、この仕事はやめられないと思った次第です。こういうささやかな事例を灯火にしてこれからも精進することとします。